2025 年 29 巻 1 号 p. 228-234
本研究は,国立大学7校91部局の私費研究留学生向けの出願要項を対象とする事例から,大学院留学希望者アドミッションへのICT導入の実態と課題について考察した.本事例研究では,大学院留学希望者アドミッションにおいて,91部局中83部局で,出願に先立ち受入教員による事前内諾を要する共通の業務フローが確認された.さらに,これら個々の業務において,ICTの導入が一定程度進んでいる現状も明らかとなった.一方で,ICTの導入は導入主体や業務ごとに分断されており,断片的かつ非体系的であることが課題として浮き彫りとなった.最後に本稿は,事例研究の結果を踏まえ,大学院留学希望者アドミッションにおいて,包括性と柔軟性を担保したICT支援環境の戦略的な構築が不可欠であることを提言した.
優れた大学院留学生の獲得は,日本の研究競争力,持続可能な成長,国際競争力の強化にかかわる重要な戦略とされている[1].留学生獲得をめぐる国際競争が激化するなか,情報通信技術(以下,ICT)を導入し,アドミッション1)段階から業務やサービスを変革することは,優秀な留学生の獲得に欠かせない要素である[2].世界の主要な留学生受け入れ国では,戦略的にICTを導入し,アドミッション段階から留学生受け入れ体制の構築を加速している一方で,日本は遅れを取っていると指摘されている[3–6].
その一例として,世界の主要な留学生受け入れ国ではWeb出願2)が一般的であるのに対し,日本では依然として紙媒体による出願が主流である[3–6].これは,運営の簡素化・迅速化を図るとともに,円滑なアドミッション業務遂行を妨げる深刻な課題となっている.そのため,出願,選考,合否通知といった入学者選抜の全過程におけるICT導入は,喫緊の課題とされている[5].
このように,大学院留学生アドミッションにおけるICT導入は,日本の大学における留学生の獲得のみならず,アドミッションの効率化の実現においても重要な役割を果たすことが期待されている[5, 6].
大学院課程は学士課程より専門性が高く,専門分野に適した評価を可能にするために,世界的に見ても小規模な募集単位で入学選考が行われる傾向にある[7–13].日本の大学院においても同様に研究科または専攻単位(以下,部局)での入学者募集・選考が一般的である[4, 6, 12].それゆえに,大学院アドミッション全体を議論することが難しく,詳細な制度や業務の実態を把握し,比較検討した研究はきわめて少ない[4, 6, 12].
また,大学院アドミッションにおけるICT導入に関する先行研究も限られている.その中で,個別大学,または個別専攻の大学院アドミッションにおけるICT導入の実践的な事例報告[6, 14]や,アメリカの大学院におけるアドミッション業務に関する現地調査の中で,ICT導入の状況に言及している報告が見られる[4].
杉原らは,一国立大学において,「志願者の利便性の向上」および「大学のグローバル化と市場化への対応」を目的に,2年をかけて学部と大学院入試のためのWeb出願システムの導入を実現した事例を報告している[6].このシステムの導入により,出願事務の効率化が図られただけでなく,出願書類等のデータをもとに個人ポートフォリオを作成することが可能となった[6].一方で,大学院重点化総合大学(以下,総合大学)において,「大学院課程の入試が多種・広範に実施されていることから,システムの構造は多岐にわたり複雑化し」た[6, p. 118].そのため,「システムの構築自体にも相当の時間と労力を要した」うえ,その運営管理にも予想以上の負担を要したことが報告されている[6, p. 121].このことから,部局ごとに実施される多種多様な大学院入試は,総合大学における大学院アドミッションへのICT導入に難題を突きつけていることがうかがえる.また,杉原らの報告から,留学生アドミッションがICT導入を促進する要因の一つとなっていることもうかがえる.
相澤は,一国立大学の情報系研究科のある専攻において,ICT導入による大学院入試のオンライン化に関する実践的な事例を報告している[14].この報告によれば,入試に関わる一連のプロセスには,「試験」だけでなく,膨大かつ多様な作業が含まれている.しかも,同一研究科内であっても,専攻ごとに運営方針や入試に関する対応が統一されていない.当該専攻では,広報,選抜評価業務,願書提出,受験票発行,合格通知といった一連の入試業務を完全にオンライン化した.しかし,その実現には2年を費やした.結果的に,入試オンライン化を担う委員会メンバーには大きな負担がかかったものの,各種入試業務の省力化につながったことが報告されている[14].
本田らは,アメリカの大学院アドミッション業務における現地調査の結果を報告している[4].アメリカは大学院教育,特に修士課程の大衆化が進んでおり,大学院アドミッションにおけるICT導入も進んでいた[4].この報告によれば,訪問先の4つの大学院において,修士課程・博士課程,国内生・留学生を問わず,アドミッションの業務がオンライン化されていた[4].
アメリカの大学アドミッション業務におけるICT導入が進んでいた背景には,留学生の募集・選考との深い関わりがある.Whiteによると,1990年代後半まではアメリカでも,募集・入学選考に関する書類のやり取りは,ほとんどが郵送で行われていた[15].留学生の募集・選考を効率化するためにICT導入が進み,現在は,ICT導入活用は,留学生の募集・選考を行ううえで不可欠なものとなっている[15].
このように,先行研究では,海外の大学院アドミッションにおけるICT導入の動向や,日本国内,特に国立大学の個別大学または専攻レベルでのICT導入の試み,その利点・効果・困難さ,さらに日本国内外の留学生アドミッションがICT導入を促進する一因となっていることが明らかにされてきた.しかし,現在,ICTが日本の大学院アドミッションにおいて,特に留学希望者アドミッションにどのように導入されているかについては,明らかになっていない.そこで,本研究は,大学院留学希望者アドミッションにおけるICT導入の実態と課題を明らかにすることを目的とする.
本研究は,参考文献[16]に基づき国立大学7校91部局の私費研究留学生向けの出願要項を対象とした事例研究を採用した.
3.2 事例対象国立大学7校はいわゆる旧帝大に該当する.国立大学を事例として選んだ理由は,大学院に在籍する留学生の約6割が国立大学に在籍している点にある[17, 18].その中でも旧帝大を選定したのは,これらの大学が日本の高等教育や研究をリードしつつ,大学院教育と国際化を積極的に推進しており,かつICT導入が困難と報告されている総合大学[6]であるためである.また,本研究では7大学の120部局を事例対象としたが,分析対象となった91部局は,出願要項の内容に基づきデータ抽出を行った結果である(表1).
出願要項は,志願者に対して出願の条件や手続きに関する情報を提供するものであり,アドミッション業務の実態を把握する重要な手がかりとなる[19].本研究では,私費研究留学生向けの出願要項を事例対象とした.私費研究留学生に対象を絞った理由は次のとおりである.
「留学生」とは,入国管理局が発行する「留学」という在留資格のビザにより,日本の高等教育機関で教育を受ける者を指す[17, 18].「研究生」という制度については,各大学や研究科ごとに独自の定義や運用がなされているが,その主な特徴としては,学位を取得するための課程ではないこと,受入教員のもとで研究を行うこと,選考が必要であることなどが挙げられる[20].以上を踏まえ,本稿では,「研究留学生」を「留学」の在留資格により,学部または大学院に正規入学せず,研究生(非正規生)として在籍する留学生と定義する.
一般的に留学生は,留学生特別入試による選抜を経て入学するか,あるいは留学生入試を実施していない研究科・専攻を志望する場合は,一般入試による選抜を経て入学することになる.しかし,大学院教育を受ける留学希望者は,一般入試や特別入試を受ける前に半年から1年間,研究生として在籍することが,旧帝大から推奨される,あるいは事実上求められている場合が多い[21–23].その目的として,日本での生活や言語への適応や,難関大学の大学院入学試験に備えることが挙げられる.そのため,研究留学生は大学院留学希望者の一例だと考えられる.本研究が私費研究留学生に対象を絞っている理由は,留学生全体の95%以上を私費留学生が占めているという実態に基づいている[17, 18].
したがって,本研究では,旧帝大における私費研究留学生向けの出願要項を事例に,大学院留学希望者アドミッションにおけるICT導入の実態と課題を把握することとする.
3.3 データ収集データ収集にあたっては,まず,全対象大学の全部局の公式Webサイトに記載されている入試情報や入学案内などの研究生の募集・出願情報ページにアクセスした.ただし,一部の部局においては,研究生の募集・出願情報が入試情報ページではなく,留学生向けの情報ページに掲載されている場合もあった.その場合は留学生向けの情報ページから,研究生出願要項を確認した.
3.4 データ抽出本研究は,7つの対象大学における120の部局のホームページを確認し,そのうち103部局が研究生を募集していることを確認した.この103部局のうち,11部局では募集案内が公開されておらず,詳細については個別に問い合わせが必要であった.そのため,実際に研究生に関する募集案内をWeb上で公開していたのは92部局となった.さらに,その92部局のうち1部局については,出願資格のみが掲載されており,出願の手続きに関する詳細が記載されなかった.したがって,最終的にWeb上で確認可能であった91部局の出願要項をデータとして抽出し,ダウンロードした(表1).
これら91部局において国費留学生向けの募集案内は別になっており,本研究の分析対象に含めていない.出願要項は定期的に更新されている場合,本研究では2025年4月入学者向けのバージョンをダウンロードした.
3.5 データ分析参考文献[24–26]に基づき,ダウンロードした出願要項を質的データとして文書分析を行った.まず,アドミッションの業務内容に着目し,文書中のテキストデータを要約した小見出しを付与した.次に,類似する小見出しをカテゴリー化し,共通カテゴリーを抽出したうえで,該当する部局数を集計した.さらに,各業務プロセスで導入されている方法やICTツールに着目し,同様に小見出しを付与したうえで,類似する小見出しをカテゴリー化した後に,共通カテゴリーを抽出し,該当部局数を集計した.なお,データ収集・抽出・分析のすべての段階において,研究担当者に加え,2名のリサーチ・アシスタントによる確認が行われた.
入試業務は,学部・大学院を問わず,出願,選考,合否通知から構成されるものとして論じられてきた[4–6].これに対し,本研究では,大学院留学希望者アドミッションにおいて,出願に先立ち,受入教員による事前内諾(以下,内諾)が必要となることが確認された.つまり,一般的な入試プロセスの前に,内諾が加わる業務フローとなる(図1).本研究ではこのフローが91部局中83部局に確認された(表23)).

具体的には,83部局中50部局では,「内諾」の段階と,出願書類提出後に部局の教授会審議による委員会選考が行われる段階という,二段階のアドミッションプロセスがとられていることが明らかになった.一方,83部局中32部局では「内諾」以外の選考方法については言及がなかった.加えて,「内諾」以外に,試験を実施すると明記していたのは,F大学の1部局のみであった.また,91部局のうち事前内諾を求めない8部局では,予備審査と本審査,あるいは書類審査と面接といった形で,別の二段階選考が実施されていることが確認された(表2).
4.2 事前内諾出願に先立ち内諾を求めている83部局のうち,42部局では「教員の内諾が必要」という記載のみで,組織的なICT導入による内諾取得支援に関する記述は見受けられなかった.そのため,これら42部局においては,受入教員へ直接メールで内諾について連絡する必要があると推測される.一方,5大学35部局では,全学共通の申請システムによる内諾取得支援が明記されていた.これら35部局中30部局では,受入教員へ直接メールで連絡する前に,必ず全学システムを通して,内諾を申請するよう案内されていた.また,35部局中5部局では,全学システムを通して内諾申請,または,受入教員への直接メールのいずれかを選択できるよう案内されていた.さらにB,C,D,Fの4大学6部局では,部局国際担当または教務担当によるメールを活用した支援も確認された(表3).
| 部局数 | ||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 事前内諾依頼方法 | A大学 | B大学 | C大学 | D大学 | E大学 | F大学 | G大学 | 合計 |
| 全学システム | 4 | 3 | 11 | 7 | 5 | 30 | ||
| 全学システム/教員へ連絡 | 1 | 3 | 1 | 5 | ||||
| 部局国際担当へ連絡 | 1 | 2 | 1 | 4 | ||||
| 部局教務担当へ連絡 | 1 | 1 | ||||||
| 部局教務担当へ連絡/教員へ連絡 | 1 | 1 | ||||||
| 教員へ連絡 | 11 | 8 | 7 | 3 | 2 | 6 | 5 | 42 |
| 原則内諾不要 | 1 | 5 | 1 | 1 | 8 | |||
| 合計 | 17 | 9 | 13 | 10 | 13 | 17 | 12 | 91 |
出願に必須とされる書類の中で,最も共通しているのは所定様式の入学願書と,卒業・修了(見込み)証明書といった学位証明書類であった.91部局中85部局で所定様式の入学願書,86部局で卒業・修了(見込み)証明書の提出が求められていた.また,それ以外に,成績証明書を求めている部局も67部局確認された(表4).
| 部局数 | ||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| (必須共通)出願書類 | A大学 17 |
B大学 9 |
C大学 13 |
D大学 10 |
E大学 13 |
F大学 17 |
G大学 10 |
合計 91 |
| Web出願 | 2 | 2 | ||||||
| 入学願書(所定様式) | 17 | 9 | 13 | 9 | 10 | 17 | 10 | 85 |
| 卒業・修了(見込)証明書 | 17 | 9 | 13 | 8 | 12 | 17 | 10 | 86 |
| 成績証明書 | 12 | 8 | 13 | 5 | 9 | 12 | 8 | 67 |
| 履歴書 | 12 | 5 | 0 | 6 | 8 | 12 | 10 | 53 |
| 研究計画書 | 12 | 1 | 8 | 6 | 8 | 12 | 3 | 50 |
| 写真 | 11 | 2 | 7 | 7 | 8 | 2 | 4 | 41 |
| パスポートの写し | 9 | 3 | 2 | 7 | 6 | 9 | 4 | 40 |
| 推薦書 | 6 | 1 | 6 | 6 | 4 | 4 | 6 | 33 |
| 日本語力証明書 | 6 | 2 | 7 | 2 | 2 | 6 | 4 | 29 |
| 経済能力を証明する書類 | 2 | 1 | 1 | 7 | 0 | 2 | 0 | 13 |
| 英語能力証明書 | 1 | 2 | 2 | 1 | 1 | 1 | 2 | 10 |
| 詳細なし(明記なし/受入内諾後に別途案内) | 1 | 2 | 3 | |||||
前項では,91部局中85部局で所定様式の入学願書(以下,所定様式)の提出が求められているという結果を示した.その所定様式がどのように提供されているかを見てみると,64部局においては,ICTツールを活用した提供が実現されていることが確認できた.特にC大学では,すべての部局(13部局)で独自のICT支援が導入されており,システムまたは公式Webサイトからのダウンロード,または両者の併用によるICT導入が進んでいることがわかった.一方で,27部局において,所定様式の提供について「内諾後に案内する」とされている場合や,明記されていないケースも見受けられた.このことから,こうした所定様式の提供については,個別に案内を行う業務が発生する可能性があると考えられる(表5).
| 部局数 | ||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 所定様式提供方法 | A大学 | B大学 | C大学 | D大学 | E大学 | F大学 | G大学 | 合計 |
| Web出願システム | 9 | 2 | 2 | 64 | ||||
| 公式Webサイト | 4 | 8 | 10 | 6 | 2 | 13 | 7 | |
| Web出願システム&公式Webサイト | 1 | |||||||
| メール/郵送/窓口にて請求/問い合わせ | 1 | 1 | 2 | 4 | 3 | 1 | 27 | |
| 内諾後案内(部局教員/国際担当/教務担当) | 2 | 2 | 2 | 1 | 1 | |||
| 明記なし | 1 | 3 | 3 | |||||
| 合計 | 17 | 9 | 13 | 10 | 13 | 17 | 12 | 91 |
所定様式の提供に比べ,出願書類の提出方法に関するICT導入は十分に進んでいないことが明らかとなった.出願書類の提出がWeb出願システムで完結するのは8部局であり,メールで提出するのは1部局のみであった.したがって,完全にオンラインで出願書類の提出を完了できる部局はわずか9部局にとどまり,全体の1割未満であった.また,14部局では,Web出願システムの導入が確認されたものの,Web出願システムと郵送を併用した提出が求められていた.さらに,39部局では,郵送や窓口での提出,郵送とメールの併用,あるいは教員を通じた提出も確認された.29部局では出願書類の提出方法が明記されておらず,ICT導入状況が不明であった(表6).
| 部局数 | ||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 出願書類提出方法 | A大学 | B大学 | C大学 | D大学 | E大学 | F大学 | G大学 | 合計 |
| Web出願システム | 6 | 2 | 9 | |||||
| メール | 1 | |||||||
| Web出願システム&郵送 | 7 | 3 | 14 | |||||
| Web出願システム&メール&郵送 | 4 | |||||||
| 原則郵送 | 2 | 3 | 3 | 4 | 39 | |||
| 原則窓口 | 1 | 1 | 2 | |||||
| 郵送/窓口 | 2 | 2 | 1 | 1 | 3 | 9 | 1 | |
| 郵送&メール | 1 | |||||||
| 受入教員提出 | 3 | |||||||
| 明記なし | 4 | 4 | 6 | 6 | 1 | 8 | 29 | |
| 合計 | 17 | 9 | 13 | 10 | 13 | 17 | 12 | 91 |
さらに,出願書類の提出に使用されるWeb出願システムは,各部局が所定様式を提供する際にも利用しているシステムと同一であることが確認された.しかし,システム画面下部の著作権表示から,同一大学内であっても各部局が導入しているWeb出願システムは複数のベンダーによって提供されていることがわかった.また,各部局独自のWeb出願システムは,内諾に使用される全学共通の申請システムとは別個に運用されていることも明らかとなった.
その結果,同一出願業務に対して部局ごとに複数のシステムが併存する状況となっており,大学全体の視点から見ると,システム開発や保守に係るコスト重複を生じさせる可能性がある.さらに,同一大学内であってもアドミッション業務ごとに異なるシステムが運用されているため,志願者は内諾取得時と出願時で別々のシステムを利用する必要があり,追加的な負担を課すことを意味する.
4.3.4 検定料支払い本研究の全対象91部局において,検定料として9,800円の支払いが求められている.91部局中53部局では,第三者機関によるE支払いサービスを導入しており,検定料支払いにおけるICT導入が進んでいることが明らかとなった.一方で,16部局では,銀行や郵便局での振り込みを求めていた.22部局では,職員から別途指示がある,志願者側からの問い合わせを求める,あるいは情報が明記されていない,いずれかのケースに該当することが確認された.これらの22部局では,検定料支払い方法に関する問い合わせ対応や案内業務が発生することが想定される(表7).
| 部局数 | ||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 検定料支払い方法 | A大学 | B大学 | C大学 | D大学 | E大学 | F大学 | G大学 | 合計 |
| E支払いサービス | 13 | 7 | 1 | 7 | 8 | 5 | 53 | |
| E支払いサービス/振込/払込/郵便為替 | 1 | 4 | 1 | 1 | 3 | 2 | ||
| 振込/払込/郵便為替 | 1 | 4 | 1 | 1 | 4 | 4 | 1 | 16 |
| 別途指示 | 3 | 4 | 3 | 22 | ||||
| 要問合せ | 1 | 2 | 1 | |||||
| 明記なし | 1 | 1 | 3 | 1 | 1 | 1 | ||
| 合計 | 17 | 9 | 13 | 10 | 13 | 17 | 12 | 91 |
合否通知の方法について,E大学の2部局が,Web出願システムを通じた合否通知を実施しており,F大学の1部局が公式Webサイトで通知を行っていた.また,7大学20部局ではメールによる合否通知を実施していることが確認された.ICTツールを活用した通知が行われている部局は,全体の約4分の1にとどまっている.
また,17部局では郵送,または郵送とメールを併用した通知を行っていた.さらに,24部局では,合否結果について,「通知」「知らせる」「送付」といった表現はあるものの,通知方法の具体的な記載はなかった.また,27部局では合否通知に関する記載自体が見られなかった(表8).
| 部局数 | ||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 合否通知方法 | A大学 | B大学 | C大学 | D大学 | E大学 | F大学 | G大学 | 合計 |
| Web出願システム | 2 | 3 | ||||||
| 公式Webサイト | 1 | |||||||
| メール | 1 | 1 | 5 | 2 | 1 | 7 | 3 | 20 |
| 郵送 | 1 | 2 | 1 | 7 | 3 | 1 | 17 | |
| 郵送&メール | 2 | |||||||
| 方法不明 (通知/知らせる/送付) | 1 | 4 | 4 | 4 | 2 | 3 | 6 | 24 |
| 明記なし | 14 | 2 | 3 | 4 | 1 | 1 | 2 | 27 |
| 合計 | 17 | 9 | 13 | 10 | 13 | 17 | 12 | 91 |
以上のように,本研究では,大学院留学希望者アドミッションにおいて,91部局中83部局では内諾,出願,選考,合否通知という一連の共通した業務フローが確認された.また,大学や部局ごとに差異が見られるものの,個々の業務において,ICTの導入が確認された.特に,内諾における全学共通の申請システムの導入や,出願における部局独自のWeb出願システムの導入といった取り組みも確認された.このことから,事例対象大学において,大学院留学希望者アドミッションの各業務において,ICTの導入が一定程度進展していることが示された.
これは,日本の大学院アドミッション業務においては依然として紙媒体によるものが主流であると指摘されている既存研究[3–6]の見解とは対照的な結果である.このことから,事例対象の大学と部局では,ICT導入の重要性と有用性を認識し,実際にその導入に積極的に取り組んでいる可能性があることが示唆された.
しかし,同一大学内で,内諾で導入されている全学共通の申請システムと,出願で導入されているWeb出願システムは異なるものである.さらに,Web出願システムは部局ごとに異なるベンダーによって導入されていることから,大学院留学希望者アドミッションにおけるICT導入は,導入主体や業務ごとに分断され,断片的かつ非体系的であるという課題が浮き彫りになった.その結果,大学全体の視点から見て,ICT開発・保守コストの増大を招くだけでなく,教職員の負担軽減効果も一部の部局に限定され,志願者にとっても負担が増える可能性が高いと考えられる.これらの結果は,連続する業務プロセスを一貫して支援する大学ICT環境が整備されておらず,大学全体の視点に立ったICT導入戦略が欠如していることが示唆された.
このような現状を踏まえると,大学院留学生アドミッションにおいては,内諾,出願,選考,合否通知といった連続する業務プロセスを一貫して支援できるよう,包括的なICT環境を戦略的に整備していくことが不可欠である.その際,各部局の多種多様な大学院入試に柔軟に対応できるICT環境の整備を重要な課題として位置づけ,取り組む必要がある[6].このような包括性と柔軟性を担保したICT環境の整備は,志願者の利便性を高め,多様な留学志願者を惹きつけるとともに,全学の留学生受け入れ業務の負担を軽減する魅力的なデジタルインフラの構築に寄与する.さらに,大学院留学生アドミッションにおいて,大学全体として最適化されたデジタルインフラの構築が進み,組織運営の効率化や国際競争力の強化にもつながることが期待される.
本稿では,事例研究の結果を踏まえ,大学院留学生アドミッションにおいて,包括性と柔軟性を担保したICT支援環境の戦略的な構築が不可欠であることを提言した.今後は,特に総合大学の大学院アドミッション全体におけるICT導入の実態と課題を体系的に把握していくことが求められる.例えば,国費研究留学生のアドミッション業務や,大学院留学生を対象とする一般入試・留学生特別入試におけるICT導入の実態を明らかにし,本研究で明らかになった私費研究留学生のアドミッション業務へのICT導入の実態と比較することが重要である.さらに,留学生アドミッションにおいては,国際的な競争環境の中で各大学が競争力を発揮していく必要があることから,海外の先進事例との比較調査も,実態調査における重要な課題の一つとして位置づけられる.
本研究の分析は,あくまで出願要項に記載された情報に基づき忠実に行ったものであるため,志願者向けに明記されていない大学でのICT導入の実態や課題については,把握が困難であった.そのため,大学院アドミッション業務に関わる教職員を対象に,アドミッションにおけるICT環境整備のニーズ,さらにICT導入に対する期待や懸念を含めた調査研究の実施が求められる.そして,これらの調査結果を踏まえ,包括性と柔軟性を担保した,大学院留学生アドミッションにおけるICT環境の構築をいかに実現していくかについて,学内外のステークホルダーによるさらなる議論が必要である.
本研究の一部は大阪大学「D3センター学際共創プロジェクト」の支援により,実施されました.また,本研究の一部は,大阪大学研究支援員制度の支援により実施されました.最後に,本論文の質・読みやすさを向上させるための意見をくださった匿名の査読者に感謝申し上げます.