日本顎咬合学会誌 咬み合わせの科学
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最新号
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総説
  • 菊谷 武
    原稿種別: 総説
    2020 年 40 巻 3 号 p. 167-
    発行日: 2020/12/21
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    フレイル予防の観点からすると高齢者にとっては「低栄養」が問題となる.咀嚼障害は,その原因から器質性咀嚼障害と運動障害性咀嚼障害に分けることができる.前者は,歯をはじめとする咀嚼器官の欠損によって起こる咀嚼障害であり,これに対しては義歯などの補綴治療による咬合回復が機能改善のために必要な方法となる.後者は,生理的老化や脳血管疾患などによって身体機能が低下した場合にあわせて生じる口腔器官の筋力低下や運動制御系の乱れを原因とした運動機能低下によるものである.歯科医療はこれまで,「疾患モデル」に準じ,咀嚼障害の改善を目的に,齲蝕や歯周疾患の予防や治療,補綴治療が行われてきた.しかし,「生活モデル」では,咀嚼障害を背景に,低栄養を原因としたサルコペニアや加齢による機能低下が存在するため食事指導や運動機能訓練などによる介入が必要となる.歯科医療者は,高齢者にみられる咀嚼機能の低下の原因と栄養状態との関連を理解し,生活モデルに準じた栄養をアウトカムにした歯科医療を実践しなければならないと考える.【顎咬合誌 40(3):167-173, 2020

  • 永田 和弘
    原稿種別: 総説
    2020 年 40 巻 3 号 p. 181-
    発行日: 2020/12/21
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    Bonwill 咬合器からWalker 咬合器への発展は,普遍原理を目指す19 世紀科学観から個の特殊を追及する20 世 紀の科学観への転換を示すものだった.1920 年頃にHall 円錐説,Monson 球面説が出現したが,それらはかつての普遍原理を求めるものであり,彼らが提示した咬合器はBonwill が否定した単顆頭咬合器であった.Bonwill からWalker への発展の軌跡は,Gysi のWippunkt 咬合器,Adaptable 咬合器へと受け継げられていく.Gysi は,個の特殊に対応する分析手段として軸学説を提示したが,米国においては取り上げられることはなかった.Hanau の Model H 咬合器はGysi Adaptable 咬合器を駆逐し,米国の補綴臨床を半世紀にわたって支配した.McCollum は, フェイスボウを用いて,顎を自然にdrop open した場合に,わずかな開口であればhinge axis があることを見出し,咬合器上での咬合挙上に臨床的な解決の糸口を見出した.さらに,McCollumは側方運動を含む顎運動の探索を進め,咬合器Gnathoscope および顎運動描記装置Gnathograph を製作し,ナソロジー学派を誕生させた.戦後ナソロジーはStuart,Stallard,Thomas をはじめ多くのナソロジストにより半世紀に及ぶ旋風を引き起こしたが,いつの間にか人為的な最後退位を理想的下顎位とする咬合論へと変質してしまった.全調節性咬合器として知られる咬合器にも不備がある.個の特殊に対応する調節機構の原点に戻って,筆者の考案した全調節性咬合器をもとに,ナソロジーの再評価を試みた.【顎咬合誌 40(3):181-212,2020

  • 和田 賢一, 黒岩 昭弘
    原稿種別: 総説
    2020 年 40 巻 3 号 p. 231-
    発行日: 2020/12/21
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    近年,パラジウムや金の高騰によって補綴装置の作製コストが上がり,健康保険財政を圧迫している.その対応の一つとして,2014 年に歯科用CAD-CAM システムを用いたハイブリッドレジンによる歯冠補綴が保険収載に導入された.初期には小臼歯部のみの応用であったが,2020 年までには上下顎の第一大臼歯まで適応が拡大された.このようにして金属アレルギー患者への治療や審美的要求,そして高騰する金属材料費への対応としての目的は達成されたが,長期的な対応としてレジンの機械的性質の制約を考慮すると大臼歯への応用は慎重にするべきである.一方,Cp チタンやチタン合金は廉価であり,Type4 金合金と同程度の機械的強度を有する.ゆえに各種補綴装置に関してはこれまでの金合金の経験を活かすことができる.これらの有用性をもとに2020 年の医療機器に係る保険適用として全部金属冠(鋳造)用に純チタンが採択された.しかしながら著者はいまだにチタン鋳造は煩雑で技術依存度が高いと考える.これを解決するには CAD-CAM によってCp チタンやチタン合金による補綴装置を作製することである.誰でも精度の良い装置を安定に供 給する目的でCAD-CAM システムを用いた金属冠としてCp チタン・チタン合金を保険適用とすることを提案したい.

特別寄稿
  • 二宮 嘉昭 , 武知 正晃
    原稿種別: 特別寄稿
    2020 年 40 巻 3 号 p. 213-
    発行日: 2020/12/21
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    上顎前歯部の歯槽骨吸収異常症例に,連通多孔体ハイドロキシアパタイト(NEOBONE®)を用いてスプリットクレスト法および骨再生誘導療法(GBR 法) を併用し良好な結果を得たので報告する.患者は59 歳の女性で上顎前歯部の動揺を主訴に当科を受診した. 術を施行した.患者はインプラント治療を希望したが,術後のCT 写真では上顎前歯部に骨量が不足していた.このため,インプラント体埋入前に骨造成が必要と診断し, NEOBONE® と自家骨と血液との混合移植材料を用いて 1 1 部スプリットクレスト法および3 部GBR 法を施行した.十分な骨量が獲得されたため,3 本の骨内インプラ ント体を埋入し,最終上部構造を装着した.上顎前歯部の歯槽骨吸収異常症例に対して,スプリットクレスト法およびGBR 法を併用することは,形態付与および骨補塡材の併用が容易で,他の骨造成と比較し,合併症のリスクが軽減されると考えられた.【顎咬合誌 40(3):213-218,2020

原著
  • 甲田 訓子, 永澤 栄, 倉澤 郁文, 山本 昭夫, 黒岩 昭弘, 亀山 敦史
    原稿種別: 原著
    2020 年 40 巻 3 号 p. 219-
    発行日: 2020/12/21
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,鏡面研磨されたJIS2 種チタン表面に対する各種市販合着用セメントの引張接着強さを検討し,金銀パラジウム合金および金合金への引張接着強さと比較することである.3 種類の歯冠修復用合金・金属(JIS 第2 種鋳造用チタン12%金銀パラジウム合金,およびタイプ3 金合金)平坦面を鏡面研磨し,表面処理後に合着用コンポジットレジンセメント(パナビア®V5),コンポジット系接着性レジンセメント(リライエックスTM アルティメット),4-META / MMA-TBB 系接着性レジンセメント(スーパーボンド®),合着用従来型グラスアイオノマーセメント(ハイ-ボンドグラスアイオノマーCX)のいずれかを用いてステンレス棒を接着した.なお表面処理にはパナビアV5 の場合ではクリアフィル® セラミックプライマープラスまたはアロイプライマーのいずれかを, リライエックスTM アルティメットではスコッチボンドTM ユニバーサルアドヒーシブを,スーパーボンドではV- プライマーをそれぞれ塗布した.またチタン鏡面研磨面ではスーパーボンドの応用方法の相違についても検討した.12%金銀パラジウム合金の場合,V- プライマー/ スーパーボンドでの接着が最も高い接着強さを示した.タイプ3 金合金の場合においてもV- プライマー/ スーパーボンドでの接着で最も高い接着強さを示したが,その値は12%金銀パラジウム合金の場合よりも大幅に低いものであった.JIS2 種純チタンの場合,スーパーボンド使用時に被着面に対してあらかじめ活性化液(クイックモノマー(5% 4-META + 95% MMA)とキャタリストV(TBB-O)の混合液)を塗布した場合に接着強さの向上を認めた.本研究結果から,鏡面研磨された歯冠修復用合金・金属に対する金属用プライマー/ 合着用セメントの効果は金属材料の種類に依存すると結論付けられた.【顎咬合誌 40( 3 ):219-230,2020

症例報告
  • 宮本 郁也 , 小川 淳 , 大橋 祐生 , 川井 忠, 山谷 元気 , 古城 慎太郎 , 角田 直子 , 小野寺 慧 , 山田 浩之
    原稿種別: 総説
    2020 年 40 巻 3 号 p. 174-
    発行日: 2020/12/21
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    歯科診療において,しばしば開口障害を呈する患者に遭遇する.開口障害は,歯科治療に支障をきたすだけでなく,生命予後にかかわるような緊急を要する症状の場合もあり,注意が必要である.開口障害は,原因により炎症性,腫瘍性,関節性,外傷性,筋性,瘢痕性,神経性に分類される.炎症性の開口障害が最も多く,顎関節症がそれに続く.それら以外にもさまざまな原因の開口障害があるため,的確に原因を診断し,治療していくことが必要とされる.診断と治療を施行したにもかかわらず思うような治療結果が得られない場合は,異なる疾患の可能性を含め再度診断をやり直し,検証する作業を繰り返す必要がある.【顎咬合誌 40(3):174-180,2020

  • 安澤 美紀, 柳沢 亮太, 龍田 恒康, 河津 寛
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 40 巻 3 号 p. 238-
    発行日: 2020/12/21
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    インプラント補綴を良好に維持するには,インプラント周囲炎を発症させないことが不可欠である.そのためインプラント治療後のメインテナンスが重要であるが,メインテナンスではインプラント周囲粘膜炎の予防と早期発見に主眼を置くべきである.患者の加齢に伴って,セルフケアの質は低下する.そのため,インプラント補綴の利点を活かし,上部構造を外してプロフェッショナルケアを行うことが有効である.上部構造を外す前の検査,外した後の洗浄とセルフケアの確認,上部構造体の洗浄・研磨,残存歯のクリーニングなど,具体的な手順を示す.さらに上部構造装着後22 年余り経過した77 歳,女性のメインテナンスについて症例を示す.症例は,メインテナンスに際して,上部構造を着脱し,徹底的なプラークコントロールを行うことの有効性を示唆している.【顎咬合誌 40(3):238-244,2020

  • 市川 正人
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 40 巻 3 号 p. 245-
    発行日: 2020/12/21
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    総義歯最終印象の目的を顎堤および周囲組織との良好な適合の獲得としたときの下顎総義歯製作における効果的なシリコーン印象法について,印象の成否の評価基準を明確にしたうえで検討を行った.評価基準は,安定して機能している下顎総義歯群における適合検査の粘膜面から得た3 つの特徴的所見とした.印象面の評価のしやすさでは,単一シリコーン印象材による単層印象が最適と考え,Biofunctional Prothetic Syetem(BPS)にみる印象法を対照として検討を進めた.その結果,単層印象では維持不足に陥る傾向が認められ,それを補うには個人トレーの床縁設計が重要であることが分かった.また,中程度の流動性のシリコーン印象材を使用し,さらに,シリコーンと個人トレーの色の相性を考慮することで印象面の評価のしやすさが向上することが分かった.本研究により,義歯製作の全過程において適合検査の活用により3 つの特徴を共有しながら,下顎吸着メカニズムに則り製作された個人トレーを使用し,単一シリコーン印象材による単層印象を実践することが良好な適合の獲得に繋がるとの結論に達した.【顎咬合誌 40(3):245-252,2020

  • 諸隈 正和
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 40 巻 3 号 p. 253-
    発行日: 2020/12/21
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    患者は義歯不適合と嚙み合わせの不具合を主訴に,全顎的な治療を希望して来院された.口腔内所見は臼歯の咬合支持が喪失しており,使用していた義歯も不適合で,顔貌からアングル3 級と想定される.旧義歯の支台歯である上顎左側前歯は動揺しており,プラークコントロールは不良だった.心尖部肥大型心筋症の既往から外科的侵襲は最小限に抑える必要があり,残存歯を温存したレジリエンツテレスコープ義歯を設計した.治療用義歯にて咬合と顎位の安定を図ったのち,最終補綴に治療用義歯の咬合を反映させた.QOL を評価するOHIP-14 のスコアは,初診時スコア44 からスコア13 まで改善し安定したが,1 年後にスコア29 まで悪化したため事前に埋入していたインプラントを活用し維持力の改善に取り組んだことでスコア6 まで顕著に改善した.現在,義歯・インプラントおよび支台歯の状態は安定しており,OHIP-14 のスコアも良い状態が維持できていることから,患者のQOL 向上に寄与できたと考えている.【顎咬合誌 40(3):253-261,2020

  • 鳥居 亮麿
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 40 巻 3 号 p. 262-
    発行日: 2020/12/21
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    インプラント適応症を制約する問題の一つとして,欠損部の不十分な骨量の問題がある.骨欠損には垂直性骨欠損と水平性骨欠損があり,骨量不足の原因は歯科疾患に伴う骨吸収が多く,また上顎洞底の低下など解剖学的形態によるものもある.この骨欠損部に対してインプラント治療を行うための対応法としては,自家骨移植や他家骨を併用したいくつかの骨造成法がある.骨欠損の程度や形態,状況,部位によって骨造成手技の方法の選択は異なるが, 他家骨を併用した術式は骨補塡材を使用するため,術後に予期せぬ感染が起きた場合,回復処置時に,骨補塡材の撤去が困難となることも考慮しなければならない.今回, 垂直的および水平的骨量が乏しい上顎臼歯欠損部に対して, 骨補塡材を用いない上顎洞挙底上術と骨誘導再生法(GBR)を併用したインプラント治療を行い, 良好な結果が得られた症例を報告する.【顎咬合誌 40(3):262-268,2020

  • 安光 崇洋
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 40 巻 3 号 p. 269-
    発行日: 2020/12/21
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    正中離開による審美障害の改善方法としては,矯正治療,フルカバーによるオールセラミックス修復,部分的な切削によるラミネートベニア修復,ダイレクトボンディングなどが考えられる.今回エナメル質が十分に保存されている状態においては,また今後の長期的予後を考えると,エナメル質を保存する処置を選択したい.本症例において,ダイレクトボンディングにて正中離開を審美的に修復し良好な結果が得られた治療例を報告する.患者は51 歳女性で,審美障害を主訴として来院した.他院で修復処置が行われたが脱離が繰り返し起こっていたという.軽度の捻転を伴う正中離開と診断し,患者の希望と侵襲が少ない方法である,コンポジットレジンによるダイレクトベニア修復を行った.その結果,形態,色調とも調和の取れた良好な結果が得られた.このことから,エナメル質を保存したコンポジットレジン修復により正中離開の審美的な改善が可能であることが示唆された.【顎咬合誌 40 (3):269-273,2020

  • MRI によるIIIa,IIIb の復位の検証
    山地 正樹 , 山地 良子
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 40 巻 3 号 p. 274-
    発行日: 2020/12/21
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    歯科医院に来院する患者の7 割以上が,顎関節雑音,開口障害,咀嚼筋や顎関節部の疼痛などの顎関節症状があり,クレンチングや歯ぎしりの症状が内包されていることが多い.この点に関しては我々歯科医師は避けて通ることができない.顎関節症の病態分類の,顎関節症円板障害(III 型)のIII a 復位性,III b 非復位性についての論文や症例報告では,関節円板復位や転位の改善は難しいと言われている.そこで,我々はそれについてMRI で検証した結果,関節円板の復位や転位の改善が多数例認められた.今回特に左側III a, 右側III b の関節円板が両側とも復位した1 症例について供覧したい.咬合を変えることによりアンテリアガイダンスやラテラルガイダンスが変化し,前方転位していた関節円板が復位して,その後も正常に機能していることが確認できた.【顎咬合誌 40(3):274- 282,2020

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