肺癌手術後に脳梗塞を発症した左肺上葉切除例2例と左肺下葉切除例1例を経験した.この内2例は脳血管内治療の適応となり治療後,身体所見の著明な改善を認めた一方で,1例は既に広範な領域の脳梗塞のために積極的治療の対象とならず予後不良の転帰をとった.近年,肺葉切除後に発生する脳梗塞は肺静脈断端部に発生した血栓に起因する可能性が高いことが報告され,特に左上肺静脈切離例にその頻度が有意に高いことが示された.本症例は肺静脈断端部の血栓の証明は得られていないが,左側の肺葉切除例であることや臨床所見などからいずれも肺静脈断端部に形成された血栓による脳梗塞の可能性が高いと考えた.脳梗塞急性期の治療は適応があれば脳血管内治療がきわめて有用な方法であるが,未だ施行可能な施設は限られる.肺静脈断端血栓の予防は外科手技的に困難と考えられる現状から,左肺腫瘍の葉切除例では術後抗凝固療法の施行を検討する必要がある.