要旨:全国の内湾では貧栄養化による海藻養殖の生産性低下が問題となっており,本研究フィールドとした伊勢湾口的矢湾奥伊雑ノ浦海域においても,ヒトエグサ(Monostroma nitidum)生産量と栄養塩不足との関連が危惧されている。流入河川を含めた栄養塩類濃度を過去と比較することで現状を把握した。その結果,海域のDIN*(NH4-Nを除く無機態窒素)およびPO4-P濃度はともに過去(1996-97年)から現在(2014-15年)にかけて低下していた。DIN*は主として河川での濃度低下に起因しており,その要因として流入河川集水域における生活排水処理方法の変化や田畑での施肥量減少等が推測された。一方でPO4-Pは河川負荷量減少以外に底泥からの供給量減少も示唆された。底生生物現存量から推定された栄養塩回帰量は,過去に比べ現在では37~67%減少しており,河川負荷量の39%減少に対して減少幅が大きかった。さらに底生生物の摂食圧低下に起因する植物プランクトン増加も,海域の栄養塩濃度を低下させた要因の一つと考えられた