本研究は、下院議員のみが投票権を持つ党首選出制度を採用していたイギリス保守党を事例に、投票権を持たない党地方組織がどのような役割を果たしていたのかを検討した。先行業績は、投票権の有無を基準にして、党首選出における党内民主主義の程度を開放性から閉鎖性のスペクトラム上で位置付けてきた。だが、成文化された権利規定だけでは、党内の民意伝達プロセスを十分に捉えることはできない。むしろ、投票権以外の党内民主主義の捉え方として、党内固有の慣行が重要な役割を果たす場面は少なくない。
本稿では、党首選出過程におけるインフォーマルな党内慣行を明らかにするため、解釈主義アプローチの立場から検討した。分析の結果、保守党は、議会主権と党内民主主義を両立させるため、下院議員と党地方組織との間で事前協議を行った後、その判断を議員に委任していたことが明らかになった。本稿は、成文化された権利規定の枠外にある非公式慣行が、党地方組織からの民意伝達を補完していたことを指摘する。
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