大阪大学経営企画オフィスはURA活動とIR活動を有機的に結合させたURA × IR活動を令和元年から進め,最近ではさらに発展させた「IR駆動型の研究マネジメント改革」に取り組んでいる.その基盤とすべく,我々は独自のアルゴリズムを開発し,学内外に散在する各種データを一元的に集約した,現実的な経営企画DXシステム“ReCo®”を独自開発した.本稿では,本活動の概要と大学経営におけるデータを踏まえた意思決定への波及効果を報告し,今後の展開を議論する.
大学が国際競争力を強化していくには,人材獲得や資源配分など経営面での戦略的な意思決定が必要である.そのためには,客観的データをグローバルに収集し,社会課題や研究動向を把握するとともに,世界における自学の立ち位置を冷静に把握することが欠かせない.
大学IR(Institutional Research)はその中心的な仕組みとして注目されており,米国では主に教学分野において,学内の状況把握から施策の立案,さらにその実施結果の検証まで一連のサイクルが確立されている.一方,日本の大学では意思決定へのIRデータの活用は発展途上にあり,目標設定の不十分さやデータ基盤の未整備,専門人材不足などが課題として指摘されている[1].
こうした状況のもと,国内でも北海道大学の「北大BI」や東北大学の「次世代型研究者データベース」といった全学的IR基盤の整備が進められ,大学経営状態の可視化や研究者情報の一元化など,経営判断を支える試みが展開されている[2, 3].
一方,大阪大学では,研究者の研究力,研究者の動態,組織の研究力,組織の財務状態,新興研究分野の立ち上がりの兆候など,大学経営マネジメントを行う上で必要な多種多様な情報を網羅的かつ包括的に分析することが求められていた.これは,データ収集・蓄積・可視化に重きを置いている従前の全学的IR基盤では対応できず,新規に開発する必要があった.そこで,学内外に点在する経営力・研究力に関する様々なデータを収集・統合して一元管理するとともに,独自開発した分析アルゴリズムとビジネス・インテリジェンス(BI)ツールを用いることで,高度な分析・可視化を実現した経営企画DXシステム“ReCo®”(レコ;Research Collaborationの略)を独自開発した[4, 5].この基盤整備により,データを踏まえた意思決定(Data-informed decision making)1)が実現可能となった.
Elsevier SciVal等の商用書誌分析ツールが論文業績の俯瞰やベンチマーキングを,e-CSTIやJ-GLOBAL等の無料ツールが国や大学単位の動向把握を主目的とするのに対し,“ReCo®”は学内の経営データと外部データを統合し,大学執行部との対話をもとに分析をカスタマイズできるよう内製で構築しており,研究者単位にまで粒度を上げた分析を通じて経営判断に直結する点に独自性がある.実際,定例会議や教員選考等で“ReCo®”によるデータが活用されており,大学経営におけるデータ活用の有用性と実効性を備えたシステムとして機能している.
さらに,“ReCo®”は執行部との密な対話を通じて得られた“ニーズ”に即したデータを取り込み,定量情報と研究者ヒアリング等のアナログ情報を融合させているという特徴をもつ.これにより,定量的な可視化に加え,数値に現れにくい現場の肌感覚を反映した意思決定支援が可能になった.
本稿では,このようなユニークな特徴をもつ“ReCo®”の構築の経緯と設計思想に焦点を当てて報告する.なお,具体的な活用事例のうち,特に大学執行部による意思決定支援への適用とその成果については,別稿を参照されたい[6].
“ReCo®”システムの開発に至る背景として,まずは大阪大学経営企画オフィスを特徴づけるURA × IR活動について述べたい.
大阪大学では,大学経営担当理事ならびに研究担当理事の配下に経営企画オフィスを設置している.経営企画オフィスのミッションは,大阪大学が「社会変革に貢献する世界屈指のイノベーティブな大学」となるために,研究者に伴走し研究者の肌感覚に合った支援を行う「URA(University Research Administrator)活動」と,大学の強みや弱みを各種データを用いてエビデンスベースで分析する「IR(Institutional Research)活動」の有機的結合(URA × IR活動)により,研究力強化を中心とする経営力強化を推進することを掲げている(図1).

分析データを単に執行部へ提出するだけでは,大学経営に活かされることはほとんどない.分析データを大学経営に活かすには,それをどのように作り出し,意思決定につなげていくのかというプロセスの理解が欠かせない.
多くの大学では,研究現場に近いURA組織と執行部に近いIR組織が独立した組織になっており,下記のような問題を抱えていた.
● IR組織は,分析データを執行部へ提供する役割を担うが,研究現場の肌感覚を十分に理解する機会に乏しく,その結果,現場の実感と乖離した分析データを出してしまうおそれがある
● URA組織は,研究者に寄り添い研究現場の生の声を数多く聞く立場にあるが,それが執行部へ届きづらく,大学経営に結び付きにくい
そこで,これらの状況を打破し,全学的な経営判断・研究支援機能をさらに強化するために,大阪大学では,IR組織とURA組織を一つの組織に統合することで,研究現場の生の声が執行部へ届き,また執行部の考えが研究現場へ届くような「情報の双方向の流れ」を作り上げた.さらに両者を実質的に結びつけるエンジンとして経営企画DXシステムを位置づけることで,URAの現場感覚とIRのエビデンスに基づいた意思決定支援を有機的に結びつけ,大学執行部による「データを踏まえた意思決定」を可能とする体制を整えた(図1).
2.3 大学執行部のニーズの把握大学執行部と経営企画オフィスとの間では,密な定例会議を一週間単位で行っている.執行部から要請のあったデータ分析や調査を迅速に行い,レポートにまとめ,一週間後の定例会議に提出することを2019年より繰り返している.このことは,データ収集・集約の効率化とDXシステム構築の必要性が高まる契機となった.
当初は,都度データを集め,ExcelやBIツールで集計して報告するということを繰り返していた.膨大な量の試行錯誤の経験から,執行部の真のニーズは何か,執行部の潜在的なニーズは何か,どのようなデータ分析は経営判断の役に立つのか,どのようなデータ分析は役に立たないのか,がクリアに理解できるようになった.
このように,分析データをどのように意思決定につなげていくのかというプロセスの理解が進み,さらには膨大なデータが蓄積されてきたこともあり,執行部の潜在ニーズを捉え,普段から分析データを備えておくために,データ収集や分析の自動化を検討するようになった.基本方針として,他部署の労力をかけることなく得られるデータを収集し,自分たちの手の届く範囲内で分析するアルゴリズムを開発するようになって,現在に至る.
執行部のニーズとして主に下記が挙げられる.
● 本学の研究力の世界での立ち位置を可視化
● 人員や予算等のリソース分配状況を可視化
● データを活用した研究プロジェクト創成
● 迅速かつタイムリーなデータ提供
これらのニーズに応えるため,経営企画DXシステム“ReCo®”を独自に開発し,現在に至るまで運用している.“ReCo®”を用いて発行された経営力・研究力に関する分析レポートは260本を超え,定期的に本学執行部へ提供され,データを踏まえた意思決定に活用されている.
経営企画DXシステム“ReCo®”は,大阪大学経営企画オフィスIR部門で独自に開発したものである.学内外に点在する経営力・研究力に関する構造化データや非構造化データを収集し,データベースに統合して一元管理するとともに高度に分析するアルゴリズムを2020年から独自に開発し,試行により効用を確認してきた.スモールスタートでアジャイルに内製することで,必要な機能のみを詰め込んだ,ユーザの肌感覚に合うツールを機動性高く構築することが可能になった.
2024年8月からは,この「大学の経営力・研究力を分析・可視化するツール群」を総称して経営企画DXシステム“ReCo®”(図2)とし,本格的な運用を開始した[4, 5].

“ReCo®”の学内定着と他大学展開を見据え,“ReCo®”を商標登録(登録第6937466号)するとともに,2025年2月19日には「大阪大学経営企画DXシステム運用管理規程」を総長名で制定した.文部科学省が取りまとめた「研究開発マネジメント人材の人事制度等に関するガイドライン」[7]に参考として掲載されるなど,学外からも高い注目を浴びている.
3.2 開発方針“ReCo®”の開発を開始した2019年当時,大阪大学には実務に耐えうる研究力・経営力の情報基盤が存在しなかった.その背景として,①財務情報・在籍者情報・共同研究費等の各種データが学内各部署に散在し一元的に使える状況にない,②データフォーマットがデータ毎に異なる,といった課題が障壁となっていた.そのため,都度データを集め,Excelや簡単なBIツールベースで集計して報告するということを繰り返していた.次第に,執行部にとって有意義なデータ分析や定点観測的に用いるデータについて,パターン化ができるようになり,それらを効率的かつ正確に実行するための自動化を進めていくことになった.
“ReCo®”の開発に当たり,ITベンダー等への外注を行うのではなく,我々はスモールスタートでのアジャイル内製開発を選択した[8, 9].その主な理由として下記が挙げられる.
● 大学執行部による意思決定に必要とされるデータ分析は多岐に渡ることに加え,迅速性が求められること
● 上記の経験を重ねるうちに,潜在的なニーズを把握し,ある程度のパターン化が見込める分析に関しては,その都度分析の自動化を行うことが望ましいこと
● 大阪大学大学院生をリサーチ・アシスタントとして雇用する環境があったこと
● 教員組織でありながら,大阪大学独自の「URA × IR業務を担う事務職員」育成プログラム[10]に採択された事務職員が参画し,密な教職協働が可能な環境にあったこと
以上の要因が重なり,大阪大学経営企画オフィスIR部門に所属する教員だけでなく,事務組織のデータや状況に長けた事務職員,そして大学院生たちが参画することで,現実的な経営企画DXシステムの完全内製化が実現した.
次の項から,“ReCo®”を構成する7つのツール群について説明する.
3.3 ReCo-prime大阪大学に在籍する研究者約4,500人(常勤,非常勤を含む)について,Elsevier社Scopus2)やKAKEN3)など,各種外部データベースの情報をもとに,名寄せ作業を行い,さらに紐づくデータを統合するシステムおよびデータベースである.“ReCo®”を動作させる上での基幹情報となるデータベースである.
本システムは下記のコンポーネントから構成される.
● データ収集・加工:Python4)で実装し,researchmap5),ORCID6),Scopus,Altmetric7)等の外部サービスから各サービスが正式に提供するweb APIまたは正規のダウンロード機能を通じて,利用規約の範囲内でデータを取得.他部署から入手したデータと合わせて正規化処理を行い,研究者単位で統合.
● 名寄せモジュール:Pythonで実装し,氏名表記揺れや同姓同名を補正する名寄せ処理を組み込んでいる.学内外データを正確に統合できるよう設計.
● データベース:軽量で移植性に優れたSQLite8)を採用し,学内の経営データと外部研究データを一元管理.
ReCo-primeには,2025年6月現在,主に下記の情報を格納している.
● 経営データ
◊ 在籍者データ:各月1日現在の現員データ
◊ 財務データ:財務会計システムデータなど
◊ 受託・共同研究費データ:民間企業等からの受入に関するデータ
◊ 外部資金データ:科研費等の公的資金獲得に関するデータ(KAKEN,e-Rad9)よりダウンロード)
● 研究データ
◊ 書誌データ:論文情報,論文数,FWCI10),被引用Top論文数,国際共著論文数,産学共著論文数など(Elsevier社Scopus/SciValよりダウンロードまたはweb APIによるデータ取得)
◊ Altmetricスコアデータ(Digital Science社のweb APIによるデータ取得)
● 研究者情報
◊ 属性(所属・職位・年齢階層など)
◊ 学内兼任情報
◊ 研究室URL
◊ 研究キーワード
◊ 共著者情報
● 周囲動向情報・社会課題情報
◊ 研究分野の立ち上がりのデータ(米国国立衛生研究所RePORTER11)よりダウンロード)
3.4 ReCo-finder独自開発したwebベースの研究者情報ポータルサイトである.研究キーワードや研究者名で検索すると,ReCo-primeデータをもとに,該当する学内研究者のリストを表示することができる.そこから任意の研究者を選択し,遷移する研究者詳細ページには,所属,職位,学内兼任情報,研究室ホームページのリンクのほか,各種外部データベースへのリンクや研究分野,研究キーワードに基づくワードクラウド,Altmetricスコアの高い論文などが表示される.別途大阪大学で運用する公式の研究者総覧ではカバーしきれない,研究に関する情報を網羅した.共同研究者の探索や,新たな研究プロジェクト創成時に関連する研究者を探索するツールとして構築した.
WebアプリケーションフレームワークDjango12)を用いて実装することで,利用者が直接プログラムに触れることなく,安定したデータ利用が可能となる.
3.5 ReCo-stars大阪大学に在籍する研究者約4,500人の研究活動状況を可視化したツールである.ReCo-primeをベースに,Salesforce社の提供するBIツールTableau13)を用いて研究者単位で論文書誌データ,科研費獲得データ,受託・共同研究費データ等を統合し可視化した.
これらのデータは,Elsevier社のScopus・SciValやKAKEN等の外部データベースにて閲覧可能だが,所属・職位・年齢等の学内データと組み合わせ,さらに論文生産・外部資金獲得といった研究ライフサイクルにおける異なるフェーズのデータを統合することで,各研究者の研究活動状況を包括的に把握することができるようになった.さらに,書誌情報については機関の分数カウントや著者ポジション(筆頭著者または責任著者)での集計を行えるように設計し,目的に応じた柔軟な分析が可能になった.
3.6 ReCo-alumni大阪大学の元教員や卒業生など,大阪大学にゆかりのある研究者のうち,現在,世界で活躍する卓越研究者について,研究活動状況を可視化したデータベースおよびデータ作成ツールである.具体的には,Elsevier社のScopusに収録された論文(Scopus論文)のうち,被引用(FWCI)が上位10%となる論文の主要な著者(筆頭著者または責任著者)を抽出し,さらにその著者が大阪大学の所属で過去にScopus論文を発表したことがあるかを自動判定したうえで,実際に大阪大学所属歴があったかどうかや現在の所属をresearchmapやORCIDと紐づけることで判定し,不明分については別途ウェブ調査したものである.このデータを用いて,戦略的な卓越人材確保や効率良い共同研究相手方の探索が可能である.
Pythonで実装し,Scopus,researchmap,ORCID等の外部サービスからweb API経由でデータを取得し,さらに加工・集計している.
3.7 ReCo-foresight新たな研究分野や成長分野の立ち上がりの微弱な信号(weak signal)を定量的に把握するために新規開発したツールである.weak signalの早期検出は,確度の高い研究力強化立案や効果的なプロジェクト創成において極めて重要である.しかし,従来は学会での口コミや研究者のアンテナなどに依存するしかなく,定量的な検出方法がないこと,非専門家ではweak signalかどうかの判断がつかず,情報を得るのが難しいことなどの課題がある.
このweak signalを効率的かつ網羅的に検出するために,我々は独自のアルゴリズムを研究開発し,実装している.一例として,米国国立衛生研究所(National Institute of Health; NIH)の競争的研究資金における採択課題のデータを用いて,研究キーワードの出現頻度の立ち上がりを検出し,その妥当性を検証した[11].
Pythonで実装し,NIH RePORTERからダウンロードした採択課題情報から研究キーワード出現の立ち上がりを検出している.アルゴリズムを含めた詳細は,別稿にて発表準備中である.
3.8 ReCo-asset財務会計システムの膨大なデータを網羅的に解析することで,疑似的に管理会計的な分析を可能としたツールである.大阪大学財務会計システムの総勘定元帳データは10年間で約500万行にもおよび,Excelでの分析が困難であった.そこでBIツールTableauを活用して統合・整理し,ビッグデータ分析と可視化を容易に行えるよう設計した.費目により「費用」と「収益」に仕分け,年度,部局単位で整理し直すことで,実質的に「管理会計システム」を構築した.これにより,大学では実現が遅れていた財務会計分析から管理会計分析への転換が可能となった.後の4.2の項にて活用事例を述べる.
3.9 ReCo-viewer本部事務機構や部局執行部,部局URAなどの認証されたユーザに対し,“ReCo®”を利用しやすい形で閲覧可能にするシステムである.“ReCo®”が扱うデータは機微情報が多く,また活用にはBIツールを駆使する必要がある.本部事務機構や部局のユーザは,データ分析やBIツールに不慣れな場合もあり,これらの状況に対応すべく,システムと収載データを工夫する必要があった.
ReCo-viewer経由で提供する学内共有用“ReCo®”システムは,扱いが困難であり経営企画オフィス以外では不必要な機能を削ぎ落とした簡易バージョンとしたほか,ReCo-viewerにSSO認証システムを導入することで利便性の向上,かつセキュリティの担保を実現した.現在,ReCo-finder,ReCo-stars,ReCo-assetについて,試行的に学内展開を進め,部局におけるデータを踏まえた経営マネジメントへの展開を図っている[12].
大阪大学では,“ReCo®”システムを用いて,経営力分析,研究者分析,研究力分析,研究動向分析等に活用し,日常的にデータを踏まえた意思決定を行う機運が高まった(図2).下記にその事例を述べる.
4.1 分析レポートの発行前述の通り,大学執行部と経営企画オフィスとで,週1回ペースで定例会議が持たれている.この会議において,理事からの問いかけや要請に迅速に応えるための報告資料や定点観測レポートの作成に,“ReCo®”を活用している.
特定のテーマについて調査分析した資料は,「URA × IRレポート」としてシリーズ化している(図3).2020年より発行開始し,現在までに約260報を数える.さらに,大阪大学の研究力を示す主要指標について,月単位で定点観測した「URA × IR月次レポート」も発行しており,大阪大学構成員に向けて学内限定で公表している(図3).毎月繰り返し定点観測するうちに,数字や順位など自学の立ち位置の感覚が自然と身につく効果が期待できる.実際,学内会議等でも引用され,データを踏まえた意思決定の土壌となっている.

これらのレポート作成において“ReCo®”を活用することで,手作業と比べて数分の一の時間で迅速なレポート作成が可能となった.
4.2 データを踏まえた経営マネジメント戦略的な経営マネジメントや戦略の策定等を可能にする管理会計的分析を実現するため,本学にある財務会計システムのデータを網羅的に解析し,疑似的な管理会計分析システムReCo-assetを構築した.これにより,従来の会計体系では捉えきれなかった大学資金の流れを可視化し,透明性の向上と戦略的資源配分の高度化が実現した.
さらに,財務データと研究力データ等の異なる性質をもつデータを統合した上で,部局など用途に応じた単位で分割して可視化することで,全学のみならず部局レベルの経営にも寄与するデータ分析が可能となった.
例えば,財務を透明化し経営判断のもと適切な施策投資を行うことを目指して,人材や予算などの学内資源の分配状況と支出構造について,大学全体ならびに部局単位で可視化した.これにより,学内資源の適切な配分が可能になるとともに,研究費の間接経費など収入面の分析も行えるようになった.
また,年に1回開催される,大学執行部と部局執行部との定期対話の場において,主要部局の経営指標を全学同じ土俵で表現した資料を提供するとともに,各部局の特徴をより的確に示す個別データも併せて提供している.これにより,大学執行部と部局とのデータを踏まえた議論の実現にも貢献している.
大阪大学は指定国立大学に認定されており,申請において掲げた各種KPI(研究力強化,国際共同研究の推進,人材育成の高度化 等)の達成状況を定期的に確認する必要がある.従来は学内外に散在するデータの収集・集計に大きな労力を要したが,“ReCo®”により論文業績,国際共著比率,科研費・共同研究費等を統合的に可視化できるようになり,年次のKPIモニタリングを効率的かつ再現性をもって実施できるようになった.これにより,執行部はKPI達成状況を裏付けとした戦略立案や進捗管理を行うことが可能となり,データを踏まえた経営マネジメントの推進に寄与している.
4.3 社会課題解決志向型研究プロジェクトの創成従来の研究プロジェクト創成では,個々の研究者のシーズに基づきテーマ設定がなされ,社会課題解決との連結に後付け感があることが多かった.またプロジェクトメンバー選定においては,基本的には研究者の人脈に基づき構成されることが多く,必ずしも最適な研究チームの形成に至るわけではない.一方公共性の観点からは,経済合理性に合わない社会課題の解決に向けて,大学における研究開発に大きな期待がかかっている.解くべき社会課題を定め,最適な研究シーズを持つ研究者を集結させ,課題解決に向けて取り組むことが求められている.
大阪大学では,研究者約4,500名の研究分野や研究キーワード,研究業績等を一元化し,検索・可視化が可能なシステムを構築した(ReCo-prime, ReCo-finder, ReCo-stars).加えて新たな研究分野の立ち上がりを検出するReCo-foresightを活用し,最先端かつユニークな研究シーズを持つ研究者を同定することが可能になった.“ReCo®”を活用することで,社会課題解決に貢献する分野横断型の研究プロジェクトを創成する際に,適した研究者を割り出すことが可能になり,総合知による研究プロジェクトを効率良く創成・提案することが可能になった(図4).

実際,2023年度に採択されたJST革新的GX技術創出事業(GteX)バイオものづくり領域に申請した研究プロジェクト[13]の創出において,“ReCo®”が活用され,採択に至った[14].
4.4 人材育成への波及前述の通り,“ReCo®”システムの開発は,経営企画オフィスIR部門メンバーで完全内製しており,これは大阪大学の大学院生や「URA × IR業務を担う事務職員」育成プログラムに採択された事務職員(事務系URA)[10]の参画があって初めて可能となったものである.
これまでリサーチ・アシスタントとして経営企画オフィスの業務に参画した大学院生は延べ96名にのぼる.いずれも研究型総合大学におけるシンクタンク機能をもつ経営企画オフィスで従事した業務を,自らの就職や博士後期課程における研究への糧とした旨述べている.
また事務系URAとしては,大阪大学独自の「URA × IR業務を担う事務職員」育成プログラム[10]によって,これまで財務系および人事系の業務経験をもつ将来有望な若手事務職員が“ReCo®”開発に参画しており,それぞれの業務背景と経営企画オフィスにおけるURA × IR業務経験を存分に活かしながら,現場のデータや状況を踏まえたシステム開発へと反映している.
このように,大学院生や,大阪大学が注力する高度アドミニストレータ人材の育成にも波及している.
4.5 “ReCo®”の実装に対する組織内評価経営企画オフィスで現実的なDXシステムを内製化し,それを実務に活用しながら随時機能拡張を行っていることは,学内からも極めて高い評価を受けている.2022年度には「経営企画DXシステム“ReCo®”の構築」,2024年度には「コストの可視化による最適な資源配分の実現に向けた基盤構築」により,大阪大学賞(大学運営部門)の受賞に至った.
以下,大学執行部(2024年度当時)からのコメントを掲載する.
● 大阪大学 理事・副学長(大学経営,OU構想策定担当)
“ReCo®”は,経営企画オフィスのメンバーが大学執行部や部局との対話を重ね,必要とされる情報(インテリジェンス)とは何かを洗い出したうえで独自に作り上げたものである.大学構成員の肌感覚に合っており,実務に使える点が最大の強みだ.実際に,大学執行部と学部・研究科執行部との定期対話に活用されており,データを踏まえた意思決定の推進に貢献している.
● 大阪大学 理事・副学長(研究担当)
“ReCo®”は,大阪大学の研究者約4,500名の研究活動を可視化しただけでなく,若手研究者間の連携や社会課題解決に貢献する分野横断型の研究プロジェクトの創成にも活用されるなど,大阪大学の研究力強化を加速するうえで,なくてはならないものになっている.今後のさらなる進化に期待している.
本稿では,大阪大学における経営企画DXシステム“ReCo®”の構築とその意義について述べた.本システムにより,学内外に点在していた経営力・研究力に関するデータを自動収集・統合し,手作業と比べて数分の一の時間で迅速にレポートを作成することが可能となった.これにより,大学執行部からの要請に迅速に対応できるようになり,定例会議等における議論の即時性が大幅に向上し,IR駆動型研究マネジメントが加速化した.
また,単なる時間短縮にとどまらず,執行部との密な対話からニーズを汲み取り,それを反映した観点や粒度でデータを提示し,さらに研究者ヒアリング等から得られたアナログ情報も組み合わせることにより,現場の実感に沿った「肌感覚に合う分析」を実現できるようになった.従来もデータを踏まえた意思決定は行われてきたが,膨大な作業コストのために即時対応が難しかった.“ReCo®”は,こうしたプロセスを効率化し,大学経営におけるデータ活用の即応性と実効性を高めた点に新規性がある.さらに,外部委託ではなく内製で開発を進めたことで,必要な機能をスモールスタートで実装し,執行部の要請や学内の状況変化に応じて機動的に拡張できる柔軟性を確保した.このことも,“ReCo®”が実務に根ざしたシステムとして定着しつつある大きな要因である.
今後,さらなる執行部のニーズに応えるべく機能改善や機能拡張を行うとともに,より有用な可視化手法の開発に取り組んでいく.あわせて,“ReCo®”が大学執行部の意思決定プロセスに与える影響や,意思決定文化への定着についても継続的に検証していく.
“ReCo®”を活用し,大阪大学は世界と伍する研究大学に向け,以下に取り組む.
1.経営力ならびに研究力の強化
2.大学活動の透明化を進め,ステークホルダーへの説明責任を強化
3.社会課題解決志向型プロジェクト創成の促進
4.大学間のコラボレーションのツールとしても活用し,我が国全体の研究力向上に貢献
本稿で述べた経営企画DXシステム“ReCo®”の構築においては,大阪大学経営企画オフィスIR部門のメンバーによる多大なる貢献により実現した.特に,高濱和嗣,上原あや,下条裕,前田修作,菊田隆,芹田和則各氏は“ReCo®”のサブシステム構築初期段階において,中心的な役割を担い,実装に取り組んでいただいた.さらに,大阪大学大学院工学研究科,基礎工学研究科などに所属する大学院生(神先史晃,荒木颯太各氏をはじめとする総勢約100名)が学生スタッフとして参画したことで,完全内製を実現することができた.ここに深く感謝の意を表したい.