2025 年 45 巻 5 号 p. 531-534
症例は52歳,男性。バイク事故による多発外傷で救急搬送され,胸部下行大動脈損傷(GradeⅡa),左横隔膜損傷(GradeⅢb)による腹腔内臓器の胸腔への脱出,脾損傷(GradeⅡ),左下肢骨折が確認された。まず経カテーテル脾動脈塞栓術と胸部大動脈損傷に対しステントグラフト内挿術を先行した。その後開腹手術で横隔膜損傷修復,腸間膜損傷に対する回盲部切除術を施行し,後日整形外科で下肢骨折に対する手術を施行した。本症例は血管外漏出を伴わない脾損傷に対し,TEVAR後の抗凝固療法による出血リスクや開腹手術時の視野確保を考慮し脾動脈塞栓術を先行させた。多発外傷における治療戦略として,本症例のように輸液反応性があり生理学的徴候の安定した症例においては,血管内治療を先行させ,その後に開腹手術を行う戦略は1つの選択肢として有用である可能性が示唆された。