抄録
日本におけるスタートアップ育成の促進において,監査法人よるIPO 監査が担う役割は極めて大きい。スタートアップにとって,特有の成長スピードを維持しながら中長期的に継続した事業成長を実現しようとすると,IPO による資金調達や信用力の獲得等の効果は必要な手段となる。一方で,スタートアップが早期のIPO に向けて,上場企業として求められる盤石な会計管理制度の構築を短期間で行うことは,時間的制約だけでなく人材確保の観点からも一定の困難性を伴う。また,それをリードする経営者において,会計に対する誠実性が疑われる場合,重大な会計不正へと繋がる可能性も示唆される。IPO 監査を行う監査法人は,そういった状況を踏まえながら,スタートアップ特有の新規性の高い事業内容も十分に理解した上で,高い監査リスクを適切に評価し対応手続を実行することになる。本稿の目的は,このようなスタートアップのIPO 監査の特性を踏まえ,昨今の実務における課題とその背景を明らかにし,想定される実務的な処方箋の方向性について報告することにある。