胸腔子宮内膜症性気胸(TEP)は,子宮内膜組織が横隔膜や胸膜に生着することで肺の虚脱を起こす疾患である.胸腔内への空気の流入経路には諸説あるが,臓側胸膜病変の破綻も原因と考えられている.臓側胸膜病変は血腫様病変以外に,ブラを形成することがわかってきた.一方で,好発部位や発生機序については未だ不明な点が多い.TEPの病態解明のため,当院で初回手術を行ったTEP 108例と原発性自然気胸(PSP)434例のブラの好発位置について調査し,両者の好発部位であるS1,S4,S6ブラの特徴を比較した.TEPでは48.1%にS4ブラを認め,PSPでは90%以上にS1ブラを認めた.S6ブラの発生において,TEPでは50%が側面に発生していたが,PSPでは88.7%が辺縁に発生していた.TEP特有のブラの発生部位を考慮することで,臓側病変の見落としを減らし,効果的な補強を行うことで再発率の減少が期待できる.
症例は60歳代女性,非喫煙者,粉塵およびアスベスト暴露歴なし.検診胸部X線で右上肺野結節影を指摘され,胸部造影CTで前胸壁の右第2肋骨背側から第2肋間にextrapleural sign陽性,辺縁平滑な1.9 cmの造影効果を伴う胸壁腫瘍を認めた.FDG-PETでは腫瘍に一致してSUVmax 6.6の異常集積を認めたがそのほかの部位への異常集積は認めなかった.肋骨や肋間筋への浸潤を疑う所見はなく,孤在性線維性腫瘍,神経原性腫瘍が鑑別に挙げられ,診断加療目的に胸腔鏡下右胸壁腫瘍切除術を施行した.病理検査で,硝子血管型Castleman diseaseと診断された.単中心性であり外科的切除で治癒が期待できるため,本症例は無治療経過観察の方針とし,術後1年,再発なく経過している.
胸壁原発単中心性硝子血管型Castleman diseaseの1例を経験した.稀な症例であり文献的考察を加え報告する.
58歳,男性.左前胸部の硬結を主訴に受診した.胸部CTで左第2肋骨より発生し肺尖部を占拠する径12×9 cmの腫瘤を認め,PET-CTで同部位にFDG異常集積を伴っていた.CTガイド下生検で線維性骨異形成の診断となり手術の方針となった.アプローチは先に後側方切開で行い,その後,仰臥位で前方L字型切開を追加し,腫瘍を含めた第1,2,3肋骨切除術を施行した.術後病理検査でも線維性骨異形成の診断で,悪性転化は認めなかった.肋骨原発線維性骨異形成は巨大化することがあり,また上位肋骨発生の症例では切除に難渋することもある.通常の肺尖部肺癌とは異なり骨性胸郭外にも腫瘍が大きく進展するため,術中に鎖骨下腔の視野の展開が困難となることが予想される.このため,前方L字型切開を併用するアプローチを用いる場合には注意を要する.一方,悪性転化や胸郭出口症候群の併発も報告されているため,積極的に手術を行うべきである.
先天性気管支閉鎖症(congenital bronchial atresia:CBA)はまれな疾患であるが,近年は画像検査技術の進歩により術前診断が可能となり,報告数が増加している.無症候で発見される症例も少なくないが,外科的切除の適応については一定の見解が得られていない.症例は15歳男性,高校入学時の健診での胸部レントゲン写真で異常を指摘されて受診した.CTで下葉頂部の腫瘤影と下葉前方の気腫状変化,およびB6気管支の閉塞所見を認め,経過や他の画像所見と併せて,CBAもしくは肺内分画症と診断した.将来的な感染や膿瘍形成のリスクおよび正常肺の成長阻害のリスクを本人と家族に十分に説明した上で,手術を施行した.術後経過は良好で,合併症なく経過している.健診で発見された無症状のCBAに対して外科的切除を施行した1例を報告する.
症例は67歳,男性.定期検診で胸部異常陰影を指摘され,その後咳嗽が悪化したため当科紹介となった.胸部CTでは,左舌区支内腔を進展する造影効果の乏しい60 mm大の腫瘤影を認めた.気管支鏡検査では,B5気管支の入口部を閉塞する黒色のポリープ状病変とB4気管支壁に黒色の色素沈着を確認した.術野から直視下で気管支断端を確認し,適切に気管支閉鎖する目的に,前方腋窩開胸での手術を行った.腫瘍は左舌区支近位部まで広がっていたが,左上葉切除は可能であった.術後経過は良好だったが,術後4ヵ月に多発脳転移再発し,治療が奏功せず死亡された.本症例は完全切除したが,術後早期に再発が見られ,免疫チェックポイント阻害薬などを併用した集学的治療の必要性が示唆された.
大動脈浸潤肺癌術前に胸部大動脈ステントグラフト内挿術(TEVAR)を施行し長期予後が得られている1例について報告する.症例は50代男性.大動脈浸潤を疑う肺癌に対し,TEVAR施行後20日目に肺癌の手術を行った.術中所見では腫瘍は大動脈と胸壁に固着し浸潤が疑われ,左上葉切除術および胸壁・大動脈合併切除(外膜切除),リンパ節郭清(ND2a-2)を行った.術後病期はpT4N0M0 StageIIIAで,術後9年以上経過したが肺癌の再発やステントグラフトに関連した合併症は認めていない.
33歳女性.突然,間欠的で激烈な心窩部痛で前医を受診.腹痛精査目的に入院加療となった.左胸腔内に分画肺を認めるも,腹部に異常なく,原因特定に至らなかった.心窩部痛は消失し,左側胸部から背部痛が出現した.入院5日目,採血で炎症反応上昇,左胸水増加を認め,肺葉外肺分画症による病態と考え,当院に転院.胸腔ドレナージで血性胸水を認め,画像所見と合わせて肺葉外肺分画症捻転の診断で手術の方針とした.胸腔鏡では横隔膜上の大動脈に接する位置に黒変した7 cm大の分画肺を認めた.安全のため開胸移行し,流入血管と還流血管を結紮切離し,分画肺を摘出した.術後8日目に退院し,術後1年3ヵ月経過したが,症状の再燃を認められない.肺葉外肺分画症は無症状で経過し,胸部CT,胸部手術や剖検時に発見される場合が多いが,肺葉外肺分画症捻転では突然の激烈な腹痛を呈し,急性腹症の鑑別となりうる.
症例は47歳男性.2年前から左側胸部に違和感を自覚した.その1年後に胸部レントゲン検診で異常陰影を指摘されたが,自己判断で精査せず,経過観察をしていた.自覚症状出現から2年後,胸部レントゲン検診で再度異常陰影を指摘されたため,精査加療目的に当科を受診した.CTで左第7肋骨に骨破壊を伴う最大径85 mmの腫瘤を認め,PET-CTでは同部位にFDGの高集積を認めた.悪性骨腫瘍が強く疑われたため術前生検は行わず,腫瘍摘出術を行う方針とした.手術は腫瘍から十分なマージンをとるように開胸左第6-8肋骨および皮膚・軟部組織合併切除を行った.病理診断結果は肋骨原発軟骨肉腫(Grade II)で切除断端は陰性であった.術後8年経過しているが,再発なく現在外来通院中である.軟骨肉腫の治療は化学療法や放射線治療が無効であるため,十分な切除マージンを確保した広範切除が重要である.
本邦において膿胸手術件数は増加傾向にある.掻爬術が推奨されているが,速やかな手術への移行が困難な状況であることも少なくない.線維素溶解剤はガイドラインでは推奨度決定不能とされているが,臨床的には使用例や効果が多数報告され,当院においてもこれまでウロキナーゼを使用し,手術を回避する症例を認めていた.その後ウロキナーゼが入手困難となり手術加療数が増加したため,代替薬としてアルテプラーゼの使用を開始した.膿胸と診断した19例のうち13例にアルテプラーゼを使用し,そのうち10例は手術を回避し,3例は効果が乏しく手術を要した.増加傾向にあった手術件数が明らかに減少した.1例は肺炎で死亡した.アルテプラーゼは出血リスクが少なからず懸念されているが,1例で術中・術後出血を認めたのみであった.アルテプラーゼの胸腔内投与は膿胸治療の一助となると考えられる.
症例は,35歳女性.第1子妊娠14週に呼吸困難を主訴に受診され,右II度初回気胸の診断で胸腔ドレナージのみで15日目に軽快退院された.妊娠19週,再度右II度の気胸を指摘され,前回同様すぐにわずかな気漏となるが閉鎖せず,妊娠21週の入院15日目に手術を全身麻酔,分離換気,側臥位,胸腔鏡下に施行した.術中気漏は確認できず,横隔膜面は,褐色調の変化はみられたが積極的に月経随伴性気胸を疑う所見ではなかった.肺尖部に胸帽針等大の多数のブレブと中葉に2 mm大のブレブを認めたため,補強材付き自動縫合器で2ヵ所肺部分切除を施行した.病理検査で,月経随伴性気胸に矛盾しないと診断された.術後5日目に退院され,妊娠39週に健児を出産した.妊娠中に発症し診断される症例は限られるため考察を加え報告した.
症例は62歳男性.前医CTで右中葉を圧排する10 cm大の腫瘤を認めたが生検で確定診断は得られず,4年間外来で経過観察されたがその後自己判断で放置.9年後,呼吸苦を主訴に前医を受診.CTで右胸腔内下部を占拠する巨大腫瘤を指摘され当院へ紹介,手術の方針となった.右肺ならびに横隔膜への腫瘍浸潤を想定し,後側方開胸に季肋下切開を加え手術を開始.肋骨弓を離断し横隔膜上の良好な視野を確保.横隔膜部分合併切除・再建を施行し,右上葉臓側胸膜由来と考えられる有茎性の巨大胸腔内腫瘍を完全切除し得た.病理組織学的診断は孤立性線維性腫瘍,20×18×11 cm.手術時間2時間11分.出血量33 ml.術後一過性の再膨張性肺水腫を認めたがステロイド投薬で改善し第12病日に退院.胸腔内下部を占拠した巨大腫瘍に対し肋骨弓を離断したアプローチ方法は有用であった.
症例は50歳代女性.検診の胸部X線で異常を指摘された.CTで左肺舌区に巨大肺囊胞を認めたが,症状なく経過観察されていた.胸痛・呼吸苦が出現したため前医を受診した.画像検査で巨大肺囊胞の増大,液体貯留,縦隔偏位が認められたため当科に緊急入院した.後方視的にはCTで舌区気管支に囊胞状構造を認め,巨大肺囊胞拡大への関与を疑った.
局所麻酔下に巨大肺囊胞内にドレナージチューブを留置後,全身麻酔を行い手術を開始した.肺囊胞壁を切り開くと舌区気管支に囊胞あり.巨大肺囊胞内腔では気管支囊胞からのエアリークのみであった.また,上区は拡張良好だった.舌区の肺実質は低形成で巨大肺囊胞が大部分を占めているため,巨大肺囊胞壁を可及的に切除し,舌区気管支を閉鎖することにした.気管支囊胞壁が菲薄化していたため,遊離脂肪と切除した肺囊胞壁で補強し舌区気管支を縫合閉鎖した.巨大肺囊胞壁は可及的に切除し手術を終了した.術後経過は良好で,術後7日目に自宅退院した.
【はじめに】血管肉腫は高率に肺転移を来たす予後不良な疾患である.
【症例】57歳,男性.2週間前より呼吸苦と胸背部痛を自覚,気胸と診断され当院紹介となった.CTで肺虚脱と大量胸水貯留,両肺に小囊胞と小結節,心囊水貯留,頚部や縦隔リンパ節腫大,第9胸椎と右鎖骨の病的骨折を認めた.ドレナージを施行し血性胸水であった.PETで左頚部リンパ節に集積を認め,生検を行ったが診断は得られなかった.排液は持続し,肺囊胞の増加と再虚脱のため,肺瘻閉鎖術を行った.肺表面には多数の囊胞が存在し,複数箇所から気瘻があり,各々処理し気瘻の停止を確認した.術後,癒着術を複数回行うも排液は減少せず,肺虚脱と肺囊胞の増加を認めた.対側胸水や肝転移も出現し,第33病日に永眠された.剖検で血管肉腫と診断した.
【考察】確定診断が困難で,難治性血気胸から呼吸不全へと急激な転帰をたどった症例であった.画像変化を提示し報告する.