2023 年 33 巻 1 号 p. 61-68
現在検討されている「アイヌ民族に関する研究倫理指針(案)」は、研究の基礎として「研究の開始に先立つ協議と自由意思による同意」すなわちFPIC(Free, Prior, and Informed Consent)を掲げているが、これは日本の研究倫理のガイドライン等で初めて明文化される概念である。本研究はまずアイヌ民族が置かれている状況と、アイヌ民族を対象とした研究のガバナンスの経緯を確認する。次にFPICが先住民族の土地・資源の開発をめぐり検討されてきた経緯を概観し、先住民族との協議の機会の確保を、人を対象とした研究にも取り入れた先行事例として、カナダと台湾の研究倫理のガバナンスを分析する。最後に、日本でのFPICの導入はアイヌ民族の参画を制度的に保障する点では期待できる一方で、一部の学協会による自発的なガイドラインであるためガバナンス上の限界があることを示し、FPICを研究倫理に導入すること自体の留意点も指摘する。