生命倫理
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報告論文
精子ドナーの匿名性をめぐる問題
-遺伝子検査の時代に-
仙波 由加里清水 清美久慈 直昭
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2017 年 27 巻 1 号 p. 105-112

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抄録

 初のAID(提供精子を用いた人工授精) が実施されて70年近く経つ現在、日本でも遺伝子検査が普及し、民間人が手ごろな価格でDNA鑑定を受けられるようになってきた。したがって、親がAIDの事実を隠していても、子どもが親との遺伝的な関係を疑えば検査会社を通して親子の血縁関係の事実を確認でき、ドナーを探すことも可能となった。すなわちドナーの匿名性を保障できない時代を迎えている。そこで本稿では、このままドナーの匿名性を継続する場合に予想される問題をドナーのプライバシーの侵害と親子関係に焦点を当て検討した。日本では、ドナーの減少等を懸念して、今なお出生者の「出自を知る権利」を保留にし、ドナーは匿名とされている。しかし遺伝子検査の時代に入った現在、それは将来起りうる問題を軽視しているに他ならず、正義原則の観点からも問題である。また今後も、匿名性が完全に保障されないことを説明しないままドナーに精子提供してもらった場合、ドナーに自分の精子での出生者が将来接触をもとめてくるのではないかと不安を抱かせることにもなる。すなわちこれはドナーに対する危害とも言える。従って、まず提供配偶子を使う生殖補助医療で形成される親子関係について法で規定する必要があり、その上でAID出生者の「出自を知る権利」を認め、ドナーの匿名性を廃止する必要がある。

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2017 日本生命倫理学会
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