生命倫理
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巻頭言
依頼論文
  • 柘植 あづみ, Azumi TSUGE
    2024 年34 巻1 号 p. 4-12
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2025/08/20
    ジャーナル フリー

     日本産科婦人科学会が「着床前診断に関する見解」を発表し、着床前診断を臨床研究として認めたのは1998年である。着床前診断は出生前検査とは違い人工妊娠中絶を避けられるのが長所として登場した。しかし、着床前診断に反対する障害者団体などが日本産科婦人科学会に意見を提出して交渉を重ね、適応の条件は「重篤な遺伝性疾患」に限ってきた。他方、海外での対象疾患の拡大もあり、国内の当事者団体からPGT-Mを利用したいという要望がだされた。日本産科婦人科学会は指針を改定し、PGT-Mの適応条件を緩めた。PGT-Mを利用したいとする希望とその理由、PGT-M に反対する理由を出しあって、改めてPGT-M の倫理的社会的問題を考え、検討するためにシンポジウムを開催した。ここで結論がまとまることを期待するのではなく、異なる立場にいる人たちが、それぞれの意見の背景にある倫理社会的状況を理解し、PGT-Mをめぐるより良い制度が築かれることをめざす。とくに反対する当事者の声を聴くことによって、同じ結論には到らなくとも、より良い指針や必要とされる法律や制度を描き出し、その基盤にある社会を再考する一歩になったと考える。

  • 吉良 貴之, Takayuki KIRA
    2024 年34 巻1 号 p. 13-20
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2025/08/20
    ジャーナル フリー

     本稿は将来世代への責任を問う世代間倫理のアプローチとして、ウィリアム・マッカスキル(William MacAskill)が主導する長期主義( long-termism) の主張を検討する。長期主義は人類の存亡リスクに対処するため、ときに数万年単位の長い期間を扱う。その期間においては、厚生などの価値は遠い未来も現在も無差別に評価される( 時間中立性)。そのため現在世代に極端に重い犠牲を強いることにならないか、一部のエリートの生き残りだけを考えていないか、といった批判がなされる。しかし、その「長期」は特定の問題ごとに画定される相対的な期間であって、包括性は標榜されていないため、多くの場合には極端な結論にはならない。また、価値対立に関わる問題も期待値理論に落とし込むことによって経験的な検証を可能にし、学際的な接続可能性へと開かれていることが特徴である。

原著論文
  • 石原 恵依子, 甲畑 宏子, 小峯 真理子, 荒井 裕国, 長岡 英気, 宮﨑 泰成, 大友 康裕, 鵜川 豊世武, 増田 孝広, 神里 彩 ...
    2024 年34 巻1 号 p. 21-32
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2025/08/20
    ジャーナル フリー

     COVID-19による入院時の同意説明は、感染症対策として制限された環境下で実施されるため様々な課題が想定された。そこで本研究では同意取得時に生じた倫理的課題を明らかにしベストプラクティスを検討するため、COVID-19 の治療に関する同意説明時の実態について東京医科歯科大学病院に入院したCOVID-19 重症呼吸不全患者とその家族に対する調査を実施した。質問紙調査では、患者72 名、家族53名の計125名から回答を得た。さらに入院時の同意取得についての心境や価値観について具体的な意見を得ることを目的として、インタビュー調査(患者6名、家族4名) を実施した。調査の結果、治療方針の説明は患者・家族ともに9割程度が理解できたと回答したが、説明を受けた患者であっても治療に関する意思表示が明確になされていない、あるいは当時の記憶が曖昧となっている可能性が示された。また、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の認知度は依然として低く、治療に関する知識の不足が家族との事前の話し合いを困難にさせていることが示唆された。健常な一般市民もACPについて知り、侵襲性の高い治療や終末期医療について家族と話し合う機会が必要である。

  • 大桃 美穂, 鶴若 麻理, 脇山 茂樹, 櫻本 千恵子, Miho OMOMO, Mari TSURUWAKA, Sigeki WAKIYA ...
    2024 年34 巻1 号 p. 33-45
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2025/08/20
    ジャーナル フリー

     急性期病院入院患者を対象としたアドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning 以後、ACP) を多職種で実践する際の課題と各職種に求められる役割を明らかにすることを目的に、医師・病棟看護師・入退院支援看護師・リハビリ職・医療ソーシャルワーカー、合計25名を対象に日本語版多職種連携協働スケール(AITCS-II-J) を使用した質問紙調査と半構造化面接による混合研究を実施した。多職種連携・協働に対する実践の認識は、Steel-Dwass 法による多重比較の結果、全ての職種間で統計学的有意差は認められなかった。インタビュー結果の分析により、ACPに必要とされる情報が共有しづらいカルテシステム・多忙ですれ違いの多い労働環境・医療者間の階層的な関係性・提供できるケアと入院日数の制限・ACPを実践できる人材不足などの複合的な要因が多職種連携の障壁となっていることが明らかになった。入退院支援看護師はACPのプロセスのほぼ全てに関与しており、医療ソーシャルワーカーと共にチームをファシリテートする役割を担っていた。

報告論文
  • 高野 真優子, 鶴若 麻理, Mayuko TAKANO, Mari TSURUWAKA
    2024 年34 巻1 号 p. 46-56
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2025/08/20
    ジャーナル フリー

    目的:患者の意向とチーム規範が対立するPCU多職種カンファレンスで、チームの議論に発言する看護師の思考とその影響要因を明らかにし、患者の意向を可能な限り尊重するための思考と行動への示唆を得ることである。

    方法:PCU臨床経験がある看護師20名に半構造化インタビューを実施し、クリッペンドルフの内容分析手法を用いて分析を行った。

    結果:終末期患者の残された時間をどう過ごすかという患者の意向に対して、9つのチーム規範が抽出され、チームメンバーや家族の意向が判断根拠であった。看護師が発言するか否かの判断の根拠は、それぞれ『患者のいのち・意向』、『みんなの意見』で違いが示された。発言に影響した要因は、「患者の意向の把握」「患者の意向実現に向けた経験」などで、これらの背景には患者との関係性があった。

    結論:PCU多職種カンファレンスにみられたチーム規範は患者中心性を阻んでいた。メンバーは、患者の意 向を軸に据えた議論ができているかを考え、患者の意向に沿えない根拠を明確にするよう発言することがカンファレンスでの患者中心性につながるだろう。

  • -代弁者と情報ニーズの視点から-
    倉林 しのぶ, 赤堀 八重子, 武居 明美, 関根 恵理香, 田村 直子, Shinobu KURABAYASHI, Yaeko AKABO ...
    2024 年34 巻1 号 p. 57-67
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2025/08/20
    ジャーナル フリー

     本研究では「一般市民」に焦点を当て、「代弁者」および「情報ニーズ」の視点からACP を検討した。一般市民が「人生の最終段階」について抵抗感なく話し合う機会は、二人称の視点で語れる時期が導入しやすいことが明らかになった。また「本人の希望を真に理解している者」を見つけるのは非常に困難であることが示された。代理決定は家族が行うという考え方が通用しない時代がくることをふまえ、ACP推進に当たっては、 地域における互助を活用しながら自分の「生や死」に関する思いを気楽に語れる場や機会を作ることにも意義がある。情報提供には、在宅で可能な医療内容や医療・介護の連携体制など、在宅医療に関する知識と同時 に、介護保険制度や医療保険制度などの支援内容や、レスパイトケアを含む具体的な介護者支援等の周知を徹底していくことが必要である。

  • -看護師が安楽死を擁護することは妥当か-
    柏﨑 郁子, Ikuko KASHIWAZAKI
    2024 年34 巻1 号 p. 68-76
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2025/08/20
    ジャーナル フリー

     ヘルガ・クーゼは1997年の著書で、ケアの倫理を批判的に検討すると同時に、看護師が行うケアリングを肯定することで、患者の安楽死を擁護する看護師の倫理的立場を主張した。本稿では、同書におけるケアリングと安楽死の関係を解明し、看護師が安楽死を擁護することの妥当性を批判的に考察した。クーゼの議論では、第一に、医療の対象としての健康の範囲が不明確で、看護師は他の倫理的目的のために行動することが強調されている。第二に、クーゼは、ケアリングは看護が道徳的に正当化されるための十分条件ではなく、看護師が患者のニーズに敏感である段階での必要条件であり、そのような性質(disposition) によって、看護師は (安楽死における)患者の利益を認識し、擁護することができるはずだと主張した。しかし、これら二つの主張には難点がある。したがって、医療の目的である健康概念と看護のdisposition を再考すると、看護師が安楽死を擁護することは妥当ではないと結論づけられる。

  • -研究倫理の観点から-
    中川 萌子, 松井 健志, Hoko NAKAGAWA, Kenji MATSUI
    2024 年34 巻1 号 p. 77-85
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2025/08/20
    ジャーナル フリー

     現在、出生前の介入が望ましいとされる場合、母胎内の胎児に対する介入、即ち「胎児治療」の臨床研究が 実施されている。本論文の目的は、従来の研究参加同意との対比により、「胎児治療」臨床研究における同意 (及び拒否) の内実を明らかにすることである。胎児の研究参加に関しては、将来的にその親権者となりうる妊婦や胎児の潜在的父親の許可が必要となる。それに対して、妊婦の研究参加に関しては、妊婦自身が決定すべきであると言えるが、妊婦にとって「胎児治療」臨床研究への参加は、臨床的には自身へのリスクしかない。それにも拘わらず妊婦が研究参加に同意する場合、その同意は唯一、介入により胎児が疾患を軽減されて生まれ得、当該胎児を家族に招き入れる可能性を高めうるという利益、即ち「非臨床的利益」を考慮することで妥当性が担保されうると考えられる。従ってその同意は、家族形成の再選択という、医療を超えた意味合いを帯び、従来の研究倫理で理解されてきた研究参加同意の内容とは質的に異なると言える。

  • -1950年代北海道の保健所の事業からの検討-
    由井 秀樹, Hideki YUI
    2024 年34 巻1 号 p. 86-95
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2025/08/20
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は、医療、福祉、行政から強制不妊手術の対象者として予め把握されていなかった人々を、保健所がどのように探索して強制不妊手術につなげていたのか調査し、その問題点を考察することである。この目的を達成するために、1950年代の『日本公衆衛生雑誌』(日本公衆衛生学会) に掲載された北海道の保健所による農村における事業を分析した。その結果、保健所が行政と協力し、「精神薄弱」とみなされた住民を把握して接触し、大半は既に子のいる対象者の「希望」に応じ強制手術の規定(法第4 条) に基づく手術につなげたことが示された。対象者は、生殖に対する意思決定ができないわけでもなく、その一部は、用いる基準によって「精神薄弱」に含まれるか否かが異なった。この事業の問題点として、(1) 既に子がいる人への不妊手術の問題、(2) 形式的な「同意」や「希望」にどこまで本人の意向が反映されていたかという問題、(3) 法適合性の問題を論じた。

  • -ギリガンによる解釈を軸に-
    徳永 純, Jun TOKUNAGA
    2024 年34 巻1 号 p. 96-104
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2025/08/20
    ジャーナル フリー

     ケアの倫理において文学作品の引用は具体的状況を示し、道徳的考察を展開するうえで重要な役割を果たしてきた。ギリガンは、ジェイムズ・ジョイスについても多く言及してきたが、ギリガンのジョイス評価には大きな振幅が見られる。まず『もうひとつの声で』でギリガンは、若いジョイスが自身を投影した登場人物を引用し、分離、自律を志向する男性の典型としてケアの倫理と対置した。だが、家父長制批判の視座を確立した後は、中年期ジョイスの作品に登場する主人公の男性を、家父長制批判を体現しているとして称賛する。本稿は、評価が大きく変わる背景にはジョイス文学の成熟があったことを示し、またギリガンの論考を補い、家父長制を乗り越え男性がケアすることの困難さもジョイスが同時に描いたことを明らかにする。ギリガンによる読解はジョイス文学を反家父長制の視座から解釈した点で特異であり、家父長制が根強く影響力を残す今、ケアの倫理の今日的な意義を再認識させるだろう。

第35回日本生命倫理学会年次大会プログラム
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編集後記
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