2016 年 9 巻 p. 92-107
本稿は、2つのアートイベントにおける筆者の一参加者としての経験をふり返り、アーティストの制作過程を考察しながら、イベントで行なわれていたことや参加者が経験したことの意味を考えるものである。またそれを通してアートから何を学べるのかを考えるものである。呉夏枝とアーロン・ヒューズによるイベントはどちらも、参加者が物を通して個人的なことを語り合い、易しい作業を協働で行なうものだった。本稿はその過程が、参加者が自分の「記憶」や「物語」を見直したり、他の時代や他の場所で生きてきた人々の暮らしや思いの存在を想像したりする場であったことを明らかにする。また、そのようなイベントの背景として、在日三世である呉と、イラク戦争に従軍した元アメリカ軍兵士であるヒューズのアーティストとしての制作過程をそれぞれ考察し、2人もまた移住や戦争の経験をしたさまざまな人々の暮らしや思いの存在を想像しながら制作してきたことを述べていく。そしてイベントが参加者にとって、自分たちとその場が他者と世界の関係のなかに置き直されていくような経験をする場であったこと、それをひとつの〈移動の経験〉として捉え得ることを述べていきたい。