2020 年 33 巻 1 号 p. 35-44
要旨:2018年から進められている水産政策の改革の主軸の一つとして,民間企業の水産業参入を促すことでこれを成長産業化しようという方向性がある。しかしこうした政策ニーズの高まりの一方で,民間企業側が有する水産業参入に対する意識についてこれまで十分な実証研究がされてきたとは言い難い。そこで本稿はこれを明らかにするため,日本国内に拠点を置く400社の意思決定権者に対するアンケート調査を実施した。調査の結果,「水産業従事経験の有無」と「企業規模(従業員数)」がともに新規参入意思の強さと有意に関係していること,業種別では「宿泊業,飲食サービス業」,「漁業,養殖業」,「建設業」に目立って新規参入意思が存在することが示された。また,海面利用を伴う漁業・養殖業への参入もさることながら,それ以上に海面利用を伴わない,多種多様な民間企業の技術,サービスを活用した水産業への参入意思も示されていた。水産業・漁村地域の活性化という目標に向け多種多様な民間企業の保有資源との連携を創発・深化していくため,本稿に続く参入企業側に関する実証研究がさらに重ねられ,それらの知見が水産行政に活かされることが必要である。