日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Print ISSN : 2186-9545
特別企画
副腎皮質腫瘍の外科
石戸谷 滋人荒井 陽一
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2012 年 29 巻 1 号 p. 26-30

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抄録

副腎皮質腫瘍の外科治療において対象となる疾患は①原発性アルドステロン症,②クッシング症候群/サブクリニカルクッシング症候群,③非機能性腺腫(副腎皮質癌)である。診断には画像検査と内分泌学的検査が行われる。画像検査ではCTが必須で,副腎シンチグラム,PET検査が必要に応じて追加される。近年原発性アルドステロン症の診断において副腎静脈サンプリングが普及し,診断及び手術数が増加している。手術に関しては腹腔鏡下副腎摘除術の手技が確立され,標準となった。各学会が示しているガイドラインに従っての遂行が望まれる。良性であれば過剰なホルモン環境の是正が目的であり,可能な限り低侵襲で行うことが,悪性(疑い)であればその全摘出が目的となり,可能な限り根治的に行うことが求められる。

はじめに

日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌の創刊にあたり,副腎皮質腫瘍の外科について自験例を交えて概説する。副腎皮質腫瘍の手術症例数は増加し続けており,その要因として腹腔鏡手術の普及により外科治療のハードルが下がったこと,原発性アルドステロン症の疾患概念が変化し,新規診断数が増加したことが挙げられる。外科的な手術手技はほぼ確立されたと言ってよく,現在の課題は,“いかに摘出するか”ではなく,“どの様な症例にどこを摘出するか”となってきている。本手術は日本内分泌外科学会,日本泌尿器内視鏡学会(Japanese Society of Endourology:JSE)の両学会会員よって行われているが,記述が多少JSEのエビデンスに依っていることをご容赦いただきたい。

1. 副腎皮質腫瘍の分類

外科治療の対象となる副腎皮質疾患は①原発性アルドステロン症,②クッシング症候群/サブクリニカルクッシング症候群,③非機能性腺腫(副腎皮質癌)である。

2. 副腎皮質腫瘍の診断−画像,内分泌検査

ア)画像検査

・Computed tomography(CT):副腎腫瘍の診断,外科解剖の理解に必須である。可能であればマルチスライスCTによるthin slice撮影が望ましい。クッシング症候群では腎結石や骨密度減少(骨粗鬆症)が同定されることがある。

・シンチグラム:クッシング症候群/サブクリニカルクッシング症候群や大きい非機能性腺腫では131Ⅰ-アドステロール副腎シンチグラムを撮っておく。当該疾患であれば殆どの症例で患側の取り込みが亢進する。原発性アルドステロン症ではシンチグラムは不要とされている[1]

・Positron emission tomography (PET)検査:悪性腫瘍ではSUVmaxが高値を示すとされている。我々の施設でも副腎皮質癌や悪性褐色細胞腫が疑われる症例ではPET検査を傍証として用いているが,確立されたSUVmaxのカットオフ値はまだ存在しない (図1)

図1.

Annual number of PTx for 2HPT in Japan

・副腎静脈サンプリング(adrenal venous sampling: AVS):原発性アルドステロン症の責任病側の診断に有用な血管造影手技で,近年急速に普及してきている。右副腎中心静脈へのカテーテルウェッジがやや難しいとされるが,マルチスライスCTにより同静脈の走行や角度を事前に把握することで成功率が高まって来ている[2]。我々の施設では高アルドステロン血症の全症例にAVSを施行しており,CT陰性の片側過剰分泌症例(いわゆるアルドステロン産生微小腺腫)が多数同定されている。その多くが外科治療を施され,良好なアウトカムを得ている (図2) [3]。日本内分泌学会では2009年にガイドライン上でAVSの基準を公表したが,以下に記す問題点が残存している[1]

図2.

Annual number of PTx for 2HPT in Japan

・適  応:全例に行うか,セレクトされた(CT陰性など)症例に行うか?

・負荷試験:ACTH負荷を行うか?

・判定基準:カットオフ値をどう定めるか?

・保険適応:静脈造影法としての算定であり,AVS独自の技術評価がなされていない

これらの課題が解決されるに従って,さらに原発性アルドステロン症の手術症例数は増加するものと思われる。

イ)内分泌学的検査

・原発性アルドステロン症:スクリーニングの手段として血漿アルドステロン値や血清カリウム値の測定に加えて,血漿アルドステロン濃度(ng/dl)/血漿レニン活性(ng/ml/hr)の比(A/R比)の測定が推奨されている[1]。この比が20以上あれば本疾患を疑い,専門的な内分泌学的精査(カプトプリル負荷試験,フロセミド立位負荷試験,生理食塩水負荷試験等)を行う。

・クッシング症候群およびサブクリニカルクッシング症候群:血中コルチゾール値,adrenocorticotropic hormone (ACTH)値とその日内変動,尿中17-OHCSと17-KS,デキサメサゾン1mgおよび8mgの負荷試験が行われる。クッシング症候群では殆どの症例で術後にステロイド補充が必要となる。健側副腎からのコルチゾール分泌回復の予測は下垂体からのACTH分泌能抑制の程度に依存する。この下垂体抑制の程度は術前に検索されておく必要があり,一般にcorticotropin-releasing hormone(CRH)試験が行われる。健常者と異なり副腎性クッシング症候群症例ではCRHを負荷してもACTHは無反応または低反応であり,術後のステロイド補充が必須であることが裏付けられる。コルチゾールの基礎値が正常範囲にあり,クッシング症候群に特徴的な種々の症状(満月様顔貌,中心性肥満等)を欠くものの,コルチゾールの日内変動が消失して自律性分泌を示す病態がサブクリニカルクッシング症候群である。この疾患の手術適応については議論が分かれている。筆者を含めて,ホルモン産生腺腫の一亜型またはクッシング症候群の前段階と考えて積極的に腹腔鏡手術を行う施設も存在する。 表1 に東北大学におけるサブクリニカルクッシング症候群に対する副腎摘出術のアウトカムを示す[4]。高血圧や糖尿病が術後に高率に改善することが分かる。

表1. 副甲状腺摘出術が困難でCinacalcetを優先すべき症例

・非機能性腺腫(副腎皮質癌):副腎皮質腫瘍が非機能性かつ良性であることが明らかであれば,手術適応とはならない。しかし,それを確実に診断することは難しく,逆に言えば,非機能性腫瘍は癌の疑いがあるから手術を考慮することになる。術前の生検は勧められない。文献的には6cmを越える副腎腫瘍は手術適応[5]とされているが,実臨床では4〜5cmあれば摘出していることが多いと思われる。

3. 外科治療−内分泌外科,泌尿器科

ア)腹腔鏡下副腎摘除術

1992年に初めて腹腔鏡下副腎手術が日本から報告されて以来[6],この低侵襲手術が急速に普及して現在に至っている。体幹深部にあって容積の小さい副腎は臓器として最も腹腔鏡手術に適している。現在この手術手技はほぼ確立されたと言って良い。

腹腔鏡下副腎摘除術の特徴

原発性アルドステロン症の全症例,クッシング症候群/サブクリニカルクッシング症候群の殆どの症例が腹腔鏡手術の対象となる。非機能性腺腫(悪性が疑われる場合)や転移性副腎腫瘍の場合にはそのサイズと術者の経験が重要になってくる。副腎皮質腫瘍は腎細胞癌と違って腫瘍被膜が薄く脆弱で,これを損傷した場合には高率に播種,局所再発を来す。副腎皮質癌,転移性副腎腫瘍が疑われる場合には,相応の経験を有する術者以外は腹腔鏡アプローチを避けるべきと筆者は考えている。

経験の蓄積と器具の改良とにより副腎腹腔鏡手術の適応は拡大している。2008年に日本Endourology and ESWL学会(現・日本泌尿器内視鏡学会)が泌尿器腹腔鏡手術ガイドラインを発表した[7]

※アプローチ法

以下は日本泌尿器内視鏡学会が推奨する名称である。

ア)経腹膜到達法(側臥位または半側臥位)

①経腹膜前方到達法

②経腹膜側方到達法

イ)後腹膜到達法

③後腹膜側方到達法(側臥位)

④後腹膜後方到達法(腹臥位)

いずれの到達法にも利点と欠点があり,その選択は術者の習熟度と好み,腫瘍の大きさ,既往歴(腹部手術の既往等)等を総合的に判断して決定される。筆者等はガイドラインによる推奨到達法と同様に,経腹膜的の場合右は前方到達法,左は側方到達法を,後腹膜的であれば側方到達法を主に用いている。

※全摘出術と部分切除(核出術)の適応

原発性アルドステロン症において患側副腎を腺腫ごと一塊として全摘するか腫瘍のみの部分切除で十分か,議論が続いている。微小腺腫の概念の登場もあって,現在では全摘術が妥当とする意見が主流である。我々も以前はアルドステロン産生腺腫に対して部分切除術を行っていたが,多発腺腫の残存によると考えられる術後の高アルドステロン血症−高血圧の持続症例を経験したため,現在は原則的に片側全摘術を施行している[8]

クッシング腺腫/サブクリニカルクッシング腺腫では多発例は極めて稀であるが,悪性の可能性が常に随伴するため,患側の慎重な全摘術が望まれる。

※技術認定制度

日本泌尿器内視鏡学会では,2004年より,泌尿器腹腔鏡技術認定制度を開始して,治療技術の質の維持,向上に努めている。日本内視鏡外科学会にも同様の認定医制度(日本内視鏡外科学会技術認定:消化器・一般外科領域〜副腎)が存在する。認定基準は,20症例以上をこなした術者の無修正の手術ビデオを複数の審査員がblindで審査するもので,腎または副腎の腹腔鏡下摘出を制限時間内に安全かつ独力で遂行する技術を問うものである。泌尿器腹腔鏡技術認定制度の場合,4本のポートをおいて常に適切な視野を得て,解剖学的膜構造を理解していることを示しながら,両手を協調させて安全に操作を進めていく力量が要求される。平均的な合格率は例年60%弱で,技術認定取得者の一覧は学会ホームページにて閲覧可能である(http://www.jsee.jp/)。

イ)開放副腎摘出術

頻度は減少したものの,開放手術による副腎摘出術は内分泌外科医にとって必須の治療手技である。特に10cmを越えるような副腎皮質癌に対応するには,開放副腎摘出術が唯一の救命治療となる。腰部斜切開により後腹膜的にアプローチする方法もあるが,筆者等は経胸経腹的到達法を好んで用いている (図3) 。まず開腹して腹腔内を検索,腹膜播種などのinoperableな所見がないことを確認した上で創を上方へ延長,第8または9肋骨まで切り上げて開胸する。十分な視野で剥離操作を行い,腫瘍圧排による播種には極力注意する。腎合併切除になることが多い。

図3.

Annual number of PTx for 2HPT in Japan

おわりに

副腎皮質腫瘍の外科治療について概説した。良性であれば過剰なホルモン環境の是正が目的であり,可能な限り低侵襲で行うことが,悪性(疑い)であればその全摘出が目的となり,可能な限り根治的に行うことが求められる。海外ではロボット補助下副腎手術が,本邦でも一部の施設で単孔式腹腔鏡手術が開始されているが,両者ともまだ普及に至っておらず本稿では割愛した。稿を終えるにあたり,チーム医療としてご指導ご協力頂いている東北大学腎高血圧内分泌内科,放射線科,病理診断学の諸先生方に御礼申し上げる。

【文 献】
 

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
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