岩手医科大学歯学雑誌
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研究
化学療法中の唾液及び末梢血中白血球量の変動と 口腔粘膜炎発症の関連
-臨床的縦断研究-
杉山 由紀子小宅 達郎帖佐 直幸佐藤 華子阿部 晶子岸 光男
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2022 年 47 巻 1 号 p. 1-18

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抄録

背景:口腔粘膜炎は化学療法を受ける患者に最も多く見られる有害事象である.口腔粘膜の健康維持に唾液白血球が寄与していることは広く知られているが,化学療法中の患者に発生する口腔粘膜炎との関連は不明である.

目的:予備的研究として,市販の検査装置(SillHa,アークレイ,日本)を用いて健康なボランティアを対象に,唾液中白血球測定の信頼性と適用性を検討した.引き続き行ったその検査装置を用いた臨床観察研究において,化学療法患者における口腔粘膜炎の発生と唾液および末梢血の白血球レベルの変化との関連を明らかにすることを主な目的とした.

方法:市販の検査機器として,SillHa(アークレイ,日本)を使用した.健康な成人ボランティア50 名から唾液サンプルを採取し,サンプル中の白血球量をSillHa とフローサイトメトリーによるCD45 陽性細胞数の両方で計測した.その後,化学療法中の口腔粘膜炎の発生を主要評価項目とした臨床的縦断研究を行った.岩手医科大学附属病院で化学療法を受けた患者31 名が,匿名での調査結果の使用に同意の上,研究に参加した.参加者の属性,生活習慣,原疾患の治療歴などの情報は診療録から入手した.化学療法開始前(ベースライン)に口腔内検査を実施した.唾液および末梢血中の白血球量は約2日ごとに測定した.本研究は,観察研究の報告に関するヘルシンキ宣言とSTROBE声明に従った.

結果:SillHa とフローサイトメトリーによる測定値の相関係数は高い値を示した(r=0.818, p<0.001).化学療法を受けた患者において,観察期間中,41.9%の者に口腔粘膜炎が発生した.本研究で解析したデータのうち,口腔粘膜炎の発生と最も関連性が高かったのは,唾液中の白血球が最も少なくなった日から,ベースラインの50%以上に回復するまでの日数であった.また,ROC 分析では,曲線下面積 は 0.771 であり,口腔粘膜炎発症の有無の識別能力が高いことが示された.

結論:本結果から,市販の検査機器を用いて測定した唾液中白血球量の変化が,化学療法を受けている患者の口腔粘膜炎発症の予測に有用であることが示された.

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2022 岩手医科大学歯学会
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