2022 年 98 巻 1 号 p. 1-24
「電産型賃金体系」は,「生活給賃金体系の典型」といわれ,戦後日本における年功給の出発点として高く評価されている。しかし,電産賃金体系は,「生活保証給」と「能力給」による併存型体系である。すなわち,能力給の活用を当初から意図して構想した体系であった。月例賃金の約80%を生活保証給などが占める平均的構成割合のみをもって,生活給賃金体系の典型であるとみなす通説的な見解が定着したように思われてならない。
実証的な検討・分析に基づき,電産賃金体系における能力給の重要性に注目しつつ,本稿では能力給が労働者の賃金を刺激し労働者の昇進を動機づける機能を十分にもっていたことを明らかにする。電産賃金体系の性格を決定するのは能力給である。労務管理の視点から,私は,生活給賃金体系は電産賃金体系の決定的要素として適当でないことを強調したい。