2012 年 26 巻 5 号 p. 571-576
症例は72歳,男性.呼吸困難感のため施行された胸部CT検査にて前縦隔腫瘍を指摘され,当院紹介となった.胸部CT検査では,両側胸腔に進展し心臓を圧排する24×20×9 cm大の前縦隔腫瘍を認めた.Clamshell切開に下部胸骨正中切開を追加して腫瘍摘出術を施行した.摘出された腫瘍重量は3500 gで病理組織学的に粘液線維肉腫と診断された.呼吸困難感は消失し,術後24日目に退院した.術後6ヵ月目に胸膜播種再発したが,術後15ヵ月間呼吸器症状の訴えなく,生存中である.Clamshell切開に下部胸骨正中切開を加えたアプローチは,左右胸腔に広範に広がる巨大な縦隔腫瘍の術野展開,特に胸腔内背側・肋骨横隔膜角近傍まで,と腫瘍の一塊摘出に際し有用であり,麻酔導入時や術中の腫瘍の心圧迫による循環不全の回避の点で安全なアプローチ法と思われた.