近年、電子カルテ等のコンピュータシステムが診療の場に導入されるに伴い、診療や検査によって得られるあらゆる項目が「医療情報」として把握されるようになってきた。これらの医療情報は医療者が利用するのみならず、患者も意思決定の材料として理解することが求められている。そのような状況を踏まえ、医療情報に内在する倫理的な課題を、特に情報に触れる機会の多い乳癌患者の闘病記から明らかにする。患者たちは近年医療情報を求め、それを手にできるようになった。しかし、患者は自身の身体感覚と医療情報との相違に戸惑いながら、医療者の知見を拠り所とせざるを得ない状況にある。「いのち」を考えるためのものであるはずの情報が、患者が自らを知ることを阻害し、患者の意識を塗りかえてしまっている可能性があると考えられる。今後は、医療情報の在り方が検討されるとともに、患者への支援に生かされることが望まれる。