2017 年 31 巻 6 号 p. 810-814
症例は61才男性.病理病期IB期の肺腺癌にて左下葉切除術を施行した.10ヵ月後に胸膜播種,肺門リンパ節転移,肝転移を認め抗がん薬治療を予定したが,頭痛,食欲不振,嘔気などの症状があり施行できなかった.癌の進行に伴う悪液質かと思われたが,頭部MRIとホルモン検査から下垂体転移による下垂体機能低下症と判明した.ホルモン補充療法にて症状は軽快し抗がん薬治療を施行できた.癌の下垂体転移は比較的少なく下垂体機能低下症を呈することは更にまれである.症状は非特異的で更に悪液質に類似するため診断が難しいが,ホルモン補充療法で改善が見込めるので抗がん薬治療の機会を逸しないためにも早期に発見することが肝要である.