要旨:千葉県一宮海岸では,2010年,侵食対策として進められてきたヘッドランドの建設に関し,サーファー,漁民,海岸利用者などと海岸管理者の間で深刻な意見対立が起きた。このためこれらの関係者の参加する海岸保全と海岸利用に関わる合意形成会議が2010年6月から始められた。その後,この会議は2013年2月までに7回開催され,海岸保全や海岸利用に関する様々な議論が進められ,ヘッドランドの持つ海岸保全上の効果やサーフィンに及ぼす影響などが科学的データを基に話し合われた。会議での議論を通じ,これらの関係者間での意見の相違点が明確になると同時に,一定の合意が形成された。会議は現在も継続され,海岸に関する様々な論議がこの会議により恒常的に行われ,課題の解決が進んでいる。本研究は,一宮海岸の保全・管理を目的に設置された「一宮の魅力ある海岸づくり会議」(地域協議会)での議論を分析対象として取り上げ,海岸保全と海岸利用をめぐる地域住民参加型合意形成システムが機能する条件としての,多様なステークホルダーと専門家の参加,その中での科学的データの提示,および行政の熱意などを抽出し,分析したものである。