生命倫理
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終末期癌医療の今日的趨勢(3. ターミナルケアと生命倫理)
石川 邦嗣石谷 邦彦
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1993 年 3 巻 1 号 p. 27-32

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抄録

これまで癌の終末期医療は、terminal care、hospice care、palliative careと、これらの言葉がもつ暖昧なニュアンスの中で議論されてきた。Terminal careという言葉は日本において汎用されてきたが、それは死にゆく人々に対して精神的かつ肉体的にcareしてゆくという、care of dyingの受け身で消極的なイメージが強かった。換言するとterminal careという言葉は「反・これまでの医療」のmetaphor(隠喩)となってきた感がある。これに対して最近、palliative careという新しい概念が癌治療に登場してきた。これは進行期から終末期に至る癌医療のうえでquality of life (QOL)を向上させる現実の医学的、社会心理学的、行動科学的行為である。Palliative(緩和)の意味は「症状の緩和」のみでなく、癌という疾病がもつ「holisticな問題の緩和」という広い意味をもっている。具体的には、(1)延命、(2)症状の改善、(3)QOLの尊重である。またhospice careは過去独自の発展を遂げたが、現在QOLの概念が橋渡しとなりhospice careとpalliative careは同一のものと理解されている。その歴史的経緯からhospice careの言葉はよりsymbolicでありpalliative careは実際の具体的医療内容を示している。ここでは癌の終末期医療はQOLを尊重した医療であること、そしてそれは医学と社会科学に立脚したacademicな医療であることを強調しておきたい。

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1993 日本生命倫理学会
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