抄録
本稿は,のれんの減損に関連する監査上の主要な検討事項(Key Audit Matters:KAM)の選定(以下,GWIKAM選定)が,のれんの減損損失の認識における経営者の裁量的行動(以下,のれんの減損に関する裁量的行動)に与える影響を実証的に分析した。その結果,監査人によってGWIKAM選定された場合,①利益平準化,②経営者交代,③高い業績連動報酬を動機とする,のれんの減損に関する裁量的行動が抑制されることが明らかとなった。この抑制効果は,連続してGWIKAM選定された場合にも観測される一方で,GWIKAM選定が解除されると消失することも確認された。本稿の発見は,のれんの減損損失の適正な認識を促進するための監査上の取り組みに重要な示唆を提供し,KAMの選定効果について参考となる実証的証拠を示すものである。