アジア教育文化ジャーナル
Online ISSN : 2433-7943
ISSN-L : 2433-7943
アジア教育文化ジャーナル 第8巻
中国「労働」教科にみるレリバンス構築の特質
初等教育における公民教育・キャリア教育の統合的カリキュラムを探る
史 鵬宇
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2026 年 8 巻 No.1 号 p. 128-150

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Abstract

本研究は、中国で2022年に新設された教科「労働」を対象に、その教材構造を分析し、公民教育とキャリア教育の統合的理解を深める視点を提示することを目的とする。日本では両者の理念的接近が進む一方、教科や教材の設計は依然として分断的に扱われ、統合的枠組みの欠如が課題となっている。そこで、Brunerのレリバンス概念とStuckeyらの三層モデル(個人的・社会的・職業的)を理論的基盤として浙江省版教科書を分析した。その結果、同教材は低学年で生活自立を、高学年で公共性や職業意識を重視し、児童が「生活-社会-将来」を段階的に結び付ける構造を備えていることが明らかとなった。ただし、公共性の一面的強調など、多様性やバランスに課題も確認された。 以上の知見は、日本における公民教育とキャリア教育の有機的接続を再構築するうえで重要な示唆を与え、変化する社会に対応した「令和型学校教育」の深化に資するものである。

Translated Abstract

This study aims to analyze the structure of teaching materials used in the newly established school subject Labor in China, introduced in 2022, and to present a perspective for deepening an integrated understanding of citizenship education and career education. In Japan, although the conceptual convergence between these two fields has advanced, the design of subjects and teaching materials is still treated in a fragmented manner, and the lack of an integrated framework remains a challenge. To address this issue, this study analyzes the Zhejiang edition of Labor textbooks based on Bruner’s concept of relevance and the three-dimensional model proposed by Stuckey et al. (personal, societal, and vocational relevance). The analysis reveals that these textbooks emphasize independence in daily life at the lower elementary level, while placing greater importance on publicness and vocational awareness at the upper elementary level. In this way, they are structured to enable children to gradually connect “life, society, and future.” At the same time, some challenges were also identified, including a one-sided emphasis on publicness and issues concerning diversity and balance. These findings offer important implications for reconstructing a more organic connection between citizenship education and career education in Japan, and for advancing “Reiwa-style school education” in ways that respond to social change.

摘要

1.はじめに

近年、日本における教育改革は「令和の日本型学校教育」1を掲げ、個別最適化と協働的学びを通じて「生きる力」を育むことを重視している(關、2024)。その中で、キャリア教育は主体的な進路形成を支援し、公民教育は社会的責任と公共性を涵養する点で、両者は共通の理念を有している(桑原、2009;真島、2024)。しかし、現状ではキャリア教育が「総合的な学習の時間」や特別活動に、公民教育が社会科や高等学校「公共」に限定され、依然として分断的に扱われている(伊藤、2020)。したがって、両者を統合的に支える理論枠組みの整備が課題となっている(岩橋ら、2024;加納、2024)。

この統合課題を相対化するため、比較教育の視点が有効である。日本2や米国3は心理的支援や進路指導を中核に据え、日常の教科や学校生活全般をキャリア教育の場とみなす包括的アプローチを採る一方、ドイツ4や中国では「労働科」を独立教科として体系的に組み込む方式が取られてきた。特に中国では、一度「総合実践活動」に統合された労働教育が、2022年の『義務教育課程方案』改訂で再び独立教科として再設置され、生活力・公共性・職業意識を段階的に育成することを目的としている(労働課程標準、2022)。

もっとも、既存研究は労働教育を国家的価値形成の手段として捉える傾向が強く、学習者が「なぜ働くのか」「社会とどう関わるのか」といった主体的意味づけに焦点を当てた分析は不足している(檀、2020)。また、教材の具体的役割や地域的文脈の影響を踏まえた実証的検討も限られている。

以上を踏まえ、本研究の目的は、Stuckey ら(2013)の三層レリバンスモデル(個人的・社会的・職業的)を分析枠組として、中国浙江省の初等教育段階における教科「労働」教材を対象に、各単元・活動が学びの意味づけを三層へどのように接続しているか(多層的レリバンスの構築)を明らかにすることである。あわせて、その構成原理を整理し、公民性形成とキャリア形成の接続という観点から、日本の社会科および総合的な学習の時間への示唆を導出する。

2.研究の視点と方法

2.1 レリバンス概念の整理

学校教育においては、単なる知識伝達を超え、学習者が生活や社会との関連の中で学びの意味を見出し、主体的な判断力や価値観を形成することが求められる。このような「意味のある学び」を支える概念の一つが「レリバンス(relevance)」であり、教育内容が学習者にとってどのような価値を持ち、自己の経験や社会との関係の中でいかに位置付けられるのかを問う視点である(田中、2022)。

Bruner(1971)は、この学習意欲の根拠として、教育内容には「個人的レリバンス(personal relevance)」と「社会的レリバンス(social relevance)」の両立が必要であると指摘した。前者は学習を学習者の経験・関心に結び付ける次元、後者は社会的課題・公共的価値への接続を指し、学びの意味づけを支える基盤である。

この視点を発展させたのが本田(2005)であり、大学教育改革の文脈から「即時的レリバンス」「市民的レリバンス」「職業的レリバンス」という三つの次元を整理した。すなわち学びは、日常生活に直結する有用性、市民的責任への関与、将来のキャリアとの関連という多層的な意味を持ちうることが示された。この枠組みは本来高等教育を対象とするが、児童・生徒が「生活-社会-将来」の各文脈で労働の意味を見出す過程を考察する上でも有効に応用可能である(青木ら、2021)。

さらに本稿では、本田の三分類を踏まえつつ、より教科教育への適用性が高い Stuckey ら(2013)の三層モデルに注目する。このモデルは「個人的」「社会的」「職業的」という三層のレリバンスから学習を捉え、学習者が経験世界、社会的課題、将来の進路と結びつけながら学びの意味を再構築する過程を体系的に整理している。寺田ら(2019)はこのモデルを理科教育に応用し、三層構造が児童生徒の学習意欲や学びの質に寄与することを実証的に示している。

以上を踏まえ、本稿では Stuckey ら(2013)の三層モデルを、教科「労働」教材における学びの意味づけを整理するための分析枠組として採用する。分析単位および判定規則を含む操作化の手続きは、次節で示す。

2.2 多層的レリバンスの構築モデル

前節までの検討を踏まえ、本節では、本稿の分析対象と分析視角を提示する。分析対象は中国浙江省の初等教育段階における教科「労働」教材であり、各単元・活動が三層(個人的・社会的・職業的)レリバンスをどのように組み合わせて学びの意味づけを構成しているかを検討する。

まず「個人的レリバンス」とは、学習内容を生活経験や関心と結びつけ、自分事として学ぶ姿勢を促す次元である(例:家事、整理整頓など)。次に「社会的レリバンス」とは、他者との協働や公共的課題への取り組みを通じて、社会的責任感や共生の価値を学ぶ次元である。最後に「職業的レリバンス」とは、将来の職業や自立を見据えて労働の意味を捉え、キャリア形成の基盤を築く視点である。なお、三層は相互排他的な区分ではなく、同一の学習活動が複数層にまたがって意味づけられうる。

これら三つのレリバンスは、教材の目標や活動内容に直接的に表現される場合もあれば、「行動様式」「生活実感」「社会参加」といった仲介概念を通じて間接的に示される場合もある。この直接性・間接性に着目することで、教材がいずれのレリバンスを相対的に前景化しているかを把握できる。

この枠組にもとづき、第4章では単元の「目標・活動内容・評価規準」を分析単位とし、当該単元で最も強く前景化される層を「主たるレリバンス」、それを支える形で併存・補助的に位置づく層を「副次的レリバンス」として整理する。具体的には、目標および評価規準において明示的に求められる価値・能力・到達像に対応する層を主とし、活動過程の設計や問い・振り返りに埋め込まれた媒介概念を通じて間接的に支えられる層を副として位置づける。

前述の判定規則にもとづき、主たるレリバンスと副次的レリバンスの組合せを分析し、「労働」教科教材が提示する意味づけの構造を明らかにする。

2.3 本研究における分析視角の提示

前節までの検討を踏まえ、以下では本稿の分析対象と分析課題を整理する。分析対象は、中国浙江省の初等教育段階における教科「労働」教材である。検討課題は、各単元・活動が「個人的・社会的・職業的レリバンス」をいかに組み合わせ、学びの意味づけを構成しているか、そしてその配置と接続の原理が教材全体としていかに成立しているか、である。

分析対象である浙江省版教材を採用する理由は三点に整理できる。第一に、浙江省は教育改革の先進地域であり、『労働課程標準』の理念を積極的に反映した教材開発を進めてきた5。その内容は、職業準備教育を超えて市民的要素を含み、公民教育とキャリア教育を統合する具体例となっている。第二に、この教材は小1から中3まで一貫編成され、学年の進行に応じて生活経験から社会性、将来展望へと段階的に広がる体系性を持つ。第三に、浙江省は経済的に発展した地域である一方で、都市農村間の格差や多様なキャリア教育実践を抱えており、地域的条件を含めてレリバンス構築を検討する上で適切な事例となる。

さらに、本研究で得られた知見は、中国の教材分析にとどまらず、日本のカリキュラム設計にも示唆を与えうる。すなわち、日本においても公民性とキャリア形成の統合が課題となるなか、浙江省の「労働」教科にみられる多層的レリバンスの構築は、両者を結び付ける教育の在り方を再考するための参照枠として位置づけられる。

3.『課程標準』から見る教科「労働」の内容構成

3.1 「労働」新設の歴史的背景

中国の労働教育は、新中国成立以降の70年間、社会的・経済的変動を受けて大きく変容してきた。初期は農業・肉体労働を中心に社会的責任感の涵養を目的としていたが、1978年の改革開放以降は社会奉仕や社会参加を含む方向へと転換した(艾・李、2020)。

2001~2020年には「総合実践活動」に統合され、探究・ボランティア等と並行して位置付けられた。しかし、内容の画一化や地域格差、労働教育固有の目的の希薄化といった課題が指摘され、成果も限定的であった(檀、2020)。さらに市場経済・都市化の進展により、青少年の労働経験不足や勤労価値観の希薄化が深刻化し、家庭や地域の労働教育機能も低下していた(徐、2018)。

こうした状況を受け、2020年に「労働教育強化意見」が発表され、労働教育の独立性と体系性を高める制度設計が進められた。2022年の『課程方案』改訂では、「労働」が「総合実践活動」から独立し、小中学校における新教科として設立された。同科目は「日常生活労働」「生産労働」「サービス業労働」の三領域を軸に、生活技能・社会的責任・職業意識の育成を目指している(労働教育課程標準、2022)。この「生活技能を基盤に、社会的責任と将来展望へ学びを接続する」方向性は、キャリア教育を「体系的な取組」「基礎的知識・技能の育成と活用」「生涯にわたる形成支援」として再定義した中教審答申(2011)6とも合致し、社会の変化に応答する学習設計として位置付けられる。

3.2 課程標準における「労働」教科の目標と意図

2022年に改訂された『義務教育労働課程標準』では、教科「労働」の設置目的について、「核心素養を中心に構築され、課程の性質と理念を反映し、目的を確立している」と明記されている。ここでいう「核心素養」は、児童が労働を通じて生涯にわたる人格形成や社会的適応力を身につけ、未来の社会形成者として成長することを意図して設計されている(『労働課程標準』、pp.4–5)。

具体的には、「労働観念」「労働能力」「労働習慣と資質」「労働精神」の4要素から成り立ち(表1)、これらが相互補完的に機能することで、価値観・能力・態度を総合的に育成する仕組みとなっている(『労働課程標準』、pp.4–7)。この構造は、単なる職業スキルの育成にとどまらず、公共性・協働性といった社会的価値観の内面化をも志向していると解される。制度的な位置付けとしては、「職業的能力の育成」と「社会的責任の涵養」という二重の目標を統合する教科であり、公民教育とキャリア教育の双方に関連する性格を有すると解される(楊、2023;殷、2024)。

本稿では、この制度的枠組みが教材構成やカリキュラム設計にどのように反映されているのかを検討するため、Stuckeyら(2013)の三層モデル(個人的・社会的・職業的レリバンス)を分析枠組として援用する。四つの核心素養は、複数のレリバンス次元と関連付けて捉えることができる。例えば、「労働観念」は自己理解や内発的動機づけといった個人的レリバンスと関連する一方、社会的役割や公共性を通じて社会的レリバンスにもつながる傾向がある。「労働能力」は職業選択や技能習得と密接に関わり、職業的レリバンスの観点から位置付けられることが多い。また、「労働習慣と資質」や「労働精神」は、継続的な労働経験を通じて協働意識や社会性を高める点で社会的レリバンスを体現していると考えられる。

 表1. 核心素養の具体的な内容

核心素養 具体的な内容 4者の関係
労働観念 労働や労働者、労働成果に関する認識や態度、感情を、実践を通じて形成する 相互補完的に機能し、有機的な全体構造を成す
労働能力 年齢や身体発達に即した作業を遂行するための知識・技能・判断力の総体
労働習慣と資質 安定的な行動傾向や責任感・誠実さなどの性格的特性を定期的な労働体験を通じて形成する
労働精神 上記三素養の実践過程で培われる、労働に対する信念や価値の総体

(『義務教育労働課程標準』2022年版、pp.4-5より筆者翻訳・作成。)

以上のように、四つの素養はそれぞれが個人・社会・職業の複数次元を横断しながら有機的に結び付いており、労働教育は児童が多面的に「社会の一員として生きる力」を形成するための統合的枠組みとして制度的に構想されている。次章では実際の教材を対象に実際の教材や単元内容を対象に、児童に対してどのようなレリバンスが提供されているのかを分析し、「生活力」「公共性」「職業意識」の統合的表現の実態を明らかにする。

4.初等教育段階「労働」の全体構成:浙江省版「労働」教科書を手がかりとして

4.1 全体構成

中国教育部(2022)は、労働教育教材の統一が進んでいない現状を踏まえ、省級教育行政部門が要件を定め、地域や学校が独自に編成できる体制を整備した7。本研究で用いる浙江省版「労働」教科書シリーズ(小学校11冊・中学校5冊)は、その代表例である。

表2に示すように、本教材は第1学年から第9学年まで一貫して編成され、生活技能、家庭・集団活動、地域社会との関わり、文化体験や環境保護、職業理解などを段階的に配置している。低学年は生活自立や家庭労働、中学年は協働性や文化理解、高学年は創造的活動や職業理解を重視し、社会参画意識の育成を目指す。

すなわち「生活・生産・奉仕」の三側面を基盤に、発達段階に応じて多様な労働観を育成する構造である。制度的理念である「生活力・公共性・職業意識の統合的育成」は教材構成に明確に反映されており、公民教育的・キャリア教育的視点からの分析にも直結する。

表2. 浙江省義務教育教科書「労働」の全体構成

『労働第一学年上巻』 『労働第一学年下巻』

1.自分のことは自分でやる-自分で着替えとたたむ

2.自立の習慣を身につける-ランドセルの整理を自分で行う

3.主体的に簡単な家事をする-食事前後のお手伝い

4.資源を生かして素敵な暮らしを-水耕栽培の植物を育てる

5.自己管理して生活する-勉強時間の計画を立てる

6.家事には勤労が必要-自分の服を自分で洗う

7.集団労働に参加する-教室の清掃で力を発揮する

8.折り紙活動の楽しさ-紙飛行機を作る

『労働第二学年上巻』 『労働第二学年下巻』

1.自分の部屋を整える-整理整頓の習慣を身につける

2.料理の楽しさを知る-簡単な料理に挑戦する

3.私が地域の環境を守る-ゴミの分別と実践に取り組む

4.集団で活動を分担する-クラスプラントコーナーの共創

5.予算編成と計画-リトル・マネー・マネジャー

6.道具を使って効率を高くなる-私は掃除が得意

7.ホスピタリティを学ぶ-ゲストをもてなす経験をする

8.手で編む楽しさ - ペンダントを編んで創造力を育む

『労働第三学年上巻』 『労働第三学年下巻』

1.倹約は優れた資質-服が破れたら修理できる

2.継承すべき伝統文化-扇子のデザインと制作

3.一緒に企画しましょう-フリーマーケットの企画

4.労働の成果を大切にする-パンに込められた労働

5.生活の自立、私ができる-自分で朝食を作る

6.手と頭を使って創新する-モーターの発明

7.みんなのために働く-私は図書館司書

8.努力と苦労-「小神農」農園

『労働第四学年上巻』 『労働第四学年下巻』

1.労働がより良い生活を創る-果物盛り合わせを作る

2.伝統工芸-「中国結び」を編む

3.工具使用の規範性-私は小さな金工

4.細部にまでこだわった良い習慣-キャンパス・サインをデザインする

5.労働の成果で祝福を伝える-小さなカード、大きな思い

6.汗を流して働く-ベランダに小さな菜園を作る

7.集中して上質な物を作ろう-布袋を作る

8.故郷づくりに参画する-小さなツアー・プランナー

『労働第五学年上巻』 『労働第五学年下巻』

1.連携・協働による効率化-私はパン職人

2.伝統工芸の継承-伝統的な玩具を作る

3.カラフルな生活の創造-LEDライトの多彩な使い方

4.職業に貴賤なし-多種多様な職業

5.伝統技術に革新を-凧作り

6.集約農業で収穫量アップ-果樹栽培、私にもできる

7.環境保護を促進する革新的デザイン-私は車両エンジニア

8.資源の最適化と効率向上-シェアリングサービス

第六学年(全一冊)『労働第六学年』

1.効率化のための創造的変革-作業ツールの改善

2.物はその機能を十分に果たす方法が多い-電子廃棄物のリサイクル

3.集団生活にはルールがある-クリエイティブ・クラスルールの作ると合意形成

4.他人の身になって考えて真のサービス-コミュニティ・娯楽施設の設計

『労働第七学年上巻』 『労働第七学年下巻』

1.日常生活にはマネジメントが必要-手帳のデザイン

2.労働によってスマートな生活を実現-スマートホームの設計と製作

3.環境保護と倹約の良い習慣-廃棄段ボールの再利用デザイン

4.労働サービスを通じた調和-地域運営への参加

5.食文化の継承が必要-伝統的なお菓子作りを学ぶ

6.最後までやり遂げて収穫する-花の栽培

7.美しい住まいに「匠の心」を持つ-丸太小屋づくり

8.社会サービスには企画力が必要-博物館展示会の開催

『労働第八学年上巻』 『労働第八学年下巻』

1.クオリティ・オブ・ライフ-果物や野菜のカービング

2.品質を保証しながらさらに良いものを求める-木製の小物作り

3.クリエイティブな生活労働-金属製の「キッチンヘルパー」

4.サービス活動の価値-現代物流を探求する

5.家事労働を楽しむ-今日は私が当番

6.伝統を守り、勤勉に-地元の農業生産を体験

7.安全な生活と創造的な労働-インテリジェントアラーム

8.「天生我材必有用」-私のキャリアの理想

第九学年(全一冊)『労働第九学年』

1.スキルによるスマートクリエーション-バイオニックデザイン

2.集団文化をともに広まる-マスコットのデザインと制作

3.故郷の建築を参画する-町の文化・スポーツセンターをデザインする

4.統合的な企画、良い結果を望む-卒業活動の設計

(浙江省義務教育教科書『労働』、浙江教育出版社、2022年版より筆者が翻訳作成)

4.2 スコープ-学年段階構成

表3は、浙江省版『労働』教科書(2022年版)における学年間構成を、「活動領域」「代表的な活動テーマ」「育成を目指す資質・能力」「経験構成の特徴」「カリキュラム構成理念」など複数の観点から統合的に整理したものである。これにより、本教科書がどのような構成原理のもとで公民教育とキャリア教育の統合を図っているかが、より俯瞰的に把握できる。

表3.浙江省版『労働』教材における学年間の構成的特徴と育成価値の整理

学年 中心的活動領域 代表活動テーマ(例) 指導の焦点(育成したい価値・能力) 経験構成の特徴(導入〜展開) カリキュラム構成の意図・構造的特徴

第四学年段階

(7−9)

高度プロジェクト学習 商品開発、卒業企画、キャリア設計 主体性、意思決定力、ライフキャリア形成 チームによる課題解決型学習 教科全体の統合的理解・実社会との接続

第三学年段階

(5-6)

多様な労働ジャンルの統合 環境改善、起業的学び、電子廃棄物のリサイクル 問題解決力、合意形成、持続可能性 プロジェクト型・調査型・協働設計 公民教育とキャリア教育の価値を融合しはじめる

第二学年段階

(3−4)

生産労働・サービス労働増加 地域ツアー企画、伝統工芸、図書館司書体験 協働、公共性、地域とのつながり 「作って伝える」型の表現活動を含む 公共性を徐々に導入、社会参加の基礎を形成

第一学年段階

(1−2)

日常生活労働を中心に 着替え、整理整頓、料理、掃除 自立、基本生活習慣、勤労意識 日常生活を題材にした反復型活動 自己への気づきを促す導入段階

(『義務教育労働課程標準』2022年版、浙江省義務教育教科書『労働』(浙江教育出版社2022年版)、『労働教師用書』(浙江教育出版社2022年版)より筆者が翻訳・作成)

まず注目されるのは、各学年間における中心的活動領域の変化である。第1学年段階(1–2年)では「日常生活労働」が中心となり、衣服の整理や調理、清掃など、生活習慣や勤労意識の形成に資する題材が配置されている。これらは課程標準において「生活自理能力の涵養」を目標として位置づけられており、自立や基本的生活態度を促す初期段階とされる。

第2学年段階(3–4年)では、「生産労働・サービス労働」へと領域が拡大し、地域社会との関わりや協働的役割分担を重視する単元が導入される。例えば「伝統工芸」や「公共サービス体験」などを通じ、公共性を伴う活動から社会責任感を培うことが意図されている。

第3学年段階(5–6年)では、「多様な労働ジャンルの統合」という構成方針のもと、環境保護や起業的学びなど持続可能性に関わる実践的活動が配置されている。例えば「環境配慮型デザイン」では廃材を利用した創作品づくりを通じて環境保全を学びつつ、役割分担や計画立案など職業的スキルも同時に習得することが求められる。また「フリーマーケット企画」では地域住民との交流や資源循環を実践的に経験し、公共性と職業意識を同時に高める仕組みとなっている。

第4学年段階(7–9年)では、「高度プロジェクト学習」や「卒業活動」など学びの集大成が配置されている。商品開発やキャリア設計を扱う単元では、これまでに培った知識・技能を総合的に活用し、将来を見据えた意思決定やライフキャリア形成へとつなげることが意図されている。

さらに本教材の特徴として、経験構成が系統的に発展している点が挙げられる。すなわち、第1段階では生活習慣を形成する反復型活動、第2段階以降は協働的・探究的活動、第3・4段階では課題解決型・プロジェクト型学習へと展開している。特に中学年から高学年にかけては「公共性」と「職業性」が交差的に配置され、異なる価値を統合するカリキュラム設計が見られる。この点に、本教材の編成原理としての特色が表れている。

4.3 学年項目構成—第六学年『労働』教科のプロジェクト型単元と三層的レリバンスの統合

本節では、初等教育段階における「労働」教科のカリキュラム構造を具体的に把握するため、第六学年の教材に焦点を当てて分析する。第六学年は、前学年までの学習経験を踏まえ、課題解決や社会的テーマに取り組むプロジェクト型単元が配置され、公民教育とキャリア教育に関わる価値が統合的に扱われている。

分析対象は、表4に示した4つのプロジェクト型単元(①作業ツールの改善、②電子廃棄物のリサイクル、③クリエイティブ・クラスルールの作成と合意形成、④コミュニティ・娯楽施設の設計)である。各単元について、①教材に記載された目標・課題設定、②学びのプロセス(調査-設計-実施-振り返り等)、③育成が意図される資質・能力を整理し、Stuckey ら(2013)の三層モデル(個人的・社会的・職業的レリバンス)を援用して、レリバンスの組み込み方を比較検討する。

第六学年の『労働』教科においては、「作業ツールの改善」「電子廃棄物のリサイクル」「クリエイティブ・クラスルールの作成と合意形成」「コミュニティ・娯楽施設の設計」といった四つのプロジェクト型単元が設定されている(表4)。いずれも児童が身近な生活課題を出発点としながら、情報収集・設計・制作・共有といったプロセスを通じて、思考と実践の往復的な学びを促す構成となっている。

「作業ツールの改善」では、児童の日常的な不便さへの気づきを起点に、既存の道具の使いやすさや機能性に着目して改良のアイデアを構想・制作する課題が提示されている(pp.1–18)。これにより、創造性や問題解決能力といった個人レリバンスを中心に、工学的視点の育成へと接続する自己表現の機会が提供される。

「電子廃棄物のリサイクル」では、日常生活における電化製品の廃棄実態を調査し、再利用の可能性を検討した上でリサイクル設計を行う(pp.20–38)。ここでは、生活と消費の関係を見直す個人レリバンスに加え、環境資源管理への視点や持続可能性を支える職業的関心が統合されている。

「クリエイティブ・クラスルールの合意形成」では、班やクラス内での観察・対話を通じてルールを提案・修正し、合意に至る過程を重視している(pp.40–54)。これは、集団内での合意形成能力を基盤とする社会レリバンスを中心に、規範形成や公共性の理解を促す学習として構成されている。

最後に、「コミュニティ・娯楽施設の設計」では、地域調査を踏まえて公共空間の設計案を作成・発表する活動が行われる(pp.56–71)。この単元は、地域貢献的視点と空間設計・ユニバーサルデザインなどの職業的視点が交差し、公共性と職業性を結びつける実践が意図されている。

表4.レリバンスの三層モデルに基づく『労働』第六学年の単元構成分析

項目 項目内容 学のプロセス 個人レリバンス(自己形成) 社会レリバンス(公共性・協働) 職業レリバンス(職業観・スキル)
①作業ツールの改善 日常の労働を効率化するために、自分で道具を改良するプロジェクト ①既存工具の観察→②改善案の発想;設計図→③改良・製作 創造性や問題解決能力の育成、自己表現の強化 協働的な課題解決を通じてチームワークを学ぶ 設計・改善などの技術職に関連する基礎スキル

②電子廃棄物のリサイクル

電子廃棄物の分解・再利用を通じて、物の価値と社会課題を考える ①消費状況の調査→②内部構造の探究→③再生設計案の制作 環境意識や資源活用の責任感を育む 環境問題に対する社会的責任の認識 環境関連職業(リサイクル・設計)への理解
③クリエイティブ・クラスルールの作ると合意形成 学級のルールを児童自ら考え、民主的に合意形成 ①班級生活の観察→②創意的ルール案→③全体で協議・決定 集団内での自己役割認識と自己管理能力の向上 集団のルール作成を通じて公共性を体得 職場での規律や協働のスキルを体得
④コミュニティ・娯楽施設の設計 地域施設の設計提案を通じて、他者のニーズを理解し貢献 ①施設観察;住民調査→②デザイン案制作→③共有会で発表 共感力や地域社会への理解を深める 地域ニーズの理解と社会的貢献の実践 サービス設計・地域計画に関わる職業意識を育む

(「学びのプロセス」は教材の活動説明文に基づく整理であり、レリバンスの分類は筆者による解釈である。)

このように、第六学年の単元構成は、生活に根ざした課題を起点としながら、児童がより広い社会的・職業的世界との接続を意識できるよう設計されており、個人的・社会的・職業的レリバンスが相互に補完し合う構造を備えている。なかでも、「サービス労働」に位置付けられた「他人の身になって考えて真のサービス-コミュニティ・娯楽施設のデザイン」は、地域社会との接続や公共空間の創造という点で、社会的レリバンスと職業的レリバンスの融合が明瞭に確認できる事例である。

次節では④の単元を詳述し、児童が地域との関わりの中で個人の考えを社会的実践へ接続していくプロセスを分析する。

4.4 項目単元構成-第六学年項目4授業内容の分析

第六学年の「サービス労働」に属する単元「他人の身になって考えて真のサービス-コミュニティ・娯楽施設のデザイン」は、児童が地域社会との協働を通じて公共性と職業性を横断的に学ぶ典型事例である。本単元は、コミュニティ内の娯楽施設を観察し、地域住民のニーズを把握した上で改善案を提案する活動を通じて、「社会参加」と「公益(common good)の追求」を促すことを目的としている。授業は「調査-デザイン-共有」の三段階で構成され、児童は異なる年齢層のニーズに対応したデザインを考案し、その成果を地域社会と共有することによって貢献を実現する構成となっている。本節では、この単元の目標と活動構造を整理し、三層レリバンス(個人的・社会的・職業的)の観点からその教育的意義を分析する。

表5.「他人の身になって考えて真のサービス-コミュニティ・娯楽施設のデザイン」の授業過程

項目名 他人の身になって考えて真のサービス-コミュニティ・娯楽施設のデザイン(約6-7時間数)
領域分類 サービス業労働 第六学年項目4
教育目標 子どもには、自らが生活する地域の娯楽施設を観察し、地域住民による施設利用に関する評価を把握し、改善の必要性がある点を見出すことが求められる。プロジェクト型学習を通じて、身近な娯楽施設の課題を発見し、その解決に向けたデザインや提案を試みる。
教材 観察記録表、現場の写真/ビデオ、ポスター用紙、図面用紙、付箋などのデザインツール

単元①

授業展開

(約2時間数)

導入 設計の最初のステップは観察です。コミュニティに足を踏み入れて、コミュニティ内の既存の娯楽施設のニーズを観察し、潜在的な問題を発見しましょう。
展開

1:コミュニティ内の娯楽施設は多種多様で、外観と機能が異なります。これらは、さまざまな年齢層のニーズを満たすことができるのか。改善すべき点は何?

2:コミュニティの娯楽施設に対する人々の本当のニーズを知るには、アンケート、インタビュー、現場観察などの方法がある。今回の任務では、複雑なシーンを「シチュエーション・オブ・ロケット(境遇観察記録表)」8で観察し、分析を行う。

3:地域の娯楽施設を観察記録シートで詳しく観察する。慧慧さんが何を観測したのか。

終結

慧慧さんの結論を参照して、自分の結論を書いてください:

「私は__を発見した、__が原因で、だから__、それには__が必要である。」

自己評価

・コミュニティエンターテインメント環境を細かく観察できる。  

・設計ツールを使用して設計調査と分析できる。         

・一般的な娯楽施設の種類と機能を識別できる。         

・生活シーンにおける問題を正確に位置づけることができる。   

反省 コミュニティの娯楽施設を観察する中で、デザインの重要性を認識しましたか?

単元②

授業展開

(約2−3時間数)

導入 コミュニティの娯楽施設の革新的な設計には、住民の真のニーズを理解し、住民の視点で問題を体験し解決策を見つけることが求められる。
展開

1:高齢者・若者・子どもたちそれぞれのニーズを認識する…施設をどのように改良し、再創造するか、各年齢層の住民のニーズをよりよく満たすことができるのか?

2:施設計画のデザインをより創造的なものにするために、優れた作品からインスピレーションを受けよう!

3:「ブレインストーミング」9という思考ツールを学ぶ。

終結 地域住民が本当に必要とする娯楽施設をどのように設計するか。「ブレインストーミング」ツールを使って、できるだけ多くのアイデアを生み出してください。
自己評価

・設計の過程においてリアルタイムに他人のニーズを考慮する。   

・クリエイティブな案を合理かつ明確かつ美しく表現できる。    

・ユーザー調査を計画的に行い、ユーザーデータを収集できる。   

・データ分析を行い、データの重点を掘り出す。          

反省

1.プロジェクトの設計において、利用者のニーズをどのように考慮しているのか?

2.設計の過程で、あなたはデザインの難しさに気づきましたか?サービス労働の設計と家事労働の設計とは何が違うのか?

単元③

授業展開

(約2時間数)

導入 様々なデザイン案を作成しました改善の方向を見つけ、さらに最適化し、最終的なアイデア設計を他人と共有する。
展開

1:優れたシナリオ設計は、革新性、合理性、安全性、そして実用性を備えている必要がある。他者の視点を取り入れることで、設計の不足を発見し、謙虚に最適化を図ることができる。どのようにして自分の案を改善するか?

2:あなたの改善方針は何ですか?設計をどのように最適化する予定ですか?改善提案を基にシナリオの初稿を修正しましょう。もし改善提案が予備案に反映できない場合は、新しい設計を検討する必要がある。

終結 自らのデザイン案をより多くの人に知ってもらうために、“デザイン共有会”で自分のアイデアの成果を展示する。
自己評価

・サービス労働の価値を語ることができる。           

・設計に必要な品質を語ることができる。              

・改善後のプランは合理性があり、操作可能である。        

・展示中に積極的な交流ができ、グループの協力能力を表現できる。 

労働開拓 プロジェクトの設計案が完成したため、次はモデル制作に挑戦する。材料選びから日常の工具使用、製作過程、時間管理まで、具体的な計画を立ててプランを実現しょう。
獲得する知識概念 娯楽施設、娯楽施設が設置する意義、他者の立場、シチュエーション・オブ・ロケット(境遇観察記録表)、ブレインストーミング、労働デザイン、グループワーク、社会奉仕
発展学習 コミュニティエンターテインメン施設の設計が完成したが、最終的な作品は満足しているか?子どもの皆さん、自分の思考やデザインプロセスを地域住民に共有し、作品に対する意見や評価を聞いて、あなたのデザインをより完璧にしましょう。

出典:『労働 教師指導要書』小学校段階・上巻(浙江教育出版社)、pp.146–150.

(上記より筆者作成)

表5に示すように、本単元は「調査-デザイン-共有」の三段階で構成されており、それぞれが異なる教育的意義を有している。

まず調査段階では、児童が地域施設の現状を観察し利用者ニーズを把握することにより、日常生活との接続(個人的レリバンス)と地域課題への理解(社会的レリバンス)が促される。次にデザイン段階では、複数のアイデアを統合して改善案を構想する過程を通じて、創造的企画力や問題解決力といった職業的レリバンスが培われると同時に、公共性の配慮(社会的レリバンス)も求められる。

最後に共有段階では、成果を地域社会と発信・交流することにより、社会的貢献を実感し(社会的レリバンス)、改善・洗練を繰り返す過程で実務能力や適応力(職業的レリバンス)が養われる。

このように、本単元は単なる技能訓練にとどまらず、児童が生活・社会・職業を横断的に結びつける学びの場として設計されている

4.5 教材各単元における三層レリバンス構造の分析と課題

本教材の学習活動は、Stuckeyら(2013)の三層レリバンスモデルに基づき整理すると、表6のように位置付けられる。各単元はいずれも三層を含みつつ、活動の性質に応じて強調点が異なる。「単元1」は生活経験や公共理解を基盤に個人的・社会的レリバンスを形成し、同時に課題発見力など基礎的職業的レリバンスも育む。「単元2」は協働や利害調整を通じた社会的レリバンスと、計画立案・改善スキルといった職業的レリバンスを統合的に促進する。「単元3」は地域住民との交流により社会的レリバンスを深化させ、成果物改善を通じて職業的スキルの定着を意図している。このように教材全体は、児童が生活世界・社会・将来を多層的に結び付ける構造を備えている。

表6. 単元別にみるレリバンス三層構造の比較

単元 個人的レリバンス 社会的レリバンス 職業的レリバンス
「単元1」地域娯楽施設の調査・課題発見

・児童自身の生活圏に存在する施設を題材に、日常生活との結び付きを強化

・異なる年齢層の利用実態を自ら観察し、個人的経験と照合

・地域施設の公共的機能や課題を把握

・住民の多様なニーズを比較検討し、公共性の理解を深める

・課題発見力や観察・分析力を養成

・事実認識に基づく問題設定の基礎を形成

「単元2」改善案・再デザイン構想

・自身や家族・友人が利用することを想定した施設改良案を構想

・使いやすさや快適さを自己の視点から検討

・グループ協働・他グループとの意見交換を通じ、多様な利害調整のプロセスを体験

・公共の利益を踏まえた意思決定を実践

・ブレインストーミングや計画立案を通じて創造的思考力・プロジェクト管理能力を育成

・実務的な改善・設計スキルを獲得

「単元3」評価・改善・共有 ・自分が関わった成果物を振り返り、達成感や自己効力感を得る

・地域住民との交流・フィードバックを通じて社会貢献の意義を実感

・成果物が社会に及ぼす影響を理解

・デザイン改善の適応力・柔軟性を育成

・品質志向や改善の継続性など、職業生活に直結するスキルを強化

もっとも、このように三層レリバンスを意識した単元配列は評価できる一方、いくつかの限界も確認できる。

第一に、活動テーマが地域娯楽施設の設計・改善に集中しており、環境、防災、福祉、産業といった他領域との接続が十分に確保されていない。そのため、児童が幅広い社会課題にわたって多層的レリバンスを横断的に構築する機会が制約されている。

第二に、社会的・職業的レリバンスの涵養は地域住民との協働や共有に依拠しているが、その効果は教師の支援力や地域の受け入れ体制に大きく左右される。教材記述の段階では、制度的制約や実施条件への具体的配慮が不十分であり、学習効果の安定性には不透明さが残る。

第三に、計画立案力や改善志向といった職業的資質が、児童の将来の職業生活や市民的資質へどのように展開するかが明確ではない。特に、価値意識と結び付けた評価や振り返りの仕組みが弱く、学習成果の持続的定着を担保する工夫が不足している。

したがって、本教材は多層的レリバンスを統合する意欲的構成を有するものの、その効果を安定的かつ持続的に保証するには、テーマ設定の多様化、地域連携の制度的補強、学習成果の内面化を支える評価方法の精緻化が不可欠である。これらの論点は、日本における「社会科-総合的な学習の時間-キャリア教育」の接続課題を考える上でも重要な示唆を与える。

5. おわりに

本稿は、中国で新設された教科「労働」を対象に、Brunerのレリバンス概念およびStuckeyら(2013)の三層モデルを援用し、浙江省版教材における学びの意味づけが「個人的・社会的・職業的」次元へどのように接続されているかを分析した。分析の結果、教科「労働」は作業技能の習得にとどまらず、生活課題への気づきを起点として公共性の理解へ、さらに将来展望(職業観)へと学びを段階的に拡張させるよう設計されていることが示唆された。

以上の分析結果を、本稿の研究目的(浙江省版教材において、各単元・活動の意味づけが三層「個人的・社会的・職業的」レリバンスへどのように接続・配列されているか)に即して整理すると、次の三点に要約できる。

第一に、『義務教育労働課程標準』(2022)が掲げる「労働観念・労働能力・労働習慣と資質・労働精神」は、価値観・能力・態度を統合的に育成する方向性を与えており、その志向は教材の目標・活動・評価規準にも反映されている。すなわち、教材は技能習得のみならず、労働の意味を価値づける学びとして編成されていることが確認できた。

第二に、浙江省版教材の配列は、低学年の生活自立(個人的次元)から、中学年の協働・公共性(社会的次元)を経て、高学年の課題解決・プロジェクト学習(社会的・職業的次元を含む)へと経験構成が発展する原理をもつ。これにより、三層レリバンスは学年進行とともに段階的に接続され、高学年ほど統合が相対的に顕在化する構造が示された。

第三に、とりわけ第6学年のプロジェクト型単元(例:「コミュニティ・娯楽施設のデザイン」)では、「調査―デザイン―共有」という過程を通じて、生活に根ざした課題(個人的レリバンス)が社会的実践へ接続され、公共性と職業性(設計・改善・発信を伴う将来展望)が交差する構造が具体的に把握できた。単元レベルでは、三層が並列に置かれるのではなく、学習過程の展開に沿って相互に連結されるかたちで意味づけが構成されることが明らかになった。

一方で、教材の構成には課題も残る。第一に、活動テーマが地域娯楽施設の改善に偏り、環境・防災・福祉等の他領域との接続が限定されている。第二に、社会的・職業的レリバンスの成立が地域連携や教師の支援力に左右されやすく、実施条件の具体化が教材段階では十分とはいえない。第三に、職業的資質が将来の職業生活や市民的資質へどのように展開するかについて、評価・振り返りの設計が相対的に弱く、学習成果の内面化を担保する工夫が課題として残る。

以上より、教科「労働」を三層レリバンスの観点から捉えることで、公民性形成とキャリア形成を連続的に把握する分析視角を提示した点に本稿の意義がある。加えて、単元の目標・活動・評価規準にもとづくレリバンス・マッピングにより、単元間の意味づけの配置と接続を可視化する手法を具体化した。これらは、日本の社会科および総合的な学習の時間において「生活―社会―将来」を接続する学習設計を検討する際の参照枠となりうる。

ただし本稿は教材分析に限定されており、学習者の学習過程や意識変容を実証的に検討したものではない。今後は授業観察やインタビュー等を通じて、教材設計が実際の学習経験とどのように往還しうるのかを検証するとともに、地域・学校条件の差異を踏まえた比較検討を進める必要がある。

Notes

①「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)(中教審第228号)、https://www.mext.go.jp/content/20210126-mxt_syoto02-000012321_2-4.pdf(2025-8-6アクセス)

Notes

②次の資料を参考した。『今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)』(中央教育審議会、平成23年1月31日)、『小学校キャリア教育の手引き』(2022年3月)、『中学校・高等学校キャリア教育の手引き』(2023年3月)、(2025-9-6アクセス)

Notes

③“第Ⅷ章 第1節 アメリカ”、日本キャリア教育学会編(2020)、キャリア教育概説、東洋館出版社、174-177頁。

Notes

④“第Ⅷ章 第3節 ドイツ”、日本キャリア教育学会編(2020)、キャリア教育概説、東洋館出版社、182-185頁。

Notes

⑤ 以下の資料を参考した。『浙江省大中小学労働教育実施指南』『浙江省中小学労働教育行動方案』、浙教教材(2022)4 号、2022年1月。https://jyt.zj.gov.cn/module/download/downfile.jsp?classid=0&filename=65c9c991067d45e68b9a97ea9a1d63bb.doc(2025-8-8アクセス)

Notes

⑥中教審「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」(2011)では、キャリア教育を再定義し、キャリア教育の基本的方向性に対して、「幼児期から高等教育までの体系的なキャリア教育」「基礎的知識・技能の育成とその応用能力の拡充」「生涯キャリア形成を支援する学校の機能」この三つを提起した。

Notes

⑦次の内容を参考した。中国教育部(2022)『対十三届全国人大五次会議第1224号建議的答复』、教財建会議「2022」、80号。

Notes

⑧境遇観察のフレームワーク(原文:情境観察記録表):はAEIOUツールによって開発したものである。労働教師用書、浙江教育出版社、148頁参照。

Notes

⑨ブレインストーミング(原文:头脑写作;英文:Brainwriting):複数人で回覧板式にアイデア発想シートを回して、アイデアを引継ぎ合いながら広げていく手法である。労働教師用書、浙江教育出版社、148頁参照。

Footnotes

References
 
© 一般社団法人 中日教育研究学会
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