伊豆沼・内沼研究報告
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埼玉県元荒川の天然記念物指定区間外における絶滅危惧種ムサシトミヨの生息状況
梅澤 和也角田 裕志
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2024 年 18 巻 p. 93-105

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抄録

トゲウオ目トゲウオ科トミヨ属の淡水魚であるムサシトミヨ(Pungitius sp.)は環境省のレッドリストにおいて絶滅危惧IA 類に掲載されている.本種は湧水の枯渇や生活排水流入による水質汚染によって多くの地域で絶滅し,現在は埼玉県熊谷市の元荒川上流域の流程約2km にのみ自然分布する.県条例による県内希少野生動植物種の指定と主要生息地の天然記念物指定によって保護が図られているが,天然記念物指定区間外では生息範囲の縮小が懸念されている.そこで,本研究は天然記念物指定区間外においてムサシトミヨの生息状況に関する通年調査を行い,天然記念物指定区間からの流程や水路の物理環境の違いがムサシトミヨの生息状況に与える影響について検討した.県にあらかじめ通知したうえで,2022 年5 月から2023 年4 月にかけて天然記念物区間外の下流側に設定した3 ヶ所の調査区間(延長25m)においてムサシトミヨの採捕調査と生息環境調査を毎月2 回の頻度で実施した.その結果,汲み上げた地下水を水源とする流入水路との合流点に比較的近く,多様な水生植物が生息する調査地点でムサシトミヨが通年採捕されたことから,安定的に生息する可能性が考えられた.この場所は年間を通して水温,水深,流速が比較的安定しており,天敵となる外来種アメリカザリガニ(Procambarus clarkii)の生息数も相対的に少なかったことから,ムサシトミヨの生息や営巣にとって好適な環境が維持されていると考えられた.

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© 2024 公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
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