抄録
本稿では第一にスタートアップの事業上のリスクに焦点をあて,成長ステージごとの事業上のリスクの変化,および当該変化を前提としたガバナンスおよび監査における課題について検討する。成長ステージの初期段階においてスタートアップは,ビジネス・シーズあるいはアウトプットにいかに革新性を持たせるか,が重要な事業上の課題となる。一方で革新性が高いアウトプットが市場で受け入れられるためには,組織学習を伴う知識吸収能力が必要となる。ここで起業家が有するビ
ジネス・シーズの革新性は,外部の利害関係者との間の情報の非対称性を拡大させる可能性があるとともに,スタートアップの事業戦略如何によっては重大なリスクにもなりうる。これらを前提とした場合,成長段階の初期におけるコーポレート・ガバナンス上の課題は,新たな知識・技術の吸収を可能とする機能を高め戦略的なサポートを行うことにある。一方成長段階が進むにつれて,脆弱なモニタリング体制を強固なものとして再構築し,透明性と説明責任を高めるための機能を強化する必要がある。ここで,現在の新興市場向けの上場制度は,成長初期段階にあるスタートアップと投資家との間の情報の非対称性を解消するための仕組みを備えている。一方で内部統制監査等を通じて財務報告の信頼性を担保し,これに基づいてスタートアップと投資家とのコミュニケーションを促進する,といった建て付けにはなっていない。