本稿は, 戦後日本政治における首相と参議院の関係を分析している。より具体的には, 首相は, 日本の国会制度における法案審議時間の制約と日本の議院内閣制における参議院の独自性を踏まえた上で, 内閣提出法案の成立を確実にするためにさまざまな方策を用いて, 法案審議以前の段階で予め法案に対する支持を参議院の多数派から獲得してきたことを明らかにしている。これまでの参議院研究では, 参議院の審議過程で法案の内容や成立が左右されることがないため, 参議院には限られた影響力しかないというカーボンコピー論が通説的地位を占めてきた。しかし, 本稿はその分析を通じて, 参議院の審議過程で法案の内容や成立が左右されることが少ないのは, 首相の法案成立に向けた事前の努力の結果に過ぎず, 参議院は法案審議以前の政治過程で広範な影響力を及ぼしていることを明らかにしている。