要旨:本稿では、沖合水域や自由漁業などを対象とした漁業補償のあり方を検討するための基礎的考察として、沖縄水域を対象に行われる「漁業操業制限法」に基づく漁業制限補償の制度的枠組みと補償算定方式の特徴を検討し、その補償の実態と課題を明らかにした。制限補償の特徴としては、制限時の漁業所得額をベースに算出されていること、漁業を取り巻く環境変化に対応し漁業の変化に柔軟に対応した仕組みが構築されていること、運用に際しては公平・公正な手続きが用意されていること、漁家経営や地域経済の維持に寄与していることなどの諸特徴を有していることがわかった。しかし、問題点として、運用上における「モラルハザード」の存在余地があったこと、補償額算定に際して漁場特性、漁場豊度さらには漁業操業時期の違いなどによる漁業生産効率への影響を正確に評価できないこと、市場変動による影響を強く受けていること、さらには補償対象の消滅問題などが挙げられる。こうした問題解決に向けて、今後市場変動リスクや「漁業の脆弱性」に配慮した制度運用が求められることを提言している。