2020年初頭から顕在化した新型コロナウイルス感染症の拡大においては,日本では被害規模が客観的・相対的に大きくないにもかかわらず,人々の政府不信が高いと指摘されていた。本研究は,筆者らが参加する「コロナ危機下の価値観に関する国際調査(Values in a Crisis Survey, VIC)」プロジェクトが2020年5月に取得した日本データに基づき,新型コロナウイルス感染症の客観的被害規模,感染等の身体的被害・仕事や収入減等の経済的被害・心理的被害(不安)が,各種のアクターへの信頼・評価にどのような影響をもたらしたかを分析した。マルチレベル重回帰分析の結果,(1)感染症による身体的被害は若年層,経済的被害は女性・低所得層・都市部居住者で経験されやすく,両者は人々の心理的被害(不安)を大きくしていた,(2)政府(国)と医療政策所管の厚労省への信頼の構造は類似し,高所得者・保守層・他者への信頼が高い人が信頼しており,また都道府県の累積感染者数という客観的被害が信頼を押し下げていた,(3)総理大臣への信頼は元々の支持層で高いことが示唆されたが,健康被害の経験が信頼を減じていた,(4) 地方自治体の首長への信頼の構造は国の機関や首相とは異なっており,医療関係者・専門家への信頼や他者への評価・連帯感に近く(やや非政治的で),不安が強い人で信頼が低かった,(5)メディア・報道機関は,女性・高齢者・世帯人数の多い人・左派イデオロギーを持つ人が信頼する傾向にあった。
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