生命倫理
Online ISSN : 2189-695X
Print ISSN : 1343-4063
ISSN-L : 1343-4063
最新号
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
目次
巻頭言
依頼論文
  • -配慮と対話の交錯-
    川端 美季, 美馬 達哉, Miki KAWABATA, Tatsuya MIMA
    2025 年35 巻1 号 p. 4-12
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2026/03/23
    ジャーナル フリー

     本報告は、第36回日本生命倫理学会におけるシンポジウム「生命倫理学と障害者差別の解消:配慮と対話の交錯」の報告をもとに、障害者差別の解消に向けた合理的配慮の理念とその実践上の課題を多角的に考察するものである。松井彰彦氏は、社会の慣習や規範が障害を形成する構造をゲーム理論の視点から論じ、合理的配慮を社会のルールの再設計として捉え直す必要性を指摘した。稲原美苗氏は、障害のある当事者としての現象学的経験に基づき、大学における支援体制の課題と、当事者との対話による支援設計の重要性を提起した。障害を社会モデルの観点から捉え、当事者との対話を通じて合理的配慮や支援の枠組みを再構築していくことが、インクルーシブで持続可能な共生社会の実現にとって不可欠であることが示された。こうした点を踏まえ大学が地域と連携し、全構成員を対象とした包摂的な支援体制を構築することの重要性も論じた。

原著論文
  • -共同意思決定への示唆-
    宇野澤 千尋, 鶴若 麻理, Chihiro UNOZAWA, Mari TSURUWAKA
    2025 年35 巻1 号 p. 13-22
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2026/03/23
    ジャーナル フリー

    目的:透析導入の意思決定プロセスにおいて、患者が医療者と「話し合った」と捉えた場面を通じて、透析患者が捉える「話し合い」の要素を明らかにし、患者を中心に据えた話し合いや共同意思決定を進める上での示唆を得ること。 方法:透析患者34名に半構造化インタビューを行い、テーマ分析を用いて患者が捉える医療者との「話し合い」の要素を抽出した。 結果:患者が捉える「話し合い」の要素として、【相互の作用】【自分の能動性】【医療者による対応】【医療者の態度】【決断すべき時期】【環境】【内容】の7つが抽出された。患者にとっての「話し合い」は、相互的な関わりや自身の能動的参加、そして医療者が人間性を持って患者の期待に応じることで、成立することが示された。また、「話し合い」はプロセスではなく、透析導入を決断すべき一時点として捉えられていた。 結論:透析導入の意思決定プロセスにおいては、患者の心情面での理解や共感を含む「話し合い」やSDMのあり方を再考し、患者にとってよりよい意思決定の再構築が求められる。

報告論文
  • -コロナ禍以前の国際的議論を読み解く-
    松井 健志, 山本 圭一郎, Kenji MATSUI, Keiichiro YAMAMOTO
    2025 年35 巻1 号 p. 23-33
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2026/03/23
    ジャーナル フリー

     将来のパンデミック等の発生に向けた迅速なワクチン開発体制の整備に向けた議論が国内でも進む中、その戦略の一つとして「人感染チャレンジ試験(HCT)」が注目されている。ワクチン開発におけるHCTは、開発途上のワクチン候補を被験者に接種した上で、病原体に感染させてワクチン候補の効果を検証する試験であり、通常の臨床試験にはないワクチン開発上の利点を有しているとされる。日本での実施体制は整っていないものの、海外では一定の実施経験が積まれてきており、2019年末に始まる今回のSARS-CoV-2によるコロナ禍においても、英国で2つのHCTが実行された。一方で、HCTは意図的な感染実験かつ一般にリスクの高い研究とされており、当時の米国では倫理的正当化が困難である等を理由に実行が見送られた。本論では、日本でもその実施体制の整備に向けた検討が始まっているHCTについて、今回のコロナ禍以前より蓄積されたHCTを巡る国際的議論を俯瞰・整理して、今コロナ禍を境としてHCTの今後の在り方を考える上で注意すべき倫理的課題を浮き彫りにすることを試みた。この試みからは、今コロナ禍以前におけるHCTを巡る倫理的議論の殆どは、今コロナ禍でのような、確立した治療法も無く、非常にリスクと不確実性が高い病原体におけるHCTの検討にはあまり有効ではなく、従ってまた、今コロナ禍以前の議論だけに基づいて今後のHCTの在り方について判断していくことの危険性が明らかとなった。

  • 横山 尊, Takashi YOKOYAMA
    2025 年35 巻1 号 p. 34-42
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2026/03/23
    ジャーナル フリー

     本稿は、優生保護法指定医団体の日本母性保護医協会が、同法下の優生手術に果たした役割を示す。日本母性保護医会( 現・日本産婦人科医会) は、1948年制定の優生保護法第12条に基づく指定医師の団体として、49年に結成された。会長は熊本出身の産婦人科医、参議院議員の谷口弥三郎だった。2018年以降、優生保護法の強制不妊手術に対する裁判以降、関連する言論や検証も増えた。それに対し、本稿は、日母抜きで優生保護法体制を語ることへの根本的違和感を表明する。『母性保護医報』をたどれば、谷口と日母が同法成立以後、議員立法と指定医制度を背景に同法の改正と運用を主導する位置にあったことは明白である。谷口は日母での意見も交えて1950年代の国会で再三、優生手術の徹底を厚生省に要求した。日母全体でも精神薄弱者などの優生手術の徹底を支持し、精神科医や刑務所医官の不熱心を非難した。現在も優生保護法で産婦人科医が果たした役割の検証は全く不十分である。本稿はその状況の改善に寄与したい。

  • -高校生調査に関する一考察-
    丸山 マサ美, 菊地 君与, 中山 杏, 一ノ瀬 なな, Masami MARUYAMA, Kimiyo KIKUCHI, Anzu NAK ...
    2025 年35 巻1 号 p. 43-52
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2026/03/23
    ジャーナル フリー

     本研究は、高校生の死生観に関する理解を深め、自身および家族が病気になった際の病名告知希望とその理由を、地域および性別の観点から比較することを目的とした。2023年5月にA県およびB県の高校2年生理系クラス各100名を対象に、死生観調査票(Maruyama et al., 2000)を用いて質問紙調査を実施した。病名告知の希望理由について、「権利」「準備」「家族」「自己選択」「信頼」の5要因に注目し、告知を望まない場合は「見ることを望まない」「見られること」「見られた後」「配慮」「察する」の5要因に焦点を当てた。結果、告知希望の有無に地域間で有意差は見られなかったが、告知を望む理由では「自己選択」の要因がB県でA県よりも有意に高かった。A県では、女子が男子よりも「準備」「家族」の要因で自分への告知を望む傾向が見られ、B県でも「準備」要因で女子の方が高かった。また、家族への告知理由としては、A県では「準備」の要因がB県よりも高く、B県では男子が「権利」、女子が「準備」を重視する傾向があった。これらの結果から、病名告知の希望理由には地域や性別による違いがあることが示唆された。

  • 松﨑 友美, 松本 暁子, 梶谷 篤, Yumi MATSUZAKI, Akiko MATSUMOTO, Atsushi KAJITANI
    2025 年35 巻1 号 p. 53-62
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2026/03/23
    ジャーナル フリー

     近年、人を対象とする研究は、工学系や人文科学系など非医学系の研究機関においても広く実施されるようになっているが、実際には「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」の理解が不十分で、医学系研究の実施経験が乏しい研究者もいる。倫理指針への重大な不適合が発生した場合には、研究者個人に止まらず研究機関の信頼にも関わる大きな問題となるが、既存のe-learningや医学機関主催の倫理講習会等は、医療系研究者向けに作成されており、非医学系研究機関に所属する研究者には馴染みにくいものが多い。そこで我々は、非医学系研究者向けの人対象研究倫理教育プログラムを作成し、研究不正に対する受講者の意識変化を分析し効果を検証した。何が研究不正や倫理指針違反にあたるかを考えさせる実例提示と、議論を中心としたアクティブ・ラーニング型の研修により、受講者の理解を深め当事者意識を向上させるという成果が得られ、効果的な教育方法と考えられた。

  • -妊婦のリスク/利益の観点から-
    高井 ゆと里, 川崎 唯史, 山本 圭一郎, 松井 健志, Yutori TAKAI, Tadashi KAWASAKI, Keiichir ...
    2025 年35 巻1 号 p. 63-71
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2026/03/23
    ジャーナル フリー

     胎児治療研究の倫理を巡る議論は活発化しているが、議論の中心は研究のリスクと利益の分配、及びその考量である。しかし、胎児治療という第一義的には胎児の健康向上を目的とする医療的措置の研究において不可避的にリスクを背負う妊婦のリスクをどのように正当化し、またどのように妊婦を過大なリスクから保護すべきかという問題には、未解決の部分が大きい。本稿では、現在の議論で有力視されている「二患者モデル (Two-Patient model)」に代わる「胎児-妊婦コンプレックス」モデルを提示することによって、胎児治療研究において妊婦が負担するリスクの存在を正当化するとともに、「最小限のリスク」のような既存の規制概念に代えて、過大なリスクを容認しないための実質的な考慮事項を提出する。胎児治療は、妊婦と胎児という 利害が絡み合う「複合体」の共同的プロジェクトを助けており、胎児治療研究においても、その複合体の想定の下でリスク/利益の評価を行うべきである。

  • -カナダの看護師を対象とした実証研究を手がかりに-
    福山 美季, 浅井 篤, 恒松 佳代子, Miki FUKUYAMA, Atsushi ASAI, Kayoko TSUNEMATSU
    2025 年35 巻1 号 p. 72-81
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2026/03/23
    ジャーナル フリー

     医療的な死の幇助(Medical Assistance in Dying、以下MAiD)に対する看護師の倫理的態度について、カナダの看護師を対象とした実証研究6編を用い、文献検討を行った。MAiDに対して否定的な理由として、 不十分な緩和ケアの中でのMAiDの選択等8件、肯定的な理由として、患者の選択の尊重と人生の主導権の保障等6件、MAiDを否定も肯定もせず患者を擁護する理由として、患者を見捨てない等2件が抽出された。各理由の論点として、否定的な理由では、不十分な緩和ケア、生命の価値、MAiDの意思決定過程における課題、MAiDによる周囲への影響、肯定的な理由では、患者の主導権、MAiDによる利益、苦痛からの解放は医療者の倫理的責任、道徳的一貫性、MAiDを否定も肯定もせず患者を擁護する理由では、MAiDの倫理的是非ではなく看護に専念するがあげられた。本研究の結果は、今後の我が国の看護師のMAiDに関する実証研究や、看護領域・学際的な倫理的議論の進展に寄与できると考える。

  • -胎児治療専門家インタビュー調査から-
    中川 萌子, 鈴木 将平, 三好 剛一, 松井 健志, Hoko NAGAWA, Shohei SUZUKI, Takekazu MIYOS ...
    2025 年35 巻1 号 p. 82-92
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2026/03/23
    ジャーナル フリー

     胎児治療の倫理的課題に関する専門家の認識を把握するため、国内で胎児治療を実施している主要施設の責任医師を対象に、半構造化インタビュー調査を実施した。特に、胎児治療における診療と研究の区別、および胎児と妊婦の位置づけに着目した。その調査の結果から、(1)診療と研究の連続性、(2)エビデンスの乏しい胎児治療に対するスタンスの違い、(3)妊婦と一体である患者としての胎児が析出された。専門家の間には、胎児治療領域の境界性故の、当該介入の有益性に関する慎重な見方が見られ、特にエビデンスの乏しい介入に対しては胎児の利益の可能性とリスクの回避のどちらを優先すべきかといった立場の違いが明確に認められた。また、そうした慎重な姿勢と関連して、妊婦のリスクを軽んじない姿勢が少なからず見られ、胎児は妊婦と一体である患者と捉えられていた。このことから、胎児治療の現場は必ずしもthe twopatient modelの視点に則って動いてはいないことが示唆された。

  • -クリニカル・シアターという試み-
    服部 健司, Kenji HATTORI
    2025 年35 巻1 号 p. 93-102
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2026/03/23
    ジャーナル フリー

     医学生の臨床倫理能力、その基礎にある非認知的能力とりわけ低下傾向が指摘されている対人関係能力を伸ばすには、座学による知識伝達型あるいは教説型教育は有効とは思われない。そこで、英米、ブラジルをはじめ諸国で半世紀以上の歴史をもつドラマ教育の導入を検討した。ここでいうドラマ教育は、台本をもとに劇を上演したり、劇場で観劇体験を積ませたりすることではない。即興で自分とは異なる人物になりきって全身を使って表現をし、虚構だがリアルな状況で疑似体験をするという演劇の中心的要素を教育に導入し活用する実践のことである。筆者は、アウグスト・ボアールが編み出した手法を改変して、ロールプレイとは異なる新しい手法を開発し、クリニカル・シアターと名づけ、舞台俳優たちとの協働によって、医学教育に導入した。本稿ではまずドラマ教育の歴史的変遷、諸類型を概観し、後半では、クリニカル・シアターの具体的手順、要件と特異性、そこから学生が何を学んでいるか、そして今後の課題を詳述する。

  • -産児制限をめぐる倫理思想の系譜-
    林 和雄, 伊吹 友秀, Kazuo HAYASHI, Tomohide IBUKI
    2025 年35 巻1 号 p. 103-111
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2026/03/23
    ジャーナル フリー

     本稿では、生殖に関わる「親の決定権」、「子に対する義務」、「社会に対する義務」をどのように位置づけているかという点に注目して、産児制限をめぐる倫理思想の系譜を辿る。具体的には、マルサス、ミル、サンガーの思想を順に見た上で、それらの思想がリプロダクティブ・ライツの考え方につながった点を確かめる。その結果、次のことが明らかになる。産児制限は当初、社会や子にとって悪い事態を予防するための義務として提唱された。そこから次第に、各夫婦や各女性が自分の子を産まないことを決定する権利が唱えられるようになり、この考え方が人口政策に対する批判と合流して、今日のリプロダクティブ・ライツの概念が生成された。生殖に関わる義務の提唱が社会的弱者に対する強制につながりやすい点には注意が必要だが、生殖に関わる義務が生じる場面と権利が認められる場面をどのように区別すべきかは、今日においても検討し続けるべき問題である。

第36回日本生命倫理学会年次大会プログラム
著作権規定と投稿規定
編集後記
feedback
Top