2025 年 17 巻 p. 142-157
本稿では、近年の英語圏で活発化している立ち退き研究のレビューを行う。立ち退きは、居住の不安定化を招き、貧困や不平等とも関連する住宅問題であるが、日本語圏ではこれまで体系的に捉えられてこなかった。そこで本稿では、とくに立ち退きの規模や影響を測定する定量的アプローチに焦点をあて、近年展開されている 議論と主要な調査方法を検討する。
第1に、近年英語圏(米国・欧州諸国)で出版された先行研究を紹介し、それらの知見が各国の都市近隣の貧困・不平等を再生産するメカニズムとしての立ち退きのあり様を明らかにしてきたことを示す。第2に、立ち退きの測定に伴うカテゴリー化の問題を考察しつつ、先行研究が、様々な立ち退きや居住移動のなかから、不安定居住に関連する立ち退きの側面を析出するために発展させてきたいくつかのカテゴリーを概観する。第3に、近年の定量的研究に基づき、立ち退きの測定において、主に2つのアプローチ(裁判記録調査および「転居の理由」に基づく調査票調査)が使用されていることを示す。
以上を踏まえ、さいごに海外の立ち退き研究との接続が日本語圏にもたらす意義と可能性について論じる。日本での立ち退き調査の進展は、低所得層・マイノリティの直面する住宅問題に示唆を与えるだけでなく、日本語圏ですでに発展している研究潮流(ホームレス研究・都市の不平等に関する研究)のさらなる活性化につながる可能性がある。