東アジアを中心に分布するカワリヌマエビ属Neocaridinaは,すべてが淡水性の陸封種とされており,西日本の本州,四国,九州には,ミナミヌマエビN. denticulata(De Haan 1844)が自然分布するとされている.一方,ミナミヌマエビの近縁種であるシナヌマエビN. davidi(Bouvier 1904)が近年国内へ侵入し,在来の淡水ヌマエビ類と置き換わりつつあることが知られている.本州中部の濃尾平野は,ミナミヌマエビの在来分布域の可能性があると考えられてきたが,この地方におけるカワリヌマエビ属の種をmtDNAと形態形質にもとづいて調査した研究は非常に限られている.そこで,本研究では濃尾平野の河川・用水路41地点でカワリヌマエビ属を採集し,mtDNAの系統解析および形態形質の測定を行った.採集された271個体について,mtDNAのCOI領域の系統解析を行った結果,ミナミヌマエビ2系統(近畿系統と九州系統)とシナヌマエビ2系統(クレードAとB)の4系統が濃尾平野に分布することが示された.九州系統のミナミヌマエビは濃尾平野西部で確認され,10地点49個体すべてが同一のハプロタイプであった.近畿系統のミナミヌマエビは濃尾平野東部7地点と西部1地点から30個体が確認された.シナヌマエビは濃尾平野の広域で確認され(32地点192個体),クレードAは濃尾平野の北部に偏って分布するのに対して,クレードBは濃尾平野全体に広く見られた.また,ミナミヌマエビとシナヌマエビが同所的に確認されたのは9地点であった.形態形質として,額角に欠損が見られなかった雄239個体について,眼窩甲長CL,額角長RL,額角上縁歯数RTを測定した.mtDNA解析の結果を基に,ミナミヌマエビとシナヌマエビに分けてRL/CL比とRTを比較した結果,両形質ともにミナミヌマエビとシナヌマエビの間で有意差が認められ(P<0.01),ミナミヌマエビはシナヌマエビと比較して額角が長く,額角上縁歯数が少ない傾向にあった.同所的生息地のミナミヌマエビとシナヌマエビの間でもRL/CL比に有意差が確認されたことから,両種の交雑は制限されていると考えられた.ただし,どちらの形質も両種の間で値が大きく重複しており,種同定には遺伝的解析が必要と考えられた.
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