2021 年 63 巻 2 号 p. 162-167
近年,幹細胞生物学の進展が目覚ましい。特に,体内の幹細胞動態に係る研究については,国際放射線防護委員会(International Commission on Radiological Protection:ICRP)も注目し,2015年12月には発がんリスクに関する幹細胞の役割に着目したICRP Publication 131(以降「Publ.131」と記載)「放射線防護のための発がんの幹細胞生物学」を刊行した。この中で注目すべき点は,「放射線による発がんの標的となる細胞は各組織内の幹細胞,場合によってはその前駆細胞であろうと考えられている(Publ.131の第1項)」ことにある。本特集では,放射線リスク研究のブレークスルーとして最近,期待感が高まっている幹細胞研究の現状を調べ,被ばくの標的細胞を「幹細胞または前駆細胞」とみなすことによってがんリスク評価にどのような変更(パラダイムシフト)がもたらされるかを解説する。