岩手医科大学歯学雑誌
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総説
ヒト口腔扁平上皮癌細胞HSC-4 における細胞遊走・浸潤能に 関与するTGF-β1 誘導性上皮間葉転換の分子機構
加茂 政晴齋藤 大嗣樋野 雅文千葉 高大山田 浩之石崎 明
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2018 年 43 巻 2 号 p. 107-121

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抄録

口腔癌細胞の浸潤の基礎をなしている分子機構は,依然として明らかでない.この総説では,ヒト口腔扁平上皮癌(hOSCC)細胞におけるTGF-β1 により誘導された上皮間葉転換(EMT)と,EMT 関連の遊走能と浸潤能に関する分子機構について解説する.まず TGF-βがhOSCC 細胞の上皮間葉転換(EMT)を誘導し細胞遊走能および浸潤能を促進するかどうか調べた.6 種類のhOSCC 細胞の間で,Smad2 リン酸化とTGF-βの標的遺伝子の発現からHSC-4 細胞がTGF-β1 に最も反応したことを示した.HSC-4 細胞ではEMT 関連の転写因子であるSlug の発現はTGF-β1 刺激により上昇し,Slug のノックダウンにより間葉マーカーの発現及び細胞遊走を阻害された.また,TGF-β1 刺激により細胞遊走に重要な働きを示すFocal adhesion kinase(FAK)を活性化するIntegrin α3β1 の結合タンパク質の発現が増大することが見出された.加えて,FAK阻害剤が細胞遊走を抑制したことから,EMT及びintegrin α3β1/FAK 経路を介した細胞遊走は,Slug により上方制御されていたことが判明した.

一方,TGF-β1 刺激によりmatrix metalloproteinase-10(MMP-10)の発現上昇が見出され,浸潤能がMMP-1 のノックダウンにより阻害された.また,Slug のノックダウンはMMP-10 の発現を抑制した.従って,TGF-β1 がSlug 依存的にMMP-10 の発現増大を介してHSC-4 細胞の浸潤を誘導することが示された.一方,Slug のノックダウンはWnt-5b 発現を抑制した.加えて,Wnt-5b 刺激によりMMP-10 の発現が増大することや,Wnt-5b のノックダウンによりこの細胞の浸潤能が抑制されることから,108 加茂 政晴,齋藤 大嗣,樋野 雅文,千葉 高大,山田 浩之,石崎明 Wnt-5b を介したシグナルによるMMP-10 の発現増大と浸潤能の増大が示された.

これらの研究成果より,TGF-β1 はSlug/ α3Β1/FAK やSlug/Wnt-5b/MMP-10 シグナル伝達系を介してhOSCC 細胞の遊走能や浸潤能を増大することが示唆された.

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2018 岩手医科大学歯学会
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