2025 年 29 巻 1 号 p. 64-71
本論文では,相互評価活動を多段階に拡張して実施可能なMoodleプラグインを独自開発し,それを用いた特徴的な授業実践事例を報告した.Moodle小テストによる任意の作文問題の解答を第一段階として相互評価を行うことができる.第二段階(相互評価)によるレビュー内容は,第一段階で提出した学習者に返却することも,他の評価者に共有することも教授者の設定により可能である.また,レビュー内容に対してコメントが付与でき,それをレビュー者へ返却することもできる.一連の相互評価活動をフェーズに分けた切り替え操作が可能であり,元の課題内容を改善しながら,相互評価を繰り返すこともできる.本論文では,第一段階の解答に教授者による参照解答を割り付け,学習者の思考を促す形式の評価活動事例と,学習者グループによる創作の連鎖活動に適用した事例を報告した.多段階相互評価の仕組みは,多様な学習展開が見込まれる.
近年の情報技術の進展は目覚ましく,私たちは日々大量の情報の受発信を行いながら生活をしている.これらの日常生活の変化は学習活動にも影響する可能性が高く,学習者の学習環境や学習スタイルの変化が考えられる.例えば生成AIの台頭により,学習者が生成AIとの「コミュニケーション」を好み,学習者コミュニティが弱体化し崩壊の危機にあると指摘する研究が出ている[1].
CollinsとHalversonは,2018年「デジタル社会の学びのかたちVer. 2(邦訳)」の中で,「徒弟制」「公教育」「生涯学習」を教育における3つの時代として分け,各時代における教育の特徴を8つの観点から整理するとともに,情報技術を有する現社会での教育の再考を議論している[2].ICT技術を活用する「生涯学習時代」の観点整理の内容としては,例えば学習者の興味や能力に応じた学習のカスタマイズが可能になったこと,学び方を学ぶことの重要性,ICTを介した相互作用への関係性の変化等について述べられている[2].
学校教育におけるICTを介した相互作用の一つとしては,学習管理システム(以後,LMSと記す)を用いた学習者間の相互評価活動があげられる.相互評価は,学習者が他の学習者の成果物を評価するものであるが,その一連の評価活動の学習を通して,学習者自身の対象内容における知識の定着や理解の深化,自身の成果物に対する質的改善等,多岐にわたる効果があることが従前より示されてきた[3–5].相互評価は,学習者に対し同じ学習コミュニティにいる他の学習者がフィードバックを返すものであり,学習活動における形成的評価として役立つと考えられている.形成的評価の枠組みと方略として,Wiliamらは,教師・ピア・学習者を対象とする学習コミュニティ全体が,学習のねらいや達成度を明確化して共有することの重要性を指摘している[6].
本論文では,これら情報化による教育・学習活動の変化を踏まえ,これまで形成的評価として活用されてきた学習者間の相互評価を,ICTを用いて多段階に拡張して実施することにより可能となる学習展開について整理する.特に,学習者のみならず,教授者を含めた相互評価活動を設計することによる学習展開の可能性を考察する.授業で用いるLMS(Moodle)上で,多段階相互評価の学習活動が実施できるように,独自のMoodleプラグインを開発し実装することとした.本論文では,そのMoodleプラグインの設計内容について述べるとともに,当該プラグインを用いての特徴的な授業実践事例を2例,具体的に示す.実際の実践内容を踏まえ,多段階相互評価の仕組みの有用性を考察する.
Liらの相互評価に関するメタ分析の研究[7]では,相互評価の効果に影響を与える可能性のある要因を調査している.著者らが58の研究から得られた知見を統合したところ,最も重要な要因は評価者のトレーニングであり,また,ICTを介した相互評価は,紙ベースの相互評価よりも学習効果が高いことが示されたとされる[7].
本研究では,筆者らの先行研究のアイディアとシステム実装の知見[4]に基づき,LMS上で学習者間の相互評価をさせる際に,評価者としてのトレーニングの一環として,他の学習者の相互評価のレビュー結果を共有し,自身の評価の妥当性について吟味する段階を構想した.想定イメージを図1に示す.図1では,学習者Aの提出物に関する評価は,学習者B,C,D,E,Fに割り当てられる.学習者Aの提出を本相互評価活動の第一段階とし,学習者Aの提出物を相互評価する活動段階を第二段階と定義する(図1では「2」と番号を付した).その後,学習者B~Fの5名のレビュー結果は,学習者Aにフィードバックされる段階(第三段階Aとする.以下3Aと表記),および評価者集団でレビューを共有し妥当性を評価する段階(第三段階B,以下3Bと記す)の二種類を想定する.

この一連の学習活動は,LMS上で課題の提出内容に基づいて,学習者のフォーマルグループを構成する学習デザインに対応し,多段階の評価活動を通して学習者グループ全体の評価能力の育成と提出内容の質的向上を目指すことを主たる目的とする.ICTを用いることで,多数の学習者に対して,学習者間の相互作用は持たせつつも個別学習に分離して適用することが可能である.
学習者へのフィードバック(3A)と評価内容の共有・吟味・改善(3B)は,連続あるいは併用して行うことが有効な場合がある.そのため,図2のように相互評価内容を踏まえ学習者Aが改善した課題内容を,再度相互評価させることもその設計に組み込む.同じ学習者から成る評価者集団が再度,同一内容の評価を行うことで,評価能力のさらなる育成を目指す.

相互評価活動の際に,評価者ならびに被評価者に関し,匿名化するかどうかは,焦点の一つとなる.本研究では,教授者の方針により,匿名か記名かを選択できるシステム設計とする.また,この選択は相互評価活動における過程の任意のタイミングで切り替えを可能とする.
Liらのメタ分析[7]では,ICTを介した相互評価は,ランダム割り当てと匿名性を確保の点で効率的とされる.またPowellらは,評価に不慣れな学習者は過度に否定的な評価をすることがあり,匿名性と教員によるレビュープロセスのモニタリングが,過度に否定的な批判による不必要な不安や感情の傷つきを軽減する方法の一つとして指摘している[8].
これらの先行研究により,評価の返却や評価の共有で不安を持ちうる学習者が生じる可能性がある評価を行う場合には,少なくとも相互評価開始段階では匿名での実施が望ましいと考える.また,図2のように,学習者集団全体で評価内容を改善していく目的で相互評価を行う場合は,学習者間における信頼関係の確立状況を踏まえて,記名での評価活動を行うことにしてもよいと考える.
2.2 Moodleにおける相互評価機能Moodleは日本の国公立大学では半数以上のシェアがあり[9],筆者らも授業で用いている.そのため,本論文では具体的なLMSとしてMoodleをとりあげる.
Moodleではワークショップモジュールとして,相互評価機能を有しているが,前節における3Aまでの機能の一部であり,3Bに該当するものはない.本研究では,相互評価を効果的に実施するために,評価者としてのトレーニングとしての3B(他の評価者の評価内容を確認した上で,自身の評価の妥当性を判断する過程)を重要と考えている.仮に既存のワークショップモジュールにて3B活動を行うには,例えば,別途フォーラム等の機能を使う必要がある.しかし,Moodleのフォーラムは記名式であり,前節に提示した学習の流れにおいて,評価者名を匿名化する機能が不足している.また,ワークショップモジュールとフォーラムという別の機能を併用するため,教授者・学習者とも機能を行き来して内容を確認する等,煩雑な作業が発生する.そのため限られた授業時間内での実施は困難である.以上より,2.1の内容の実施に見合うMoodle上での多段階相互評価プラグインを独自開発した.
本プラグインの開発においては,先行研究[4]で構築したシステムの設計思想を基本とした簡素化と拡張を行った.簡素化としては,第一段階で選択できる小テストの内容を作文問題による自由記述解答のみとしたことである.拡張としては,図2のように評価内容の質的改善を複数回行うことを前提に,フェーズ切り替え機能を付与したことがあげられる.また,先行研究[4]では,3Aと3Bを明確に分けてコメントを表示するようにしていたが,本研究では3Aと3Bを同時に行う可能性を鑑み,学習者コメントを第二段階の学習者に提示する際にはマージして表示するように改訂した.以下,基本機能を順に示す.
2.2.1 多段階相互評価の設定手順実際の設定画面例を図3に示す.

① 相互評価をさせたいMoodle小テストを教授者が選択し,相互評価者数を設定する:本プラグインは,一般のMoodle小テスト機能による任意の作文問題の設問を選択し,それに対する学習者の解答を第一段階として,他の学習者に評価させることができる.この相互評価の付与を第二段階とする.第二段階の相互評価の人数は,教授者が任意に設定できる.
② 相互評価の視点を教授者が指定する:第二段階における相互評価の視点は,ラジオボタン,ならびに自由記述内容に限定されるが,複数設問を教授者が任意に設定することができる.
③ 相互評価結果は,第一段階の学習者に返却(3A),第二段階で同じ解答を評価した評価者全体に対し,共有させる(3B)ことができる.教授者が3A,3Bの適用(場合によっては適用順序)を管理する.
④ 匿名性の可否は教授者が設定する:第一段階の解答者氏名,第二段階の相互評価者の氏名について,開示・非開示を教授者が選択可能である.
⑤ 解答の開始・終了を教授者が設定する:第二段階(相互評価)の解答開始・終了ならびに,第三段階(相互評価に対するコメント.3Aと3Bの2種類ある)の解答開始・終了の日時を任意に設定できる.
⑥ 割り当て:教授者は「割当」タブから,教授者の指定した評価者数に応じた割り当てを行う.
⑦ フェーズ区切り:教授者は一連の相互評価活動のフェーズを区切ることができる.本機能により,相互評価結果の内容を踏まえ,自身の第一段階の解答を更新し,それをさらに相互評価するといった,図2に示すような連続的な学習者間の相互評価が可能となる.
2.2.2 学習者側の確認画面図4に学習者の第二段階(相互評価)のシステム画面例を示す.第一段階の解答者名を「表示」し,3名の解答をレビューするように設定した例である.「レビュー依頼」の項目にある「レビュー」ボタンより,第二段階の相互評価を行う.No 2の「レビュー」ボタンを押下した際の画面例を合わせて図4に示した.「他のレビューを表示」ボタンより,第三段階3Bによる「他者のコメント」を確認でき,他者のコメントに対する自身のコメントを付与できる.また,「あなたへのレビュー」にある「レビューを表示」ボタンより,第三段階3Aによる自身の解答に対する相互評価結果を受け取ることができ,またそれに対する自身のコメント付与もできる.

図4では,第二段階(相互評価)と第三段階(3Aと3B)をすべて入力が可能な場合を例示しているが,相互評価の入力期間外であれば,「レビュー」ボタンではなく,「レビュー期間外」の文字が表示される.また,相互評価の入力のみが許可されている期間であれば,「レビュー」ボタンのみが表示される.
2.2.3 第三段階における相互評価に対するコメントの付与と教授者によるフェーズの切り替え第三段階では,3Aでも3Bでも,第二段階の評価者の解答内容を確認した上で,学習者がコメントを付すことができ,そのコメント内容を対象となる学習者(第二段階の評価者)が確認できる仕組みとしている.
図5に,第一段階の自身の提出内容に関し,教授者が設定した設問に対する他の学習者の解答結果を確認し,コメントを記載する3Aの画面例を示す.なお,教授者は,これらの付与されたコメント一覧を,学習者毎に確認することも,最新のレビューの結果の一覧をcsvにて一括ダウンロードすることもできる.

教授者は学習者の状況を把握し,必要に応じ,相互評価のフェーズを切り替え,改善された課題内容を元に,新たな相互評価活動を行うことができる(図6参照).

本システムでは,プラグインの簡素化として,記述解答のみを起点とする制約を課したが,例えば創作活動における創作物の質の改善に本システムの相互評価を用いる際は,学習者間でのファイルでの情報共有が厳しくなる可能性が考えられる.その点については,実際に用いるファイル群を他のストレージに置き,そのURL等を参照情報として適宜示すなどの工夫で対応可能と考えている.本システムのフェーズ切り替え機能による拡張は,創作物の質を学習者グループ全体で向上させる可能性を有している.
本章では,2章で開発したMoodle多段階相互評価プラグインを用いた授業実践事例を異なる視点から2件示し,多段階相互評価の学習展開の可能性を考察する.
3.1 プログラミング学習への適用筆者らは,所属大学の選択の一般教育科目として,学期後期に2つのプログラミング授業を継続して開講している.指導が行き届くように履修上限を課し,プログラミング言語は,Python(履修者70名程),Ruby(同50名程)を各授業で取り上げる.共に2単位の授業である.
本授業は,前半に基礎課題,後半に応用課題を課す.前半は,1年前期の必修授業で行った基礎事項を含むコードを実行し,その内容を確認する.後半は教員が提示する多数の応用課題の中から興味関心に応じた課題を学習者自身が選択し,一からコードを作成し,完成したコードに関するレポートを課す.レポートに関し簡単な質疑応答を個別に行うことにより,その理解度を確認する.
Scardamaliaらは,授業設計の2つのアプローチとして,目標創出型の「前向きアプローチ」と,正解到達型の「後ろ向きアプローチ」とに整理したとされる[10].本授業は,前半が正解到達型,後半が目標創出型での授業設計に対応する.後半の応用課題は複数提出を認めており,多数提出する者も少なくないが,一方で一題も完遂しない学習者も存在する.これは,前半の正解到達型の学習における知識定着が高くない学習者がいることを示す.そこで,前半の正解到達型の学習に相互評価活動を併用することで,知識の定着を促すとともに,他の学習者との協調的な学習を契機に目標創出型への思考の広がりを目指す学習を試みた[11].
より具体的な詳細は,参考文献11を参照されたいが,本節ではその実践の概要と成果を簡潔に述べる.以下の手順で多段階相互評価を行った.
1:教授者が基礎課題に関連して確認・考察させたい基礎事項に関する設問を作り,教授者自身が参照の解答を行う.これを第一段階とする.これは,教授者の解答を契機とした足場かけを行うことに対応する.
2:当該基礎課題を実施済みの全学習者に対し,第二段階(相互評価)を行わせる.つまり,学習者は,教授者の参照解答に対し,教授者視点で付された設問に解答する.
3:第二段階の評価者(全学生)のレビュー解答を相互に確認する第三段階(3B)を課し,その中の一つに対し,コメントを付す.
本手順により,教授者の参照解答への各学習者のレビュー解答が一覧として付され,それを学習者が互いに確認しあうことができる.図7に第三段階3Bにおける学習者のコメント事例を示す(参考文献11より引用).

例えば,計算における実数の上限・下限値の限界を調べる課題に対し,No 41の解答を確認することを契機として,10.0のべき乗での表示では,指数部の小数が可能である一方,指数形式の表示では整数しか許されないことを実際に確認した学習者がおり,理解の深まりが認められた.
一方で,41の学習者のコメントをそのまま鵜呑みにする学習者もいる.学習者の解答が正しいか否かかは,実際にコードを作成し実行することで確認できる.この一連の相互コメントの確認作業の中で,必要に応じ,教授者からさらなる資料や説明を付加する.この確認の過程で,実数の限界値は,Pythonにおける浮動小数点数がIEEE 754の2進数の浮動小数点演算を用いていることに起因することを理解することもできる.例えば実数の上限・下限という定型的な課題であっても,学習者のコメントに端を発し,正解到達型の学習に留まらない学習者の理解深化の可能性があることが示された.
このように,本プラグインによる学習展開の可能性の一つとして,教授者の参照解答を契機とした相互評価学習が可能であることがあげられる.本システムでは,第一段階を任意の記述問題を用いて相互評価を開始できる.そのため,教授者の参照解答のみを起点にできる.教授者の参照解答を見せた上で,教授者が学習者に対し,第二段階で求めたい検討内容を設問の視点として提示できる.第二段階での学習者の解答は,学習者に相互に共有され,さらに学習者はコメントを付すことができる.教授者が授業課題の意図を参照解答の中に織り込むことで,学習者への足場かけにすることもできる.実際に,本実践の相互評価を経て自身の課題提出内容の誤りを認識し,再提出を自ら行う学習者も存在した.
本実践では,3種類の基礎課題について,コメント付与の実践を行った.全体のコメント数等に関する結果とその具体的な考察については第4章に示す.
本プラグインは多段階の相互評価システムではあるが,その展開可能性は単なる相互評価には留まらない.教授者を含めた学習者コミュニティにおいて,課題の解答を契機として,教授者のコメントや学習者の解答による足場かけを適宜行いながら,学習者自身が新たな問いを見つけ発展させていく「前向きアプローチ」を志向する学習のための実践的プラグインとして活用できる点が新しく有用性があると考えている.
3.2 創作活動を介した著作権学習への適用本節では,学習者コミュニティにおける創作活動に資する多段階相互評価を用いた実践を紹介する[12].詳細は,参考文献12を参照されたい.以下に概要を述べる.
1:学習者が,各自が興味を持った一齣漫画をもとにした短編物語を創作し,当該のMoodle小テスト課題へ提出する.この解答を第一段階とする.
2:学習者は,割り当てられた第一段階の3つの解答の中で,少なくとも1つを選択し,第一段階で提出された創作物語の続きとしての物語を創作する.さらに教授者から,出題されている2つの設問「元の物語において,元の絵を差し替えることは可能か.この絵でないと物語は成り立たないか.絵がない場合,この物語は著作物として成り立つと考えるか」「元の絵をあなたが創作して差し替えたとした場合,元の物語の著作権を持つ人は誰になるか.物語と絵が分離可能な場合,それぞれ著作権は誰が持つか.続きを書いた人はどのような著作権の権利を持つことになるか」について,各自のその時点の考えを述べる.
授業構成上,時間が限られていたため,本実践は第二段階までしか実施していないが,図8に第三段階3Aの画面を例示した.仮に図8にコメントを入れた解答を第三段階として提出した場合は,教授者の設定次第で,第二段階の解答者は,図4における「他のレビューを表示」ボタンから,そのコメントの内容を確認できる.その際は,自身の解答の下に,他者のコメントが3Bとともに列記される作りにしている.

この実践は,本プラグインで,学習者グループによる連鎖的な創作活動に用いることを主眼とした学習が展開可能であることを示している.第一段階における学習者の創作物を核に,連鎖的に創作を重ねながら,グループでの協創による創作学習を行うことが可能である.第三段階3A,3Bにおける学習者のコメントはマージされ,第二段階の学習者に返却される.それを元に,核となる学習者がグループのモデレータとなり,第一段階の解答である創作内容を改変・改善して,再度その内容を学習者グループに問うことができる.その際には,本プラグインのフェーズ切り替え機能を使うことで,各フェーズの解答一覧を保存することもできるシステムとなっている.また,当該グループにおける合意形成が必要な場合には,第二段階の設問にラジオボタンによる選択問題を設定できるため.定型的な決を取ることも可能である.3.2は著作権を学習テーマにしたが,この例に留まらない創作活動の学習に利用可能と考えている.今後,授業での具体的なグループ創作活動に適用していきたい.
3.1のプログラミングの授業において,主たる結果は参考文献11にまとめたが,本章ではさらに,Python授業に関するコメントの付与状況の詳細内容を考察する.
本授業では,3つの基礎課題に対し,第二段階および第三段階Bの相互評価を行った.学習者には,以下の指示および注意を行っている.
・ 面白いと思う解答,不十分と思われる解答に1つ以上コメントする(対象学習者は指定していない)
・ 特に不十分と思われる解答に対しては,その誤りを修正できそうな丁寧なコメントを心掛ける
・ 誰のコメントであるかは教員は確認可能である
・ 相互評価は,学習態度として勘案する(必須の課題とはしていない)
・ 課題を提出後に,相互評価を行うことができる.
表1に,各課題の提出者数,第二段階提出者数,3Bの総コメント数,3Bの提出者数,3B最大コメント数(人あたり,コメントあたり)をまとめたものを示す.
| 課題提出者数 | 第二段階提出者数 | 3Bコメント数 | 3B提出者数 | 最も多く3Bのコメントを付した学習者のコメント数 | 最も多い3Bコメントを受けたコメントの数 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 課題2 | 69 | 47 | 57 | 35 | 16 | 8 |
| 課題3 | 68 | 55 | 27 | 23 | 3 | 3 |
| 課題6 | 68 | 59 | 47 | 39 | 4 | 6 |
基礎課題2は実数の上限下限,基礎課題3は変数の理解,基礎課題6は素数を求める多重ループの穴埋めの課題である.基礎課題は,68–69名が提出したが,第二段階評価を行った学習者は,50–60名程度である.課題2,3,6の順で,第二段階を提出する学習者が増えており,相互評価の実施に慣れたものと思われる.一方,3Bコメント数は,課題2が最も多いものの,一人が同じコメント(正解の時,不正解の時の2種類)を複製し計16件の付与を行っていた.そのため課題6が,最も多種の3Bコメントがあったと言える.
また,第二段階コメントで,最も多く3Bコメントを受けたものは,図7の例に関するものであり,計8名が3B付与していた.次に多かったのは,課題6の素数判定の繰り返し回数を減らす工夫に対するコメントである.「判定する数を奇数に絞るのはとても良いと思います.なんなら調べる数を6n ± 1だけにしてしまっても良いでしょう」「(略)このコメントを見て(2種類の穴の数値を)(1, 2)とおけば1も考慮に入れることができると気づくことができました」等のコメントがなされた.このような3Bコメントがさらに全体の学習者に共有されるため,学習者のさらなる気づきを与える可能性がある.
表1のコメント数の違いより,相互評価を行わせる課題内容と何に対しコメントをさせるかの工夫により,相互評価の効果が変わる可能性がある.相互評価コメントの問いかけ手法については今後も検討を行っていく.
また,本論文では,教授者による足場かけを第一段階とする相互評価活動の可能性を示したが,現状では著者らの実践のみで行っている状況であり,本プラグインが一般教員に対して容易に利用可能であるか否かは今後展開を進め,必要に応じて改善を進める手順も必要になると考えられる.ICTによる相互評価は,ランダム性と匿名性の観点で優位であることは先述したが,それでも,相互評価で避けるべき対象者がいる場合は,現状はグルーピング機能を用いる必要があり,工夫が必要である.
さらに,本プラグインの展開可能性は多様であるが,現時点まででは創作物の改善フェーズを繰り返す図2の実践は行えていない.授業全体の時間数を鑑み相互評価活動の効果的割合とフェーズの繰り返し回数の最適化についても検討を進める必要があると考える.本プラグインによる学習展開の多様性は間違いないものの,その具体的かつ効果的展開には今後の実践の積み重ねを要する.
本論文では,Moodleで利用可能な多段階相互評価プラグインを開発し,特徴的な実践例を2例示した.教授者からの参照解答を起点とした相互評価活動では,他の学習者の解答や教授者の資料提示等が,学習者の足場かけにつながり,学習項目に対する理解深化が見られた.また,学習者グループによる連鎖創作活動への適用を行った事例では,学習者を核とした創作グループを形成することによる学習展開が実践可能であることを述べた.
本システムによる多段階の評価活動は,単なる相互評価に留まらない.ICTを介した学習者間の相互作用により,評価の題材となる学習項目に関連した知識を契機として学習者自身が問いを見つける「前向きアプローチ」を志向できる.学習者コミュニティの活性化につながる学習活動が展開可能であると考える.本システムを用いた授業実践を今後も重ね,学習展開の可能性を調査していきたいと考えている.
本研究の一部はJSPS科研費23K22310の助成により実施されたものである.また,多段階相互評価の機能実装の基本仕様は,故・岡部成玄名誉教授の高い寄与によるものを継承しており,ここに深く感謝する.