中央銀行は非伝統的金融政策(短期金利の操作以外の政策手段)を形成する際、いかなる要因を重視するのか。2008年以降の日本は過度な円高やデフレに直面した一方、日本銀行(日銀)は強い批判に晒されたにもかかわらず、非伝統的金融政策に消極的であった。これは、既存理論によって十分な説明ができない点で、逸脱事例として位置付けることができる。本研究は、2008年から2012年までの日銀の金融政策形成について過程追跡を行い、中央銀行は政策形成に際しその国の支配的な金融機関の利益を重視する、という仮説を提示する。日銀は、金融政策がより大きな効果をもたらすための経路として、支配的な金融機関である銀行の貸出を重視していた。日本における銀行は、非伝統的金融政策から打撃を受ける経営モデルを採用していた。そのため日銀は、過度な低金利が金融仲介機能を低下させることを懸念して、緩和の拡大に消極的だった。