2006 年 5 巻 1 号 p. 27-37
1930年代のニューディール芸術文化政策は、現代米国社会の文化政策の基盤となっていると言える。ニューディールの芸術政策は2つの性格を持っており、一つは国民の芸術享受の機会を創出し、大不況のなかで芸術家を救済するという社会福祉的視点であり、二つ目は国家の芸術レベルを向上させ精神的アイデンティティを構築していく国家の文化向上政策の視点である。後者の担い手となったのは財務省の管轄下で実施された「セクション」である。ニューディール芸術政策は、第二次大戦と共に中断されるが、セクションの思想は1962年に設立した「米国公共施設管理庁 (GSA)」によるパブリックアート政策に引き継がれる。本稿はまず、ニューディール芸術政策の目的と各プログラムの特色を概観した後、「セクション」の政策に的を絞り、プログラムの目的、作品選定の手順・評価方法等の特性を考察する。その上で「セクション」の思想が現代パブリックアート政策の基礎を形成したことを論じる。