抄録
本稿は,1930年代前半に日本興業銀行(以下,興銀とよぶ)から役員を派遣された企業(以下,派遣先企業とよぶ)において,減価償却がどのように変化したのかを明らかにしている。新聞・雑誌から,興銀は鉄道会社・電力会社などの非財閥企業14社に対して,役員を派遣したことが確認できる。派遣先企業では,興銀の役員派遣を契機として, (1)継続的な減価償却の開始,(2)減価償却額の増加と利益償却率及び総資産償却率の上昇,(3)派遣1 期後における多額の減価償却の計上,(4)償却対象の拡大が見られた。この1930年代前半の派遣先企業における減価償却の変化は,(1)債権者の存在による減価償却の促進によるものであり,(2)企業の減価償却に対する認識が変化していったことを意味している。