本研究は, 3D プリンター技術を応用した新たなデジタル総義歯の作成方法の臨床的有用性を,多施設共同研究として包括的に検討したものである.対象は上下無歯顎患者38 名とし,Barthel Index(BI),OHIP-EDENT-J,EQ-5D-5L を用いて,術前,術直後,1 カ月,3 カ月,6 カ月の各時点で評価を行った.義歯はCAD による設計後,3Dプリンターで高精度に造形した床用材料と既製フルアーチ人工歯列を組み合わせて製作した.結果として,BI では統計学的有意差は認められなかったが,日常生活動作は維持され,高齢患者の生活自立度に悪影響を及ぼさないことが確認された.OHIP-EDENT-J では術前と比較して1 カ月および6 カ月で有意な改善が得られ,特に機能的制限,心理的不快,ハンディキャップの領域において顕著な効果がみられ,患者の心理社会的側面に大きく寄与した.EQ-5D-5L でも短期的に全身的健康関連QOL の改善が示され,義歯治療が口腔領域にとどまらず全身的な健康感にも影響を及ぼす可能性が示唆された.さらに,本研究で用いた3D プリンターと既製フルアーチ人工歯列を用いた技術は,従来法に比べて製作精度の向上,工程の効率化,製作時間の短縮を可能とし,歯科技工士不足が懸念される現状において人的資源の効率的活用にも貢献し得る.これらの成果は,3D プリンターを用いた新しい義歯製作法が従来法と同等以上の機能的安定性と耐久性を有し,患者満足度の向上と社会的課題の解決の双方に資する有効な治療選択肢であることを示している.
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