【背景】単孔式VATS(uVATS)は徐々に本邦で広まっている低侵襲アプローチであるが,その周術期成績に関する報告はまだ少ない.
【方法】2017年4月~2024年6月までに当院で肺腫瘍に対し解剖学的肺切除を受けた637例(uVATS群390例,多孔式VATS群247例)を対象に周術期成績を比較した.さらに,原発性肺癌に対し縦隔リンパ節郭清を伴う肺葉切除を施行した337例,および区域切除例220例について,傾向スコアマッチング前後で比較した.
【結果】全ての比較においてuVATS群で有意に手術時間,ドレナージ期間が短かった.出血量,開胸移行,血管損傷,郭清リンパ節個数,術後合併症に差はなかった.術後在院日数は傾向スコアマッチング後の区域切除例を除きuVATS群で有意な短縮を認めた.両群とも手術関連死亡はなかった.
【結語】uVATSの周術期成績は良好であり,安全に施行可能である.
症例は45歳,女性.胸痛と呼吸困難を主訴に近医を受診し,右気胸の診断で当科へ紹介受診.胸腔ドレナージ直後のCTで,気胸とは別に右肺S6に部分充実型結節影を認めた.翌日のCTでも結節影は残存し,原発性肺癌の併存を考え,それぞれを一期的に手術する方針とした.なお,月経期に相当した.胸腔鏡下右肺S6区域切除および肺囊胞切除術を施行した.横隔膜面に裂孔とブルーベリースポットを認め,気漏の原因は中葉S4辺縁のブラであった.病理所見でブラ近傍に異所性間質を伴った上皮を認め,免疫染色でER,PgR,CD10はいずれも陽性であり,月経随伴性気胸と診断した.S6病変は上皮内腺癌 pTisN0M0 stage0であった.月経随伴気胸をはじめとする気胸疾患においても,併存疾患を見落とさないように術前CTを精読することが大切である.
症例は79歳男性.同時性多発肺癌(右上葉cStageIA2期,右中葉cStageIB期)に対し胸腔鏡下右肺上中葉切除術+ND2a-1を施行.翌日より乳白色調に混濁した胸水が排出され,性状から乳び胸と診断した.保存的治療が無効であったため,経皮経腹的胸管破砕術(Thoracic duct interruption:TDI)を施行したところ治療は奏功し乳び胸は軽快した.TDIは難治性乳び胸に対する治療として有効である可能性が考えられる.
症例は60歳女性.検診を契機に右肺下葉の囊胞性病変を指摘された.その後右I度気胸を発症し,経過観察で改善が得られないため手術を施行した.囊胞はS9-10から発生する有茎性囊胞であり,胸腔鏡下右肺部分切除術を施行した.病理組織像は,囊胞内に孤立性線維性腫瘍(solitary fibrous tumor;SFT)がびまん性に発育していた.肺囊胞内にSFTを認める症例は非常に稀であり,その成因や病理学的所見について考察する.
患者は74歳の男性.胸骨正中切開で僧帽弁形成術,冠動脈バイパス術を施行した.人工心肺離脱直後から多量の気道出血を認めた.肺動脈カテーテル(pulmonary artery catheter:PAC)の位置が深くなっていたことからPACによる肺動脈損傷が疑われた.中葉は肉眼的にうっ血しており,中葉肺動脈を遮断すると気道出血は軽減するため,中葉肺動脈からの出血と考えられた.中葉肺動脈の剥離を末梢に進めたが出血点は同定できず,胸骨正中切開経路のまま中葉切除を行い気道出血を制御した.摘出した肺を観察すると中葉肺動脈末梢に穿孔部を認めた.病理学的検査では肺動脈壁の破綻と,フィブリン析出と好中球の遊走を認め摘出前の損傷が示唆された.術後経過は良好で再出血することはなかった.開心術でPAC使用中に気道出血を来した場合,肺動脈損傷の可能性を念頭に置き,出血源検索と外科的止血術を行うことが肝要である.
胸骨骨折に対してプレートを用いた固定術が有用であった2例を経験したので報告する.症例1は51歳女性.交通外傷により右鎖骨骨折を合併した胸骨骨折に対してプレート固定術を施行した.骨折線に対して垂直に縦型プレートを2枚並べ,骨折線上以外をロッキングスクリュー計5本で固定した.術後経過は良好であり,右鎖骨骨折整復術後に自宅退院となった.症例2は62歳男性.交通事故での胸骨骨折に対して他院で保存的加療中であったが体動時の疼痛が持続するため紹介となった.転位は軽度であったが骨癒合は得られておらず,胸骨偽関節の状態であり同様に固定術を行った.X型プレートの中央で骨折線を架橋するようにロッキングスクリュー8本で固定した.術後体動時の疼痛は改善した.いずれも全身麻酔下ではあるが比較的短時間かつ低侵襲に手術を終了し,術後評価のために撮影したCTでは良好な固定が示されていた.
症例は70代男性.5年前に肺癌に対して胸腔鏡下左肺上葉切除術と縦隔リンパ節郭清を施行した.術後3年までのCTでは気管支動脈に異常所見を認めなかった.術後4年時の造影CTで下部気管左側に腫大リンパ節様の陰影を認めダイナミックCTを行って気管支動脈瘤と診断,気管支動脈塞栓術で治療した.塞栓術から1年半経過し再発を認めていない.縦隔型気管支動脈瘤は気管支鏡で粘膜下の隆起性病変として観察され得るが粘膜下腫瘍との鑑別が困難で,生検の前には画像的に陰影が血管ではないことの確認が必要である.検索し得た範囲では肺癌術後に発症したという報告は見られず稀な症例を経験した.
症例は39歳男性.38℃以上の発熱が持続し,呼吸苦も出現したため,当院救急外来を受診した.採血上炎症反応高値であり,胸部CTでは左下葉背側に10 cm大の腫瘤性病変を認め,内部はニボー形成を伴っていた.肺膿瘍の診断で呼吸器内科に入院した.膿瘍に対して穿刺ドレナージを施行し,抗菌薬を継続したが,発熱と炎症反応の改善を認めず,当科紹介となった.胸部CTを再検したところ,腫瘤性病変は14 cmに増大し,左下葉のほぼ全体を占拠していたため,第12病日に左下葉切除術を施行した.手術時間は6時間37分,出血量は550 mlであった.術後3日目の採血で炎症反応は低下傾向となったが,熱型の改善は得られなかった.術後3日目より四肢・口腔内に多発する小紫斑が出現し,次第に癒合傾向を認め,薬疹もしくは血管炎の疑いとなった.被疑薬は全て中止し,各種血管炎のマーカーを提出したところ,PR3-ANCAが陽性と判明した.さらに手術検体の病理組織学的所見では,肺胞領域に好中球の集簇を伴う壊死部が網目状に存在し,それを取り囲むように類上皮細胞が柵状配列を形成する,柵状肉芽腫を認めた.また小動脈壁にも同様の肉芽腫が確認でき,多発血管炎性肉芽腫症と診断した.術後7日目よりプレドニゾロン(PSL)1 mg/kgを開始し,術後14日目からリツキシマブ375 mg/m2を併用した.熱型は速やかに改善し,紫斑も次第に消失した.PSL30 mg/dayまで漸減したが寛解状態を維持し,術後44日目に退院した.退院後も外来で3年間PSLとリツキシマブを継続し,その後はリツキシマブからアザチオプリンに変更したが,寛解状態を維持し,経過良好である.
呼吸器外科手術の中でも気管癌に対する気管分岐部切除・再建は非常に稀な術式である.特に高度な気道狭窄を伴う症例では手術中の呼吸管理が困難になることが予想され,術前・術中に何らかの対策が必要となる.
症例は69歳,男性.気管分岐部に発生した気管癌に対して気管分岐部切除術および形成術が施行される予定であった.しかし初診後,短期間で気管狭窄症状が悪化したため,まず硬性鏡下に腫瘍減量切除を行い,十分な気道確保を行った後,二期的に気管分岐部切除と形成術を施行した.術後29日目に合併症なく退院となった.術後1年6ヵ月,再発なく経過している.
硬性鏡下の気管癌切除を先行することにより,安全な呼吸管理のもとで気管分岐部切除・再建が可能となった1例を経験したので報告する.
胸骨正中切開術後縦隔炎は致死率が高くおよそ14~47%に及ぶ.今回,胸骨正中切開後縦隔炎に対して,大網充填術が奏功した症例を経験した.症例は81歳,女性.直腸癌に対する全身精査中の胸部CTで,偶発的に前縦隔腫瘍を認め,直腸癌術後,2期的に胸骨正中切開による前縦隔腫瘍摘出術を施行した.術後合併症なく第12病日に退院したが,第15病日に創哆開をきたし,胸部CT上,上縦隔右側と胸骨周囲にair像を伴う膿瘍を認めた.胸骨正中切開後縦隔炎の診断で,膿瘍掻爬・洗浄術および大網充填術を施行し,1期的に閉創した.術後第14病日に麻痺性イレウスを発症したが保存的治療で軽快.抗菌薬投与と右胸腔,縦隔ドレナージにより軽快し,第35病日独歩退院した.縦隔炎に対する手術手技の工夫について文献的考察を加え報告する.
急性膿胸の治療の1つである線維素溶解療法としてこれまでウロキナーゼが使用されてきたが,本薬剤の供給困難に伴い代替療法が求められている.今回,アルテプラーゼ(t-PA)およびDNA分解酵素(DNase)による線維素溶解療法が有効であった急性膿胸2例を経験したので報告する.症例1は84歳男性.右胸部痛と咳嗽に対し前医で抗菌薬加療されたが改善が得られず当院へ紹介.症例2は76歳男性.前医で外傷性血胸の診断後に,胸腔内液体貯留が増加したため当院へ紹介.いずれも急性膿胸と診断し胸腔ドレナージを行ったが,被包化した液体貯留が残存した.年齢や全身状態を考慮してt-PA+DNaseによる線維素溶解療法を施行,有害事象なく良好なドレナージが得られ,入院後約2週間で退院した.t-PA+DNaseによる線維素溶解療法は低侵襲で有効性があり,高齢者をはじめとした手術が困難な患者において考慮してよい治療法である.
症例は61歳男性.既往に神経線維腫症1型(NF1)あり.突然の左側胸部痛で発症し.造影CTでlateral thoracic meningoceleに隣接合併した左後縦隔腫瘍からの活動性出血,左大量血胸を認めた.ショック状態になり当院へ救急搬送され,緊急で胸腔内血腫除去および縦隔腫瘍摘出術を施行した.腫瘍と硬膜の境界不明瞭な部位があり,一部硬膜合併切除,人工硬膜再建を要した.初回手術後髄液漏および低髄圧症状が遷延し,10病日目にSpinal drainageおよび硬膜欠損再縫合閉鎖を施行した.
NF1は皮膚,骨,神経病変が代表的だが,稀に自然血胸を合併する.出血源は胸部血管や腫瘍血管であり,止血治療には手術の他,IVRの報告もある.本症例のように腫瘍がlateral thoracic meningoceleに隣接する場合には硬膜処理の必要性を勘案し,他科との連携をとり適切な対応と治療介入を行うことが重要と考える.
症例は60歳代女性.148 cm,40 kg.7年前より経過観察されていた左肺腫瘤に対して,CTで増大傾向となったため精査を施行し,左上葉肺癌疑いの診断で胸腔鏡下左上葉切除術+ND2a-1を施行した.術後4日目に一過性の腹痛が出現し,術後6日目に炎症反応・トランスアミナーゼ・LDHの上昇を認めた.造影CTにて右腎の一部に低吸収域を認め腎梗塞の診断となった.各種画像検査では明らかな血栓は認められなかった.また周術期に不整脈も認められなかった.腎梗塞の診断同日からヘパリンの持続投与を開始し,術後15日目より抗血栓薬内服に移行し,症状および血液検査所見は改善傾向となり術後19日目に退院となった.病理診断は腺癌,pT1miN0M0,pStageIA1であった.腎梗塞巣は萎縮したが感染や再梗塞等なく,また肺癌の再発なく経過観察中である.術後の急激な症状出現時は,血栓症を念頭におき検査を施行することが重要であると思われる.