絶滅危惧種シナイモツゴPseudorasbora pumila の大規模な生息地である長野県長野市のため池群は,数百におよぶため池のうちおよそ4 割が管理放棄されており,今後,急速に荒廃することが予測されている.過去の調査(1996–2010年)でシナイモツゴが確認されていた33 ヶ所を含む計36 ヶ所のため池を対象に,本種ならびに外来種の分布状況や,ため池の管理状況等の8 項目を調査した.その結果,シナイモツゴの生息が再度確認されたため池は27ヶ所にとどまった一方,新たに2ヶ所のため池で本種が発見され,本種が生息する池は合計29 ヶ所となった.本種の生息を確認できず局所絶滅したと考えられた池は,生息を確認できた池と比較して管理放棄されていた傾向が高かった.本種が生息する多数の池を効率的に保全するため,上記8 項目を用い,保全優先順位の決定を試みた.各個体群の重要性と保全対策の緊急性の観点から評価したところ,1 位から9 位の優先順位を設定することができた.この優先順位に応じて,モニタリング調査の頻度,放棄ため池の管理,改修工事の施工などの保全コストを配分するのが効率的だと考えた.高齢化の進行した本地域においては,希少種の保全を地域内で解決することはますます困難になると考えられる.地域住民だけでなく都市生活者を含めた幅広いステークホルダーに,営農と希少種保全の関係について知見を共有しながら,長期的視野に立った新しいため池管理体制を構築することが重要であると考えられる.
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