生命倫理
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巻頭言
原著論文
  • 高井 ゆと里, 山田 秀頌
    原稿種別: 原著論文
    2023 年 33 巻 1 号 p. 4-12
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2024/08/01
    ジャーナル フリー

     トランスジェンダーの人びとが出生時に登録された公的書類上の性別を書き換えられるようにする法律を一般に性別承認法と呼ぶが、世界の性別承認法には不妊化を義務付けるものが多かった。近年この不妊化要件は撤廃が進んでいるが、日本の性同一性障害特例法には残存している。本稿では、トランスジェンダーの性別承認法における不妊化要件の妥当性を倫理的に吟味する。本稿はこの要件が(1)不妊状態を求めることに加えて、(2)性別承認を求める人々に一律に不妊化手術を求め、結果として手術を望まない人々にも不妊化手術を強いていることを区別し、これまで不妊化要件の正当化のために提示されてきた5つの理由をそれぞれ吟味する。本稿の吟味を経ることで、これら全てが妥当性を欠くこと、それゆえ性別承認法の不妊化要件が倫理的に大きな問題を含むことが示される。

報告論文
  • 村部 義哉
    原稿種別: 報告論文
    2023 年 33 巻 1 号 p. 13-21
    発行日: 2023/09/24
    公開日: 2024/08/01
    ジャーナル フリー

     近年、医療福祉分野では、様々な応用倫理学的課題が提示されているが、リハビリテーション医学の倫理的特性に関する議論は少ない。

     リハビリテーション医学の特異性は、パターナリズム的な「キュア」やリバタリアニズム的な「ケア」ではなく、リバタリアン・パターナリズムに準拠した「セラピー」として実施される点にある。

     また、リハビリテーション医学の治療効果を最大化するためには、患者の個別性や様々な交絡因子を考慮した治療プログラムを、治療者と患者が共同的に作成していく必要がある。そのため、リハビリテーション専門家には、患者の能動性を促進するための対話能力が求められる。

     以上より、リハビリテーション医学の科学性や倫理性の成立には、リハビリテーション専門職のリバタリアン・パターナリズム的な臨床態度と患者との対話能力が必要となる。

  • -患者と医師の価値を探る-
    宇野澤 千尋, 鶴若 麻理
    原稿種別: 報告論文
    2023 年 33 巻 1 号 p. 22-32
    発行日: 2023/09/24
    公開日: 2024/08/01
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は慢性腎臓病患者と医師が、腎代替療法選択に向けた話し合いで何を大切にしているかを明らかにし、患者からみたよりよい話し合いについての示唆を得ることである。腎代替療法選択に向けて話し合い中である首都圏の1病院の患者と医師(各 10名) に半構造化面接を行い、患者と医師の価値についてクリッペンドルフの内容分析手法にて分析した。研究期間は2021年6月から2022年1月であった。結果、話し合いにおいて患者と医師ともに「(患者の) 自律性」「(患者の) 個別性」「(患者と) 医師との関係性」を大切にしていることが示された。患者と医師の相違点として、患者は「医師の人間性」や「医師の応答性」に加え「透析導入を遅らせること」、一方、医師は「患者の透析に対する理解と納得」「家族の参与」「話し合う環境」に価値をおいていた。さらに、患者と医師で話し合い自体に対する認識や捉え方が異なることも示された。それゆえ、医師は医療面に限らず、患者が話し合いで大切にしていることを見極め、互いの話し合いに対する認識も確認しながら進めていく必要性が示された。

  • -COVID-19 ワクチンの事例を契機に-
    遠矢 和希
    原稿種別: 報告論文
    2023 年 33 巻 1 号 p. 33-40
    発行日: 2023/09/24
    公開日: 2024/08/01
    ジャーナル フリー

     2021年5月、英国のイエローカード制度においてCOVID-19ワクチン接種後の月経の変調に関するデータが想定外に集まったことが報道された。2022年10月には欧州医薬品庁が、mRNA型COVID-19ワクチンの頻度不明の副作用として、重い月経出血を製品情報に追加するよう勧告した。また日本では2021年4月までのワクチン接種後のアナフィラキシーのうち9割近くが女性の症例であった。COVID-19に関する臨床研究を性別/ジェンダーの観点でレビューした各論文によると、データを性別で解析・報告していないことが問題点として挙げられている。

     欧米の研究助成機関等では臨床研究対象者の両性のバランスをとることや、性別/ジェンダーに基づく有意義な分析を求めている。本稿は各国の対応や先行研究等を検討し、性別/ジェンダーを考慮した臨床研究を推進するのに必要な方策を提言する。

  • -エキスパートナースの語りを手がかりとした概念の可視化-
    岡島 志野, 習田 明裕
    原稿種別: 報告論文
    2023 年 33 巻 1 号 p. 41-50
    発行日: 2023/09/24
    公開日: 2024/08/01
    ジャーナル フリー

    目的:看護師の道徳的行動を起こすmoral strengthを構成する要素と要素間の関係性を明らかにし、本概念を可視化する。

    方法: 各分野の専門看護師等14名に面接調査を行い、質的帰納的に分析した。

    結果:看護師の道徳的行動を起こすmoral strengthは【患者の意思を尊重する】【患者がよりよく生きることを支援する】【患者と家族の結びつきを支援する】という<患者中心の考え方>が基盤となり、【問題に向き合う覚悟がある】【自分の職責を果たす】【自分の信念を貫き周囲に屈しない】【一歩を踏み出す勇気がある】【ひたむきに取り組む根気がある】という<道徳的な姿勢>や【患者と家族から動かされる】という<道徳的な応答>が力となっていた。

    結論:看護師のmoral strengthの構造として<患者中心の考え方>が意志や意欲を規定し、<道徳的な姿勢>などの複数の要素がその働きを強めていた。

  • 鈴木 英仁
    原稿種別: 報告論文
    2023 年 33 巻 1 号 p. 51-59
    発行日: 2023/09/24
    公開日: 2024/08/01
    ジャーナル フリー

     COVID-19パンデミックにおいて、ワクチンの接種開始に伴い、「ワクチンパスポート」と呼ばれる制度がロックダウンに代わる感染症対策として注目を集めた。ワクチンパスポートとは、ワクチンの接種履歴等の健康情報を示す証明書であり、保有者にはレジャー施設への入場といった感染リスクの高い行動が許される。公衆衛生政策の常として、ワクチンパスポートは様々な価値の衝突やトレードオフを伴う。したがってその倫理的評価に際しては諸価値の比較衡量が不可欠である。本稿では、ワクチンパスポートの導入によってもたらされる価値と損なわれる価値を可能な限り特定し、この制度を倫理的に評価することを目指す。結論として、ワクチンパスポートがパンデミック下において安全な社会・経済活動を取り戻すための一時的・暫定的措置として位置づけられること、そしていくつかの条件の下では有効かつ倫理的に許容可能な感染症対策となりうることを主張する。

  • -アイヌ民族研究の倫理指針案を手がかりに-
    佐藤 桃子, 井上 悠輔, 武藤 香織
    原稿種別: 報告論文
    2023 年 33 巻 1 号 p. 61-68
    発行日: 2023/09/24
    公開日: 2024/08/01
    ジャーナル フリー

     現在検討されている「アイヌ民族に関する研究倫理指針(案)」は、研究の基礎として「研究の開始に先立つ協議と自由意思による同意」すなわちFPIC(Free, Prior, and Informed Consent)を掲げているが、これは日本の研究倫理のガイドライン等で初めて明文化される概念である。本研究はまずアイヌ民族が置かれている状況と、アイヌ民族を対象とした研究のガバナンスの経緯を確認する。次にFPICが先住民族の土地・資源の開発をめぐり検討されてきた経緯を概観し、先住民族との協議の機会の確保を、人を対象とした研究にも取り入れた先行事例として、カナダと台湾の研究倫理のガバナンスを分析する。最後に、日本でのFPICの導入はアイヌ民族の参画を制度的に保障する点では期待できる一方で、一部の学協会による自発的なガイドラインであるためガバナンス上の限界があることを示し、FPICを研究倫理に導入すること自体の留意点も指摘する。

  • 角田 ますみ, 吉田 満梨
    原稿種別: 報告論文
    2023 年 33 巻 1 号 p. 69-78
    発行日: 2023/09/24
    公開日: 2024/08/01
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は、ACP支援において、経営学の意思決定理論であるエフェクチュエーション(EFF)の適用可能性を検討することである。

     ACPは、本人が将来の変化に備えて、自身の価値観や意向を家族や医療・ケア従事者と話し合うプロセスであり、医療・ケア従事者は予測合理性に基づいた専門的知識を用いて本人が将来への心づもりを考えること ができるように支援する。しかし予測合理性には限界があり、ACP支援に困難を来す場合も多い。

     EFFとは、不確実な状況で熟達した起業家が使う思考様式で、将来予測の代わりに意思決定における5つの原則を用いて、すでにある手段や許容可能な損失を考えるところから始め、行動のハードルを下げるところに特徴がある。

     検討の結果、ACPでもEFFが有効となる問題空間を有していること、ACP支援事例ではEFFと類似した考え方を活用していることがわかった。これらにより、EFFがACP支援に適用可能であり、EFFにより、ACPにおける新たな支援方法の創出、EFFと将来予測の併用による相乗効果、本人や家族の価値観の可視化などの効果が期待でき、EFFがACP支援に新たなアプローチ方法を提示できる可能性が示唆された。

  • -Webアンケート調査結果より-
    洪 賢秀, 小門 穂, 柘植 あづみ
    原稿種別: 報告論文
    2023 年 33 巻 1 号 p. 79-92
    発行日: 2023/09/24
    公開日: 2024/08/01
    ジャーナル フリー

     日本では「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律」(2020) が卵子提供や精子提供を伴う生殖補助医療で出生した子の親子関係のみを定めており、配偶子提供者の要件や生まれた子への提供者の情報開示などは規定していない。卵子提供を受けて子を持つ人は、どのようなことに迷い、悩み、何を選択しているのか。これらを理解するために、卵子提供を受けた経験がある、あるいは準備中の女性を対象に、2021年10月~2022年1月にWebアンケート調査を実施した。

     回答を得た33件のうち、卵子提供による生殖補助医療を経験した19件と、卵子提供による生殖補助医療の準備中である7件の計26件を有効回答とし、分析対象にした。小稿では、卵子提供に関連する迷い、悩み、不安に焦点を絞り、1) 卵子提供前、2) 卵子提供後、胚移植から出産まで、3) 子どもの乳幼児期、4) 子どもが会話を理解できるようになる時期に分けてその懸念事項について分析した。その結果、子が生まれる前は、子の受容など、生殖補助医療を受けている期間はその医療の成否やリスクについて、子が生まれてからは周囲との関係や事実の告知と親子関係等についての迷いや悩みが記されていた。以上から、出産育児の過程における悩みの変化とその原因の関係を考察し、必要な支援等を提言した。

第34回日本生命倫理学会年次大会プログラム
著作権規定と投稿規定
編集後記
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