生命倫理
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疑わしき場合は胚の利益のために
盛永 審一郎
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2003 年 13 巻 1 号 p. 4-11

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抄録
この論文では、第一に、現代の倫理的状況について概観し、それを「価値真空状態」、「集団的行為」、「抽象性のはき違いという誤謬」として特徴づけた。第二に、巨大テクノシステムと市場経済が支配する時代においては具体的人間性に欠けた精神が支配しているということ、必要なのは、他人の安全や幸福に対して関与し、自己のものとして関わり、身代わりとして共感的に関わる共同責任だということをH・レンクにしたがって考察した。レンクはそれをIn dubio pro humanitas concretaという命題にまとめている。第3に、人間の胚は治療法の開発という研究目的のためなら利用することは許されるのか、という問題を考察した。そもそも「胚」は人間の尊厳を持つのだろうか。この問いに対して有力な議論として登場してきたのが、間接的議論としてのNIP議論とメタ議論としての用心議論Vorsichtsargumentである。これらの議論を紹介し、In dubio pro embryoneをわれわれの時代の真理としたい。
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2003 日本生命倫理学会
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