会計プログレス
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IFRS任意適用企業の特性
金 鐘勲中野 貴之成岡 浩一
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2019 年 2019 巻 20 号 p. 78-94

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抄録

 本研究は,IFRS(国際会計基準)の任意適用を選択した企業の特性を,同適用前と適用後に分けた分析を行うことにより,日本企業によるIFRS適用の動機と効果を解明する。なお,ここにIFRS適用の効果とは所有構造の変化,すなわち国内基準からグローバル基準への変更に伴い企業と投資家との関係性に何らかの変化が生じるか否かという点に焦点を当てる。
 本研究では,第一にIFRSの任意適用の動機として,①国内外の投資家の注目度が大きい,②IFRSと日本基準の差異が財務諸表数値に及ぼす影響度が大きい,および,③親子上場の下で親会社がIFRSを適用する場合に,同適用に踏み切る傾向が強い,第二に同適用の効果として,IFRS適用企業は,適用前から適用後にかけて,投資家との対話阻害要因を軽減する,すなわち持ち合い関係(政策保有株式)の縮減に取り組む,という事前に予想した仮説に整合する証拠を得た。
 本研究の重要な貢献は,IFRS任意適用企業は,同適用後,投資家との対話阻害要因を軽減すべく,持ち合い関係を主体的に解消していることを示唆する証拠を,日本特有の文脈をも十分に踏まえながら,はじめて見出したことである。また,従来,任意適用の動機として海外投資家への対応が指摘されてきたが,実は,海外のみならず,国内外の投資家全体の注目度が大きいほど任意適用に動機づけられることを証拠づけた点も,これまでのIFRS適用研究に対する本研究の貢献である。
 これらの証拠は,IFRS適用企業は証券市場と協調し投資家との対話に主体的に取り組む傾向が強いのに対して,同非適用企業は必ずしもその必要性が大きくないことを示唆するものである。IFRS適用企業と非適用企業の間にこうした本質的な相違点があるとすれば,IFRSの強制適用のみを議論するのは効果的ではなく,同強制適用は近年進められてきているコーポレート・ガバナンス,ディスクロージャー制度,および,証券市場の改革等の施策と一体的に議論されるべき課題であることを示唆している。

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© 2019 日本会計研究学会
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