生命倫理
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「自律」の可能性
佐々木 能章
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1998 年 8 巻 1 号 p. 12-18

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抄録

自律の概念は生命倫理において中心的な役割をもっている。この概念は本来、自分で法を設定しそれに自分で従うということを意味していたが、カント以降、個人の意志の自律という形で理解され、それが現代の生命倫理の議論にも受け継がれている。自律にとっては、その本質的規定とともに、自律が尊重されるという原則が実効的であることが必要となる。この原則を保証するためには、単なる相互承認だけでは不十分で、共通の価値が根本で共有されていなければならない。自己決定は決して無制限に認められるわけではなく、その範囲を画定するためにも共通の価値が必要となる。この価値は、人間の有限性を自覚するところから試行的に導かれるもので、その限りの普遍性を確認していくようなものである。こうして、自律は個人で完結するものではなく、共同的なものであるという性格を有していることになる。

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1998 日本生命倫理学会
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