2012 年 5 巻 p. 2-23
本論文では、「家族ケアを行なう子ども(youngcarer)」に関するイギリスの研究をふまえ、子どもの頃に親が病気を発症し数年のうちに早い展開を見せた3つのケースを論じる。論文の前半では、イギリスのヤングケアラー調査や支援について紹介し、日本の先行研究を概観する。後半では、ヤングケアリング経験を持つ人と持たなかった人の語りを分析し、理論的考察を行なう。
親の心身の状況が大きく変化するケースでは、その対応の過程において、その家族の持つ資源や子どもの年齢などの要素が鮮明に現れる。家族間で既にケア役割や経済的側面が調整されていた場合や、サポート可能な親族が近くにいた場合には、親の病気によって生じる変化は小さい。子どもの取れる選択の幅は、危機的状況発生時の年齢やジェンダーなどで決まってくるが、子どもにかかるケア負担を軽減する要因としては、「障害や病気を持つ親の『できること』」、「その家庭のケアを実際に行なう人の存在」、「病気や障害のある人と子どもとの物理的な距離」、「親の意向」などがある。しかし、子どもの「ケアする権利」「ケアしない権利」は、ケアに関わる大人の権利よりも、守られにくい構造にある。家族ケアを行なう子どもという存在は、親が子どもをケアし、非障害者が障害者をケアするとされてきた、従来のケアの方向性を問う。こうしたヤングケアラーへの承認と支援は、地域における支え合いを可能にするための、より細やかな工夫の実現につながっている。