生命倫理
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報告論文
着床前診断をめぐるドイツの論争
-2011年のドイツ倫理評議会答申を中心に-
小椋 宗一郎
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2016 年 26 巻 1 号 p. 63-71

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抄録

    ドイツでは1990年に胚保護法が成立し、その解釈によって着床前診断は禁止されていると捉えられていた。 しかしある産婦人科医が着床前診断を実行し、自首するという事件が持ち上がった。2010年、同事案に対して胚保護法を適用できないという判決が下されたことをきっかけに、着床前診断をめぐる論争が再燃し、結果として2011年に着床前診断の実施を一部認める改正法が可決された。
    本論は、議論の過程に大きな影響を与えたドイツ倫理評議会答申について検討することを目的とする。本論では特に、着床前診断を望むカップルの実存的な葛藤に焦点を当てる。ドイツ倫理評議会では、この診断技術の利用を容認すべきか否かをめぐって激しい論争が繰り広げられたが、どちらの立場もそうしたカップルの苦悩を重く受け止めている点では共通している。その上で、国家は葛藤を抱えた人々への介入に対して抑制的であるべきであり、「限定的な」範囲で許容すべきと主張されたことが、上述の結果につながっている。

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2016 日本生命倫理学会
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