2025 年 17 巻 p. 73-89
本稿の目的は、障害の社会モデルに関する理解を精査することを通じて、障害学と批判的犯罪学の対話可能性を検討することである。近年、犯罪(者)に対する社会の理解や支援を求めるような安易で表層的な社会モデル受容とは別に、日本の批判的犯罪学において社会モデルを本格的に再評価する議論が登場している。そこで は、現行の社会構造に対する批判的視座と問題の個人化を拒絶する立場を共有したうえで、犯罪に対する負の価値づけが避けられない点が限界として捉えられている。しかし、障害分野においても、ディスアビリティの問題系において社会批判の視点が徹底しているように見えるのに対して、ディスオーダーの問題系では社会システムとの緊張関係が争点化しやすく、社会批判の射程に留保がつけられることが多い。つまり、ディスオーダーの問題系に焦点化する限り、社会モデルの全面的な適用が困難である点で、障害研究も犯罪研究も共通の問題に直面する。これを踏まえると、①秩序維持の要求を相対化し拒絶しうる地点を見極め、社会モデルの拡張可能性を探求すること、②ハーム概念をはじめ、マジョリティ−マイノリティの不均衡な権力配置や利益配分を問題化する理論的装置を発展させること等は、両学問の共通の課題であり、対話のフィールドである。