抄録
本稿の目的は,株主利益と社会的利益の関係が企業報告に及ぼす影響を理論的に検討することにある。具体的には,IFRS サステナビリティ開示基準(ISSB 基準)と欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)を比較し,重要性(マテリアリティ)と接続性(コネクティビティ)の相違を通じて,両者の背後にある企業目的観を分析する。ISSB 基準は財務マテリアリティに基づき投資家を主たる利用者とする点で啓発的ステークホルダー主義と整合し,ESRS はダブル・マテリアリティを採用し,より広範なステークホルダーを利用者とする点で多元的ステークホルダー主義と整合する。さらに,英国におけるFRC(2020)およびCLLS(2021)の議論を参照し,企業報告設計の理念的差異を整理する。結論として,サステナビリティ開示基準および企業報告設計にみられる相違は,企業目的観の差異を反映していることを示した。