無歯顎患者の治療において,特に下顎の総義歯を安定させるには長い臨床経験が必要である.筆者らは,合理的に総義歯を作成するには上下顎顎堤のランドマークを含む機能印象を採得し,解剖学的および生理学的根拠に基づいて下顎位を求め,咬合,発音,審美性および舌房の確保を考慮した人工歯排列と歯肉形成を行うことが重要であると考えている.経験の有無にかかわらず同一レベルの下顎の機能印象を得るために,下顎の旧義歯からランドマークを基準に完成義歯に近似した形態の複製義歯を作成して,ダイナミック印象採得を行う.そして,下顎安静位空隙と顔面計測値や発音機能など複数の方法で咬合高径を決め,ゴシックアーチ描記法にて中心位を決定し,前歯部では切歯乳頭,外貌,臼歯部ではPound やPayne の排列基準線を参考に人工歯排列を行うことで,合理的に総義歯を作成できた.