2026 年 8 巻 No.1 号 p. 58-84
日本は2000年に介護保険制度を創設し、家族介護中心から社会的介護への転換を図った。本稿は、介護保険制度の創設前から現在までの変遷過程と、それに伴う人材養成・育成制度の発展を体系的に記述し、制度設計における成功と課題を明らかにする。日本の介護の人材養成は高齢者像に伴って量から質の確保へと変化してきている。質確保のため、研修や資格体系が複雑化すると普及が困難となるという関係性も経験をし、現在はなるべくわかりやすい人材養成・育成制度とする取り組みも進めている。本稿は急速に高齢化が進む中国をはじめ、今後介護を支える制度の導入を検討するアジア諸国に対し、日本の経験から得られた教訓を提示することを目的とする。
アジア諸国への示唆を含めて
The Evolution of Japan's Long-Term Care Insurance System and Human Resource Development Framework Implications for Asian Countries
摘要
日本の高齢化は、世界に類を見ない速度で進行してきた。1970年に高齢化率(65歳以上人口の割合)が7%を超え「高齢化社会」に入った日本は、わずか24年後の1994年には14%を超える「高齢社会」となった。さらに2007年には21%を超え「超高齢社会」に突入した。
この速度の速さは国際的に見ても顕著である。高齢化率が7%から14%に達するまでの期間(倍加年数)は、フランスが115年、スウェーデンが85年、ドイツが40年であったのに対し、日本はわずか24年であった。この急速な変化は、社会システムの対応期間が極めて限られていたことを意味する。日本以外のアジア諸国である中国の倍加年数は26年、シンガポール19年、韓国18年等、日本と同程度もしくはそれよりも短い期間で高齢化が進んでいることも着目に値する。
図1 各国の人口の高齢化のスピード
2025年、日本の高齢化率は約29%に達しており、約3,600万人が65歳以上となっている。このうち、75歳以上の後期高齢者は約2,100万人を占め、全人口の17%を超えている(厚生労働省, 2024b)。人口構造の変化の背景には、少子化と長寿化という二つの要因がある。合計特殊出生率は1970年代半ばから2.0を下回り、2024年には1.15まで低下した(厚生労働省, 2024d)。一方で、平均寿命は着実に延び、2022年時点で男性が81.05歳、女性が87.09歳となっている(厚生労働省, 2023b)。健康寿命との差は男性で約9年、女性で約12年あり(厚生労働省, 2024a)、この期間に介護が必要となる可能性がある。

1.2 諸外国との比較からみる日本の特徴図2 日本の高齢者数・割合の推移(推計含む)
日本の高齢化には、今後のアジア諸国の高齢化に通じるいくつかの特徴的な点がある。
第一に、前述の通り高齢化の速度が極めて速いことである。欧米諸国が100年以上かけて経験した人口構造の変化を、日本は数十年で経験した。これは、社会保障制度の整備、インフラの調整、国民意識の変革などを短期間で行う必要があることを意味する。
第二に、高齢化率の高さである。2024年時点で、日本は世界で最も高齢化率が高い国(29.3%)となっている。2位のイタリア(24.6%)、3位のポルトガル(24.5%)を大きく上回っており、この傾向は今後も続くと予測されている(総務省, 2024)。
第三に、「一人暮らし高齢者」と「高齢者夫婦のみ世帯」の増加である。かつて日本では、三世代同居が一般的で、高齢者は家族による介護を受けることが想定されていた。しかし、核家族化の進展により、2020年の国勢調査では、65歳以上の単独世帯が約671万世帯、高齢者夫婦のみの世帯が約664万世帯となり、高齢者世帯の過半数を占めるようになった(総務省, 2021)。
第四に、都市部と地方部の格差である。東京、大阪、名古屋などの大都市圏では、団塊世代の高齢化により、今後急速に高齢者数が増加する。一方、地方部では既に高齢化率が40%を超える地域も存在し、地域社会の維持そのものが課題となっている。介護サービスの提供体制も、都市部では事業者の過当競争、地方部ではサービス供給不足という対照的な問題を抱えている(厚生労働省, 2025a)。
1.3 2025年と2040年日本の高齢者施策を進める上で、人口の将来推計に基づき、「2025年」と「2040年」をキーとなる年として設定をし、それぞれの時期に向けてあらかじめ準備を進める方法をとってきた。
2025年は、戦後すぐのベビーブーム世代である団塊世代(1947年~1949年生まれ)の全員が75歳以上の後期高齢者となる年であり、社会への多面的な影響を予想し、準備をするために、この年を目途に各種の推計が行われた。2020年時点で、2025年には、後期高齢者人口が全人口の約18%を占めると推計され、2022年の統計で、実際に後期高齢者の要介護認定率は前期高齢者のそれと比べ、約5倍高かった(厚生労働省, 2022b)。その他、医療・介護需要も増加するため、病床不足、介護施設の不足が深刻化することも危惧された。介護人材については、2021年時点で、2025年には約32万人の介護職員が不足すると推計された(厚生労働省, 2021)。
2040年頃には、団塊ジュニア世代(1971年~1974年生まれ)が65歳以上となり、高齢者人口がピークを迎える。同時に、現役世代(15~64歳)の減少が続くことが予測されている。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2040年には、日本における死亡がピークとなることが予想されており、高齢化率は約35%に達するとされている(国立社会保障・人口問題研究所, 2023)。この時期には、介護だけでなく、医療、年金、雇用、地域社会の維持など、あらゆる分野で構造的な課題が顕在化することが見込まれており、介護分野では、約69万人の介護職員不足が見込まれており(厚生労働省, 2021)、抜本的な対策が必要とされている。
介護保険制度が創設される以前、高齢者の介護は主に老人福祉制度と老人医療制度によって対応されていた。老人福祉制度は、1963年に制定された老人福祉法に基づき、特別養護老人ホームなどの施設サービスや、ホームヘルプサービスなどの在宅サービスを提供していた。
しかし、この制度にはいくつかの課題があった。第一に、「措置制度」という仕組みであったため、サービス利用は行政の判断に委ねられ、利用者の選択権が制限されていた。利用者は市町村に申請し、市町村が必要性を判断してサービスを割り当てる(措置する)という流れであり、利用者の意向が十分に反映されない構造であった。
第二に、サービス提供主体が限定的であった。社会福祉法人を中心とした限られた事業者のみがサービスを提供しており、サービスの量的拡大や多様化が進みにくい状況であった。
第三に、所得に応じた応能負担の原則により、中間所得層の利用が抑制されていた。特別養護老人ホームへの入所には収入に応じた高額な費用負担が求められるケースもあり、真に必要な人がサービスを利用しにくい状況があった。
第四に、サービス供給量の絶対的不足があった。特別養護老人ホームの待機者は常に数万人規模で存在し、在宅サービスも十分に整備されていなかった。
2.1.2 老人医療制度の問題点表1 日本の介護保険制度創設前の老人福祉・老人医療政策の経緯
一方、老人医療制度は、1973年に老人医療費無料化が実施されたことで大きく変化した。70歳以上の高齢者は医療費が無料となり、医療機関へのアクセスは改善された。しかし、医療費無料化により、高齢者の受診が急増し、老人医療費が急激に増加した。1970年度に約3,400億円だった老人医療費は、1980年度には約2兆円、1990年度には約5兆円へと増加した。この財政負担の増大に対し、1982年に老人保健法の制定と一部負担金を導入したが、高齢者数の増加を背景に、医療費の増加傾向は止まらなかった。さらに、当時の深刻な問題は、医療と福祉の機能分担が不明確であったことである。本来、介護やリハビリテーションで対応すべきケースが、医療機関で対応される状況が生まれた。特に、地方部では高齢者を受け入れる福祉施設が不足していたため、医療機関が実質的に高齢者の生活の場となる事態が広がった。
2.1.3 社会的入院の深刻化このような状況の中で、「社会的入院」という問題が深刻化した。社会的入院とは、医学的には入院治療の必要性が低いにもかかわらず、介護や生活支援が必要であるために退院できず、病院に長期入院している状態を指す。1990年代半ばには、療養型病床群の入院患者の約3分の1が社会的入院の状態にあると推計された。家族の介護力の低下、在宅介護サービスの不足、介護施設の不足などが重なり、病院が実質的に高齢者の生活の場となっていた。
社会的入院は、複数の問題を引き起こした。医療費の増大により、国家財政を圧迫した。医療機関の本来の機能が阻害され、急性期医療を必要とする患者の受け入れが困難になった。高齢者本人にとっても、医療機関という環境は生活の場として適切ではなく、ADL(日常生活動作)の低下や意欲の減退を招いた。家族にとっても、病院への長期入院は経済的・精神的な負担となった。
こうした問題の構造的な原因は、医療と福祉が縦割りで運営され、介護を必要とする高齢者を総合的に支える仕組みがなかったことにある。高齢化の急速な進展により、この問題は年々深刻化し、抜本的な制度改革が求められるようになった。
2.2 介護保険制度の基本的な考え方 2.2.1 自立支援の理念介護保険制度は、2000年4月に施行された介護保険法に基づき創設された。この制度の最も重要な理念の一つが「自立支援」である。従来の措置制度では、高齢者を「保護すべき対象」として捉える傾向があった。しかし、介護保険制度では、高齢者を「権利の主体」として位置づけ、その人らしい自立した生活を支援することを目的とした。ここでいう自立とは、単に身体的な自立だけを意味するのではなく、たとえ介護が必要な状態であっても、その人の意思に基づき、尊厳を保持しながら、可能な限り住み慣れた地域で生活を継続できることを意味する。
この理念を実現するため、介護保険サービスは、単に日常生活の援助を行うだけでなく、心身機能の維持・改善を図る「リハビリテーション」の視点を重視している。例えば、通所リハビリテーションや訪問リハビリテーションなどのサービスにより、高齢者の残存能力を活かし、できることを増やす支援が行われる。
また、自立支援の理念は、「過剰な介護」を予防することも目的とする。本人ができることまで介護者が行ってしまうと、かえって高齢者の能力低下を招く可能性がある。そのため、介護サービスは、本人の自己決定を尊重し、できることは見守り、必要な部分を適切に支援するという姿勢が求められる。
2.2.2 利用者本位のサービス選択介護保険制度のもう一つの重要な原則が、「利用者本位」である。従来の措置制度では、サービス利用は行政の判断によって決定されていたが、介護保険制度では、利用者自身が事業者を選択し、契約してサービスを利用する「契約制度」に転換した。この転換により、利用者は以下のような権利を得た。複数の事業者の中から、自分の希望に合った事業者を選ぶことができる。サービスの内容、利用時間、事業者などを、自分のニーズに応じて決定できる。サービスに不満がある場合、事業者を変更することができる。ケアプラン(介護サービス計画)の作成に参加し、自分の意向を反映させることができる。
この利用者本位の原則を支えるため、ケアマネジメントという仕組みが導入された。介護支援専門員(ケアマネジャー)が、利用者の状態やニーズを把握し、適切なサービスの組み合わせを提案する。利用者はケアマネジャーと相談しながら、自分に合ったケアプランを作成する。制度設立当初からセルフケアプランとして、自分のケアプランを自分で作成することも可能としている。しかし、ケアプランの作成には自己負担がなく、地域の介護に関わる事業所等の地域資源を幅広く理解していることが必要であることもあり、ある調査(全国マイケアプラン・ネットワーク, 2010)によると、利用者本人や家族が作成する「セルフケアプラン(自己作成)」の割合は0.1%未満であり、現状はケアマネジャーによるケアプランが基本となっている。
また、情報公開とサービス評価の仕組みも整備された。事業者には、サービス内容、料金、職員体制などの情報公表が義務づけられており、主に施設系サービスを中心として、第三者評価の導入も推進されている。
2.2.3 社会保険方式の採用介護保険制度は、その名の通り「社会保険方式」を採用している。これは、国民が保険料を拠出し、必要になったときに介護サービスを受けられる仕組みである。社会保険方式が選択された理由は複数ある。第一に、高齢化に伴い増大する介護費用について、保険料という新たな財源を確保することで、持続可能な制度とすることが意図された。
第二に、保険料を負担することで、サービス利用を権利として位置づけることができる。措置制度では「行政の恩恵」としてサービスを受けることとなるが、社会保険方式では「保険料の支払い基づく権利としてサービスを受ける」という意識が醸成されることが意図された。
第三に、保険方式により、給付と負担の関係が明確になる。介護保険料は目的税的な性格を持ち、介護サービスの財源として使途が限定される。これにより、国民の理解と納得を得やすくなることが想定される。
ただし、日本の場合は純粋な保険方式ではなく、公費(税金)と保険料を組み合わせた「社会保険方式」である点に留意が必要である。財源の50%は公費(国25%、都道府県12.5%、市町村12.5%)、50%は保険料(40歳以上の国民が負担)で構成されており、この公費負担により、所得再分配機能と制度の安定性を確保している。(図3)
2.3 介護保険制度の仕組み 2.3.1 被保険者と保険料
介護保険の被保険者は、年齢により2つに区分される。
第1号被保険者は、65歳以上のすべての者である。市町村が徴収する介護保険料を負担し、要介護状態または要支援状態になった場合、原因を問わずサービスを利用できる。保険料は、市町村ごとに異なり、所得に応じて段階的に設定される。多くの市町村では9~13段階程度に区分され、低所得者の負担軽減が図られている。2024年度の全国平均基準月額は約6,200円となっている(厚生労働省, 2024c)。
第2号被保険者は、40歳以上65歳未満の医療保険加入者である。医療保険料と一体的に介護保険料を負担する。サービスを利用できるのは、加齢に伴う特定疾病(16種類)により要介護状態となった場合に限られる。特定疾病には、がん末期、関節リウマチ、筋萎縮性側索硬化症、認知症などが含まれる。
保険料の設定は、保険者である各市町村が行う。各市町村の高齢化率、サービス利用状況、介護報酬の改定などが影響するため、市町村間で保険料に差があり、令和6年度時点で、最も高い自治体と最も低い自治体では約3倍の開きがある(厚生労働省, 2024c)。
2.3.2 要介護認定の仕組み介護保険サービスを利用するには、まず「要介護認定」を受ける必要がある。これは、客観的な基準に基づき、どの程度の介護が必要かを判定する仕組みである。認定の流れは以下の通りである。まず、市町村の窓口に申請する(地域包括支援センターでも相談・申請可能)。次に、市町村の認定調査員が自宅等を訪問し、心身の状態について調査を行う(認定調査)。調査項目は74項目あり、身体機能、生活機能、認知機能、精神・行動障害、社会生活への適応などが確認される。同時に、医学的な観点から要介護状態になった理由について主治医に意見書の作成を依頼する。
認定調査の結果についてはコンピュータによる一次判定が行われ、要介護認定等基準時間(1日に必要な介護時間)が推計される。その後、一次判定結果と主治医意見書をもとに、保健・医療・福祉の専門家で構成される介護認定審査会で二次判定が行われる。
判定結果は、軽度から順に「要支援1」「要支援2」「要介護1」「要介護2」「要介護3」「要介護4」「要介護5」の7段階、または「非該当(自立)」となる。認定の有効期間は、新規申請の場合は原則6か月、更新申請の場合は原則12か月(最長48か月まで可能)である。
各要介護度により、利用できるサービスの種類や支給限度額が異なる。例えば、2024年時点で、要支援1は月額約5万円、要介護5は月額約36万円の支給限度額が設定されている(厚生労働省, 2014)。
2.3.3 財源構成と費用負担介護保険の財源は、前出の通り、公費50%と保険料50%で構成される。公費50%の内訳は、国が25%(うち20%が定率負担、5%が調整交付金)、都道府県が12.5%、市町村が12.5%である。調整交付金は、市町村間の第1号被保険者の年齢構成や所得水準の差を調整するために配分される。保険料50%の内訳は、第1号保険料(65歳以上)が約23%、第2号保険料(40~64歳)が約27%である。この割合は、第1号被保険者と第2号被保険者の人口比率に応じて3年ごとに見直される。高齢化の進展により、第1号保険料の割合は徐々に上昇している。
サービス利用時の利用者の自己負担は、原則としてサービス費用の1割である。ただし、一定以上の所得がある者については、2割負担(2015年8月から)、さらに3割負担(2018年8月から)が導入された(厚生労働省, 2023a)。具体的には、合計所得金額が160万円以上で単身世帯の年金収入+その他の合計所得が280万円以上の場合は2割負担、同じく340万円以上の場合は3割負担となる。また、利用者負担が過重にならないよう、高額介護サービス費制度がある。1か月の自己負担額が一定額を超えた場合、超えた分が払い戻される。上限額は所得に応じて設定され、世帯合算で月額15,000円~140,100円の範囲である。
さらに、施設サービスを利用する場合、食費と居住費(滞在費)は原則として全額自己負担となるが、低所得者には「補足給付」という軽減制度がある。介護保険の総費用は制度創設時の約3.6兆円から、2024年度には約14兆円へと約4倍に増加している。高齢化の進展に伴い、今後も増加が見込まれており、制度の持続可能性を確保するため、給付と負担のバランスを定期的に見直す仕組みとなっている。
2.3.4 介護サービスの体系日本の介護保険制度では、多様な介護ニーズに対応するため、幅広いサービスが用意されている。これらは大きく「在宅サービス」「施設サービス」「居住系サービス」「地域密着型サービス」に分類される。「施設」のみならず「在宅」も重視され、在宅サービスの充実が図られてきたところが日本の特徴の一つである。詳細については紙面の関係もあるため他資料に譲り、ここでは講演の中で使用したスライドの紹介のみにとどめる。
図4 介護保険制度の仕組み
これまで述べてきた歴史的、制度的背景を元に、ここから日本の介護人材養成・育成制度の変遷とその考え方について整理を行う。
3.0 人材「養成」と「育成」の概念整理人材に関する制度を論じる際、「養成」と「育成」という二つの概念を明確に区別することが重要であるため、冒頭でその概念の違いに触れる。
3.0.1 人材養成の定義と目的「人材養成」とは、新たにその分野に参入する人材を系統的に教育・訓練する取り組みを指す。具体的には、介護の専門職としての基礎知識や技術を習得し、現場で働くための最低限の能力を身につけるプロセスである。人材養成の主な目的は、一定水準以上の知識・技術を持った人材を介護現場に送り出すことである。これにより、サービスの質を担保し、利用者の安全を確保する。専門職としての入口に立つための「資格取得」や「修了証取得」を伴うことが多い。
代表的な例として、介護職員初任者研修(130時間)、実務者研修(450時間)、介護福祉士養成施設(2年課程)などが挙げられる。これらは、介護未経験者または経験の浅い者を対象に、体系的なカリキュラムに基づいて知識・技術を教授する。
3.0.2 人材育成の定義と目的一方、「人材育成」とは、すでに介護現場で働いている人材の能力やスキルの向上に資する取り組みを指す。現場での実践経験を前提として、さらに高度な専門性やマネジメント能力の取得を目指すプロセスである。人材育成の主な目的は、継続的な成長を促し、キャリアアップを支援することである。また、組織としてのサービス提供能力を高め、人材の定着を図ることも重要な目的となる。
代表的な例として、喀痰吸引等研修、認知症介護実践者研修、認知症介護実践リーダー研修、介護支援専門員専門研修、管理者研修、OJT(On-the-Job Training)などがある。これらは、一定の実務経験を持つ者を対象に、より専門的な知識・技術や、リーダーシップ、マネジメント能力を養成することを目的としている。
3.0.3 両者の関係性と本項の視点養成と育成は、時として明確に区分されるものではなく、連続的な関係にある。養成を経て現場に入った人材が、育成プログラムを通じてさらに成長し、より高度な専門性や管理能力を身につけていく。このプロセス全体が、介護人材の「キャリアパス」を形成する。日本の介護人材制度の変遷を見ると、初期は主に「養成」に焦点が当てられ、量的な確保が優先された。その後、サービスの質的向上が求められる中で、「育成」の重要性が認識されるようになった。現在では、養成から育成まで一貫したキャリアパスの構築が重要課題となっている。本章では、この両面から日本の介護人材制度の変遷を分析する。時期区分ごとに、どのような養成・育成制度が導入され、何を目的としていたか、どのような成果と課題があったかを検討する。
3.1 介護保険制度創設前の介護人材養成(1983年~1999年)表2 社会の変化と介護人材養成・育成制度の変遷
| 年 | 社会・ニーズの変化 | 研修制度・人材養成の動き |
|---|---|---|
| 1983年 | 家事援助・高齢者介護の社会化の動き | ホームヘルパー制度(訪問介護員養成研修)開始(1〜3級へ発展) |
| 1987年 | 介護を専門職として位置づける動き |
「介護福祉士」国家資格を創設 (日本初の介護専門資格) |
| 1989年 | 第1回 介護福祉士国家試験実施 | |
| 1990年代 | 高齢化の進行、在宅介護需要の増大 | ホームヘルパー1〜3級研修が拡充 |
| 2000年 |
介護保険制度スタート、社会全体で 介護を担う仕組みへ |
ホームヘルパー研修が人材養成の中心 |
| 2000年代前半~ |
要介護認定者が急増 → 介護職員のニーズが高まる |
ヘルパー研修の量的拡大、専門学校・大学の定員拡大 |
| 2007年 | 医療と介護の連携・地域包括ケアへのニーズ高まる | 介護職員基礎研修(450時間)創設 |
| 2013年 | 制度複雑・キャリアパス不明瞭との批判 |
ホームヘルパー1〜3級・基礎研修を廃止 → 初任者研修(130時間)に一本化 |
| 2016年 | 介護人材の専門性・キャリアパス明確化 |
介護福祉士受験要件に実務者研修 (450時間)必須化 |
| 2020年代 | 介護職員不足(2025年問題)、ICT・外国人材活用、認知症増加 | 外国人向け研修、日本語教育、ICT活用、認知症人材育成 |
日本における介護人材養成の歴史は、1983年の「家庭奉仕員(ホームヘルパー)派遣事業」の開始に遡る。当時、高齢者福祉は措置制度の下で運営されており、在宅サービスは極めて限定的であった。初期のホームヘルパーは、主婦などが短期間の研修を受けて従事する、いわば「ボランティアの延長」のような位置づけであった。研修時間も数日程度で、体系的な教育プログラムはまだ整備されていなかった。
1987年には「高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)」が策定され、ホームヘルパーの大幅な増員が計画された。1989年度末に約3万人だったホームヘルパーを、1999年度末までに10万人に増やす目標が立てられ、この量的拡大を支えるため、1989年に「ホームヘルパー養成研修事業」が制度化された。研修は1級課程(230時間)、2級課程(130時間)、3級課程(50時間)の3段階に体系化された。これにより、ホームヘルパーの養成が本格的に始まった。
3.1.2 介護福祉士国家資格の創設(1987年)ホームヘルパー制度と並行して、より専門性の高い国家資格として、1987年に「社会福祉士及び介護福祉士法」が制定され、介護福祉士資格が創設された。介護福祉士は、「専門的知識及び技術をもって、身体上又は精神上の障害があることにより日常生活を営むのに支障がある者につき心身の状況に応じた介護を行い、並びにその者及びその介護者に対して介護に関する指導を行うことを業とする者」と定義された。資格取得ルートは、当初から複数用意された。養成施設ルート(2年以上の養成施設を卒業)と、実務経験ルート(3年以上の実務経験+国家試験合格)である。福祉系高校ルートも後に追加された。
介護福祉士の創設は、介護を「専門職」として社会的に位置づける重要な契機となった。ただし、当初は資格取得者数が限定的で、介護現場への普及には時間がかかった。1990年時点での登録者数は約1.5万人であった。
3.1.3 ホームヘルパー研修の段階的体系化1990年代を通じて、ホームヘルパー養成研修の内容は徐々に充実していった。1994年には、新ゴールドプランが策定され、ホームヘルパーの目標人数が17万人に引き上げられた。研修カリキュラムも見直され、より実践的な内容が盛り込まれた。講義だけでなく、実技演習や施設実習が重視されるようになった。特に2級課程(130時間)が標準的な研修として位置づけられ、多くのホームヘルパーがこの研修を修了して現場に入るようになった。1997年には介護保険法が成立し(施行は2000年)、介護人材の大幅な需要増加が見込まれるようになった。これに対応するため、ホームヘルパー養成研修の実施主体が拡大され、民間事業者も研修を実施できるようになった。これにより、研修の受講機会が飛躍的に増加した。
この時期の人材養成は、「量的確保」が最優先課題であった。介護保険制度の施行に向けて、とにかく多くの人材を短期間で養成する必要があった。そのため、研修期間は比較的短く、参入障壁を低く設定することで、多様な人材の参入を促した。
3.2 量的拡大期の人材養成(2000年~2006年) 3.2.1 介護保険制度施行と人材需要の急増2000年4月の介護保険制度施行により、介護サービスの需要が急増した。制度初年度のサービス利用者は約149万人だったが、2006年度には約350万人に達した。これに伴い、介護人材の需要も急激に拡大した。介護保険制度では、多様な事業主体がサービス提供に参入できるようになった。社会福祉法人だけでなく、民間企業、NPO、協同組合など、様々な組織が介護事業に参入した。これにより、介護人材の就業機会が大幅に増加した。介護職員数は、2000年度の約54万人から、2006年度には約113万人へと倍増した。この急速な拡大を支えたのが、ホームヘルパー2級研修であった。研修実施機関が全国各地に設置され、多くの人々が研修を受講した。特に、主婦層や中高年層が多く参入し、介護労働力の中核を形成した。
3.2.2 ホームヘルパー研修の役割この時期、ホームヘルパー2級研修は、介護人材の「入口」として重要な役割を果たした。130時間という比較的短期間の研修で、介護の基本的な知識・技術を学ぶことができ、修了後すぐに現場で働くことができた。研修内容は、講義と演習、実習で構成された。講義では、介護の理念、高齢者の心理と身体、介護技術の基本、認知症の理解などを学んだ。演習では、食事介助、排泄介助、入浴介助、移動介助などの実技を習得した。実習では、実際の介護現場で利用者と接し、実践的な経験を積んだ。ホームヘルパー2級研修は、資格というより「修了証」の性格が強かったが、多くの事業所が採用条件としてホームヘルパー2級以上を求めたため、事実上の「入門資格」として機能した。
一方、この時期、早くも質的な課題が指摘されるようになった。研修期間が短いため、十分な知識・技術が身につかないまま現場に出る者がいた。研修実施機関によって教育の質にばらつきがあり、実務経験のない講師が教えているケースもあり、実践的なスキルの伝達が不十分なこともあった。また、ホームヘルパー1級研修、2級研修、3級研修、介護職員基礎研修(後述)、介護福祉士など、複数の研修・資格が併存し、体系が複雑になっていた。キャリアパスが不明確で、どのように段階的にスキルアップしていけばよいかが分かりにくい状況があった。
3.3 質的向上期の人材養成(2007年~2012年) 3.3.1 介護職員基礎研修の導入(450時間)量的拡大が一段落した2000年代後半、介護サービスの「質」が重視されるようになった。2006年の介護保険法改正では、介護予防や地域包括ケアの推進が打ち出され、より専門的な介護人材が求められるようになった。
この流れの中で、2007年に「介護職員基礎研修」(500時間)が創設された。これは、ホームヘルパー1級・2級と介護福祉士の間を埋める研修として位置づけられた。より高度な介護技術、医療的ケアの基礎、認知症ケア、リーダーシップなどを学ぶことができた。研修時間が500時間と長く、内容も専門的であったため、一定の実務経験を持つ介護職員のキャリアアップ研修として機能した。修了者は、サービス提供責任者になることができるなど、待遇面でのメリットもあった。
3.3.2 認知症ケアと医療的ケアへの対応この時期は認知症高齢者の増加に伴い、認知症ケアに関する専門的な教育の必要性も高まっていた。2005年から「認知症介護実践者研修」「認知症介護実践リーダー研修」が体系的に実施されるようになった。また、在宅医療の推進もあいまって、医療的ケアが必要な利用者が増加した。従来、喀痰吸引や経管栄養などの医療行為は、医師・看護師のみが実施できたが、2012年の法改正により、一定の研修を受けた介護職員も実施できるようになった。「喀痰吸引等研修」が制度化され、介護職員の業務範囲が拡大した。これらの専門研修は、介護人材の「育成」面を強化するものであり、基礎的な養成を終えた人材が、さらに専門性を高めていくための仕組みが整備され始めたといえる。
3.3.3 制度複雑化による課題一方で、研修を受ける側からすると、制度は複雑化することとなった。ホームヘルパー1級、2級、3級、介護職員基礎研修、介護福祉士など、複数の研修・資格が併存し、それぞれの位置づけや違いが分かりにくくなった。さらに、認知症介護研修、喀痰吸引等研修、サービス提供責任者研修、介護支援専門員研修など、多数の専門研修が追加され、「どの研修を受ければよいのか」「どのような順序で受講すべきか」が不明確という声が多くなった。この複雑さは、介護分野への参入障壁を高める結果となり、また、事業者にとっても、職員にどの研修を受講させるべきか判断が難しく、人材育成計画の策定が困難になった。さらに、研修受講には時間と費用がかかるため、職員個人や事業者の負担も大きな問題となった。特に小規模事業者では、職員を研修に出すと現場の人手が不足するという問題もあり、事業所間の格差を広げる一因ともなってしまった。
3.4 制度簡素化とキャリアパスの明確化(2013年~) 3.4.1 介護職員初任者研修への一本化(2013年)制度の複雑化による弊害を解消するため、2013年に大規模な制度改正が行われた。ホームヘルパー1級、2級、3級、介護職員基礎研修を廃止し、新たに「介護職員初任者研修」(130時間)と「介護職員実務者研修」(450時間)の2つに再編した。
介護職員初任者研修は、介護の入門的な研修として位置づけられた。研修時間は130時間で、旧ホームヘルパー2級研修とほぼ同じである。ただし、内容はより体系的に整理され、修了時には筆記試験による修了評価が導入された。カリキュラムは、「職務の理解」「介護における尊厳の保持・自立支援」「介護の基本」「介護・福祉サービスの理解と医療との連携」「介護におけるコミュニケーション技術」「老化の理解」「認知症の理解」「障害の理解」「こころとからだのしくみと生活支援技術」「振り返り」の10科目で構成された。
3.4.2 実務者研修の必須化(2016年)介護職員実務者研修は、より実践的な知識・技術を学ぶ研修として位置づけられた。研修時間は450時間で、医療的ケア(喀痰吸引、経管栄養)の基礎も含まれる。重要な点は、2016年度(2017年1月試験)から、介護福祉士国家試験の受験資格として、実務者研修の修了が必須となったことである。これにより、実務経験ルートで介護福祉士を目指す者は、必ず実務者研修を受講することとなった。
この改正により、介護人材のキャリアパスが明確化された。「介護職員初任者研修→実務者研修→介護福祉士」という段階的なキャリアパスが確立され、どのように段階的にスキルアップすればよいかが分かりやすくなった。また、初任者研修や実務者研修には、受講科目の免除制度も設けられた。例えば、初任者研修修了者が実務者研修を受講する場合、重複する科目(130時間分)が免除され、320時間の受講で済む。これにより、段階的に学習を進めやすくなった。
3.4.3 介護福祉士取得ルートの整理介護福祉士の資格取得ルートも整理された。2025年現在、以下の3つのルートが存在する。
①養成施設ルート:厚生労働大臣が指定した養成施設(専門学校、短期大学、大学など)で2年以上学び、卒業することで資格を取得できる。2022年度以降の卒業者は国家試験の受験が義務化された(経過措置により一定期間は受験しなくても資格取得可能)。
②実務経験ルート:3年以上の実務経験を積み、実務者研修(450時間)を修了した上で、国家試験に合格することで資格を取得できる。現在、最も多くの人が利用しているルートである。
③福祉系高校ルート:福祉系高校で必要な科目を履修し、卒業後に国家試験に合格することで資格を取得できる。
この整理により、どのルートを選択しても一定水準の教育を受け、国家試験に合格する必要があるという原則が明確化された。これは、介護福祉士の専門性と社会的評価を高めることを目的としている。介護福祉士の登録者数は、2000年の約18万人から、2025年には約200万人へと大幅に増加した(厚生労働省, 2025c)。介護職員全体に占める介護福祉士の割合も上昇しており、専門職化が進展しているといえるだろう。
3.5 現代的課題への対応(2020年代~) 3.5.1 外国人介護人材の受入れと養成介護人材不足が深刻化する中、外国人介護人材の受入れが拡大している。現在、複数の制度が並行して運用されている。
EPA(経済連携協定)に基づく受入れは、インドネシア、フィリピン、ベトナムとの協定により、2008年から開始された。候補者は日本語研修を受けた後、介護施設で就労しながら介護福祉士国家試験の合格を目指す。2023年度までに累計約8,300名が介護福祉士資格を取得している。
在留資格「介護」は、2017年に創設された。介護福祉士養成施設を卒業し、介護福祉士資格を取得した外国人が、在留資格「介護」で日本の介護施設で就労することができるようになった。この資格には在留期間の更新が可能となり、家族の帯同も可能となった。
技能実習制度にも、2017年に介護職種が追加された。開発途上国への技能移転を目的とする制度であり、最長5年間の実習が可能となっている。
特定技能制度は、2019年に創設され、一定の技能水準と日本語能力を持つ外国人が、最長5年間(特定技能1号)介護分野で就労できる制度である。2024年には特定技能2号への移行も可能となり、事実上の永住への道が開かれた。
外国人材に対しては、日本語教育と介護技術教育を組み合わせた養成プログラムが実施されているが、日本語能力の習得、文化的背景の違い、国家試験の難易度などが課題となっている。2025年時点で約7.4万人の外国人が介護職として従事しており(厚生労働省, 2025b)、今後さらに増加が見込まれる。取り組みを進めている各現場では、多文化共生の職場づくり、適切な支援体制の構築が進められている。
3.5.2 ICT・介護ロボットへの対応テクノロジーの進展により、介護現場でもICT(情報通信技術)や介護ロボットの活用が進んでいる。見守りセンサー、移乗支援機器、排泄予測システム、記録システムの電子化など、様々な機器・システムが導入されている。これに伴い、介護人材にはICTリテラシーや、介護ロボット等の操作スキルが求められるようになってきている。これまでの養成カリキュラムでは、これらの内容が十分に含まれていないため、厚生労働省は、2020年度から「介護現場におけるICT活用推進事業」を実施し、事業者への導入支援と人材育成を進めている。また、養成カリキュラムの見直しも検討されており、テクノロジー活用に関する教育が強化される見込みである。
3.5.3 認知症ケア人材の育成強化認知症高齢者の増加に伴い、認知症ケアの専門性がますます重要になっている。2022年の段階で約443万人存在し、2040年には584万人が認知症になると推計されており(厚生労働省, 2022a)、すべての介護職員に認知症ケアの基本的な知識・技術が求められ、認知症ケアに関する研修体系も充実が図られている。
認知症介護基礎研修は、2021年度から、すべての介護職員に受講が義務づけられた(一定の猶予期間あり)。認知症の基本的な理解と対応方法を学ぶ6時間程度の研修である。
認知症介護実践者研修は、認知症ケアの実践的スキルを学ぶ研修で、概ね2年以上の実務経験を持つ職員が対象の研修である。
認知症介護実践リーダー研修は、事業所内でリーダー的役割を担う職員を養成する研修である。実践者研修修了後、5年以上の実務経験が必要とされる。
認知症介護指導者研修は、都道府県や市町村で認知症介護研修の企画・立案や講師を担う人材を養成する研修である。
さらに、認知症ケア専門士という民間資格も普及しており、より高度な専門性を持つ人材の育成が進められている。また、認知症対応型サービス事業管理者研修など、認知症対応型サービスの管理者向けの研修も整備されている。
認知症ケアの質向上には、知識・技術だけでなく、認知症の人の尊厳を守り、その人らしい生活を支えるという理念の理解が不可欠であるため、パーソン・センタード・ケアやユマニチュードなどの認知症ケアの理念・手法が日本でも普及しつつある。
2000年の介護保険制度施行以来、介護支援専門員(以下、ケアマネジャー)は、利用者とサービス提供者を繋ぐ要として中核的な役割を担ってきた。利用者一人一人の価値観や想いを尊重したケアプランを作成する上で、欠かせない仕組みの一つと言える。ここでは、制度創設時から現在に至るまでのケアマネジャー養成・育成制度の変遷を概観する。その歴史的変遷は、介護専門職と同様、制度導入初期における「人材の量的確保」から、制度成熟期における「質の向上」、さらに近年の「専門性および実践的対応力の強化」へのパラダイムシフトとして体系化できる。
表3 介護支援専門員養成制度の変遷と政策的意図
| 時期 | 制度的背景 | 主な制度変更 | 政策的意図 |
|---|---|---|---|
| 創設期 (1998〜2005) | 介護保険制度施行 | ・広範な受験資格(無資格・実務経験のみ可) ・資格の終身有効性(更新制なし) | 【量的確保】 制度インフラとしての人的資源の急速な確保 |
| 第1次改革 (2006〜) | 2006年制度改正 | ・5年ごとの更新制導入 ・「主任介護支援専門員」の創設 ・階層的研修体系の整備 | 【質の向上・指導層育成】 継続教育によるスキル維持とスーパービジョン体制の確立 |
| 第2次改革 (2016〜2018) | 地域包括ケア深化 | ・受験資格の厳格化(国家資格必須化) ・実務研修時間数の倍増(44h→87h) ・実習内容の高度化 | 【専門性の明確化】 医療連携および自立支援に資する高度専門職への転換 |
| 現在 (2024〜) | 制度の持続可能性 | ・カリキュラム改定(意思決定支援等の拡充) ・管理者要件の厳格化(主任資格必須化) ・ICT活用およびオンライン研修の定着 | 【実践力・対応力の強化】 複雑化・多様化する地域課題への即応能力向上 |
介護保険制度の施行(2000年)に伴い、ケアプラン作成を担う専門職の早急な全国的配置が喫緊の課題とされたため、以下の方策がとられた。
4.3 第1次改革期(2006年改正):更新制導入による質の担保①受験資格の包括性: 当初は、医療・福祉・保健分野の国家資格保持者に加え、実務経験を有する相談援助業務従事者や、無資格であっても一定の実務経験を有する介護業務従事者に対し、広く門戸が開かれていた。
②門戸を広げる初期研修: 制度創設時の「実務研修」は、制度概論やケアプラン作成の基礎技術習得に主眼が置かれ、時間数も44時間程度と少ない時間で資格取得が可能であった。
③資格の恒久性: 制度創設当初、資格の有効期限は設けられておらず、一度の取得により永続的な資格保持が可能であった制度設計は、人材供給を最優先した結果であると言える。
制度施行から5年が経過し、ケアプランの画一化や医療連携の不全といった、ケアマネジャーの資質に対する課題が顕在化した。これを受け、2006年度より資質向上を目的とした抜本的な改革が断行された。
4.4 第2次改革期(2015年〜2018年頃):専門性の深化と参入障壁の見直し①更新制(5年毎)の導入: 資格の有効期限を5年とし、更新に際して所定の研修受講を義務付けることで、継続的な学習機会を制度化した。
②更新研修の整備: 実務経験の有無や従事期間に応じ、「実務未経験者更新研修」「専門研修課程I・II」といった習熟度別の研修体系が構築された。
③主任介護支援専門員の創設: 地域包括支援センターへの配置や新人指導を担う上位資格として「主任介護支援専門員」が新設され、指導的役割の明確化が図られた。
地域包括ケアシステムの推進に伴い、医療・介護連携の強化や自立支援に資するケアマネジメントが求められる中、資質の均質化を図るべく受験資格等の厳格化が進められた。
受験資格の厳格化(2018年度完全施行):「介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)」修了者や無資格の実務経験者等の受験ルートが廃止された。受験資格は原則として、法定国家資格(医師、看護師、社会福祉士、介護福祉士等)保持者および相談援助業務従事者に限定され、基礎的な専門性を有する人材への選抜強化が図られた。
実務研修の拡充: 試験合格後の「実務研修」が従来の44時間から87時間へと倍増された。特にケアプラン作成の実地演習(実習)が強化され、現場適応能力の向上が重視された。
地域包括ケアシステムの深化は、8050問題、ヤングケアラー、認知症高齢者の増加といった複合的・多層的な地域課題への対応が求められている。
①法定研修カリキュラムの改定(2024年度施行):「適切なケアマネジメント手法」の標準化に加え、意思決定支援、身寄りのない利用者への支援など、現代的な社会課題に対応するカリキュラムが導入された。
②管理者要件の厳格化と指導層の質維持: 居宅介護支援事業所の管理者要件が原則として「主任介護支援専門員」に限定(経過措置あり)されたほか、主任資格自体にも更新制が適用され、管理・指導能力の維持が義務付けられている。
③教育手法の変革: COVID-19の流行を契機として、法定研修におけるオンライン形式が定着し、ICTを活用した効率的な研修受講環境が整備された。
本稿では、日本における介護保険制度と人材養成・育成制度の変遷を概観してきた。日本の介護保険制度は、2000年の創設以来、四半世紀にわたり運用され、一定の成果を上げてきた。社会保険方式による財源確保、多様な事業主体の参入によるサービス供給の拡大、利用者本位のサービス選択、定期的な計画の見直し、制度改正などが制度を機能させてきた基本的枠組みと言える。地域包括ケアの推進により、高齢者の尊厳を守り、住み慣れた地域での生活を支えるという理念も、多くの国民に共有されている。
人材養成・育成制度も、介護職、ケアマネジャーともに、試行錯誤を重ねながら発展し、現在は、認知症ケア、医療的ケア、マネジメントなど、専門分野別の研修体系も整備され、制度の簡素化することで、可能な限りわかりやすさにも配慮されてきた。
現在はさらなる高齢化の進行と物価高、所得の固定化等の構造的課題によると考えられる介護人材不足や離職率の高さなどもあり、2040年問題を前に処遇改善、業務効率化、社会的評価の向上、外国人材の活用など、多面的な取り組みを進めている。社会が長寿化するに伴い、介護をどのように支えるかは、どの国も必ず直面する。必要なサービスを提供できる専門人材を養成・育成することは、高齢者が、介護が必要になった際、尊厳を保ち、その人らしく生きられる社会を実現すべく、必要な取り組みと言えるだろう。
時代の変化に対応しながら介護保険制度の維持、改善に努めてきた日本の失敗や成功の経験を活かし、これから制度を検討、構築する皆様の参考に少しでもなることを願って、本稿を締めくくりたい。