日本人は既に長年外国で卵子提供を実施しているが、その実態が明らかにされることはなかった。本研究では聞き取り調査をもとにその現状を述べ、卵子提供の持つ倫理的問題を考察する。
卵子提供には医学的リスクが伴うにも関わらず、それらに十分に研究されておらず、またその事実が周知されていない。しかし米国で日本人から採卵する斡旋業者はリスクを適切に伝えず提供者を募集している。そこで交わされる契約のもと、提供者は自らが想定外の健康被害を被っても放置され、保険で賄われない健康被害は提供者が負うことになる。また提供者の都合で卵子提供に不備が生じれば、その損失も提供者が支払わねばならない。こうした問題により訴訟も起きているが、この実態が第三者に伝わることはなく、それらの現実は人々に知られないままである。
卵子提供は他者による身体管理や生活管理を含むが、近代化された社会の中で、その隷属性が見えなくなっている。それにも関わらず卵子提供が問題視されてこなかったのは、卵子提供が臓器移植をはじめ近代医学の例外的措置を利用し、それらをつなげて作られた、人権の考慮されない言説の中に存在しているためである。