日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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外科的内分泌疾患の画像診断
滝 淳一絹谷 清剛
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2012 年 29 巻 1 号 p. 43-49

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はじめに

内分泌外科領域における核医学診断は,腫瘤性病巣の存在診断もさることながら,用いる放射性医薬品の集積特異性ゆえに質的診断に大きな意義がある。本稿では,外科的内分泌疾患に係わる,画像診断の一般的な事柄を主に核医学画像の視点から記述する。

1. 甲状腺腫瘤

1 )腫瘤性病巣の良悪鑑別

かつて201Tl塩化タリウムで甲状腺腫瘤の良悪鑑別が試みられていた。投与後早期と後期の二度の撮像を行い,悪性腫瘍であると後期像でも集積が残るという傾向にあることを利用したものであるが,正診度が不十分であった。18F-FDG-PETがそれに代わって期待され検討されてきた。一般に悪性度の高い腫瘍ほど糖代謝が活発であることから期待されたが,良悪鑑別におけるFDG-PETの意義は否定的な結論である[1]。臨床上鑑別で最も苦慮する濾胞腺腫と濾胞腺癌での鑑別は,濾胞腺腫もFDG取り込み機構であるグルコーストランスポーターを強発現しているため,甲状腺内腫瘤の鑑別には無力である。濾胞腺腫以外の腺腫様結節でもよく強集積をみる。また,慢性甲状腺炎でFDG集積が認められることが多々ある。

2 )悪性腫瘍と判別した後の検索

分化癌と呼称される乳頭癌,濾胞癌の約70%で,発生母胎の濾胞上皮細胞同様にヨウ素摂取を担うNaIシンポーターを細胞膜上に発現しており,ヨウ素摂取はTSH依存性である。正常甲状腺組織が残存している状況では,内因性TSHが腫瘍細胞のヨウ素摂取を十分に誘発できるレベルまで上昇しないこと,ヨウ素摂取能が正常濾胞上皮細胞の方が圧倒的に強いことにより,摂取能を有していたとしてもシンチグラムで陽性描画される量まで集積しない。外因性TSH(遺伝子組み換えヒトTSH)投与下でも,片葉が残存しているような状況では,後者の理由で病巣検出は成し遂げられないであろう。以上から,放射性ヨウ素131Iシンチグラフィによる転移巣検索には,全摘術の先行が必須である。

201Tlが全身検索に用いられた時代があった。平面像でのシンチグラフィ診断では検出能が十分ではなく,SPECT像でも筋集積,血管壁放射能残存,強い消化管排泄などにより,病巣診断が困難であった。現在は,FDG-PETがそれに取って代わった状態である。さて,悪性腫瘍と診断がついた場合に,術前検索として全例にFDG-PETは必要であろうか。たとえば,乳頭癌の診断がついたとして,頸部評価が十分にされている症例で全例においてPETをすることが妥当か否かということである。これまでの報告では,リンパ節転移診断において,FDG-PETがエコーやCTより優れているという成績は示されていない[1]。乳頭癌で時にみられる副咽頭間隙リンパ節・縦隔・肺門リンパ節転移は術前CTで容易に検出されるため,頸部-胸部のサーベイ目的にFDG-PETを用いる意義は乏しいと考える。

内用療法を行っていると,予想外の部位に遠隔転移を来していることを時に経験する。このような例は多くの場合T因子,N因子が大きく,遠隔転移があろうがなかろうが全摘術後にアブレーション・内用療法が施行されるべき例であり,若干極論かもしれないがあえて術前に全身検索が必要ないとも言える。また,微小肺転移は131Iシンチグラフィでのみ検出されることがある。つまりほとんどの場合,術前PETは治療方針に影響を与えないであろう。

FDG-PETの意義は,全摘術後にサイログロブリンが陽性だが,131Iシンチグラフィや形態診断で陰性である症例での病巣検索に大きいと考える。この意義は,過去の報告で十分示されている。FDG集積とヨウ素集積は補完的な性質を有していることが知られており (図1) 131I 陰性・FDG陽性病巣は悪性度が高い傾向にある[2]

図 1 .

Annual number of PTx for 2HPT in Japan

3 )髄様癌

髄様癌予後は外科的対応の可否にかっており,術後のリンパ節再発,肺・肝・骨転移が予後に強く相関する。したがって,術後,カルシトニン,CEAが高値の症例において,US,CT,MRIによる病巣検索に核医学画像診断が病巣検出にどの程度寄与できるかが焦点である。神経内分泌腫瘍に分類される甲状腺髄様癌は,ノルエピネフリン類似体の131I/123I-MIBG摂取能を有することがある。しかし,MIBGシンチグラフィの髄様癌検出感度は必ずしも高くはなく,集積を示すのは1/3程度の症例である[3]。FDG-PETがこの状況で用いられた場合に,他の画像診断と比べ最も感度が高いという報告がある一方,FDG-PETは1/3の症例で補完的意義を有するとする報告もある。したがって,他の多くの領域と同じく,単一画像で十分であるわけではなく,複合画像により評価するのが妥当である。

おそらく,核医学診断の意義は,病巣検出以上に,集積の有無あるいは強度による予後予測や治療効果判定にあるだろう。つまり,FDG集積の有無はよいprognostic valueであるとする報告や[4],sunitinib治療効果判定における意義を示唆する報告がある[5]

さて,髄様癌は131I-MIBGによる内照射療法の対象になりえる。多数例での報告が過去にないが,37例においてCR+PR 35%,SD 30%,PD 35%の報告がある[3]。原則として,131I-MIBG集積がシンチグラフィで確認できる症例がこの治療の対象である。しかし,甲状腺分化癌でトレーサ検査において集積が確認できず,内用療法時のシンチグラフィでのみ131I集積が認められることがあるように,131I-MIBGでも同様のことが経験される (図 2 ) 。これは, 後述の褐色細胞腫・神経芽腫でもそうである。したがって,シンチグラフィで陰性であっても,他に治療選択肢のない状態であれば,内照射療法を考慮してもよいかもしれない。

図 2 .

Annual number of PTx for 2HPT in Japan

2. 原発性副甲状腺機能亢進症

副甲状腺機能亢進症には原発性,大部分が慢性腎不全に伴う2次性,ならびに長時間持続する2次性副甲状腺機能亢進症に伴う副甲状腺組織の増性がもたらされる3次性のものがあり,外科的切除の対象となるのは前者である。原発性副甲状腺機能亢進症の原因は多く(8割)が腺腫であり一部が過形成(2割)であり,癌であることは極まれ(1%以下)である。

副甲状腺は通常4腺が甲状腺の近くまたは背部に存在するが,その位置や数はバリエーションに富み,異所性のものもまれではない。原発性副甲状腺機能亢進症における過機能性副甲状腺の治療は外科的切除が第一選択であり,そのための正確な部位の特定が不可欠である。

過機能性副甲状腺の部位診断のための画像診断の第一選択は頸部超音波検査である。通常,甲状腺背側の低エコー結節を呈し,境界は明瞭である。甲状腺の周囲にある場合には最も感度の高い検査法であるが,リンパ節との鑑別が問題となることがある。また鎖骨,食道の背側や縦隔に存在するものは検出できない。CTでも甲状腺背側の低吸収腫瘤として認識され,造影効果がみられる。単純CTでは,慢性甲状腺炎などで甲状腺のdensityが低下している場合は検出しにくいことがある。thin slice で,単純,造影CTを施行し検出率を上げることが望ましい。MRIではT1強調像で低信号,T2強調像で高信号の結節性病変として認められ,よく造影される。

シンチグラフィでは201Tlと99mTcの2核種によるsubtraction法が以前は主流であった。すなわち201Tlにより甲状腺と副甲状腺を描画し,99mTcで甲状腺を描画することで,201Tlの画像から99mTcの画像を減算して過機能副甲状腺組織を検出していた。しかし近年99mTc-MIBIよる診断法がより簡便でかつ診断能が高いために主流となっている。99mTc-MIBI静注後の10分で早期像,2-3時間後に後期像を撮像する。その際,異所性の副甲状腺検出のために必ず胸部も撮像範囲に含めることが肝要である。早期像では甲状腺への生理的集積のため副甲状腺は認識できないことが多いが,甲状腺の集積は副甲状腺より早く洗い出されるために,後期像で副甲状腺が描画される。後期像においてはその位置を正確にみるためにSPECT/CTが推奨される (図3) 。さらに外科に対する情報として,CTのボリュウームレンダリング画像とSPECTの融合画像が有用である (図4)

図 3 .

原発性副甲状腺機能亢進症における99mTc-MIBIシンチグラフィ

a:平面像早期像で甲状腺右葉尾側に集積が疑われ,後期像で正常甲状腺のMIBIは洗い出され,甲状腺右葉尾側の集積が残存している。過機能性副甲状腺が示唆される。

b:SPECT/CTでは気管右側の小結節に一致した集積が明瞭に示されている。

図 4 .

99mTc-MIBI SPECTとMDCT 融合画像

99mTc-MIBIシンチグラフィ平面像(a)で右上副甲状腺腫大が指摘できる。MDCTのボリュームレンダリング画像と99mTc-MIBI SPECTの融合画像(b)により,右上副甲状腺に下甲状腺動脈が前側から上行して注いでいるのが明瞭に認識できる。(北光記念病院中駄邦博先生のご厚意により拝借)

異所性の部位診断はシンチグラフィの得意とするところであり,早期像からよく描出される場合が多く,その段階でSPECT/CTを追加すると良い。784例のメタ解析では副甲状腺腫の検出感度は90.7%,特異度は98.7%と報告されている[6]

3. 副腎髄質由来の病変

1 )褐色細胞腫

外科的摘出が治療原則である。術前に明らかな悪性所見すなわち転移や局所浸潤所見等がない場合は良性の可能性が高いが,悪性は否定できない。良性であれば良好な予後が得られるが,病理学的にも良悪の鑑別は困難である。

初診時の腫瘤は比較的大きく3cm以上が一般的である。CTでは囊胞成分,壊死や出血による内部不均一な低吸収域を含む特徴的な像を呈する。MRIではT1強調像で低信号,T2強調像で高信号を呈し,化学シフト像で信号低下が見られない。診断はおおむねCT,MRIで可能であるが,123I/131I-MIBGシンチグラフィで集積が確認されれば診断は確定的である。123I-MIBGと131I-MIBGの両者が診断薬として保健適応になっているが,131Iは半減期が8日と長く,γ線に加えβ線も出すために患者の被曝が多い。またγ線に関しては123Iのエネルギーがより撮像に適しており,イメージングには123I-MIBGが推奨される (図5) 。また123I-MIBGは現在222 MBq投与が保険診療で認められているので,画質向上などの理由で222 MBq投与による検査が望ましいであろう。

図 5 .

99mTc-MIBI SPECTとMDCT 融合画像

99mTc-MIBIシンチグラフィ平面像(a)で右上副甲状腺腫大が指摘できる。MDCTのボリュームレンダリング画像と99mTc-MIBI SPECTの融合画像(b)により,右上副甲状腺に下甲状腺動脈が前側から上行して注いでいるのが明瞭に認識できる。(北光記念病院中駄邦博先生のご厚意により拝借)

転移の検索や多部位病変例に関してはシンチグラフィは特に有用であり,SPECT/CTを施行することにより診断精度が向上する (図6) [7]。1-2割存在するとされるMIBG陰性例ではFDG-PETによる全身検索を施行するとよい。この理由として,PETの分解能がMIBGシンチグラフィよりも高いため生じる機器の差に基づくものと,腫瘍の生物学的反映に基づくものの2点が考えられる。いずれにせよ,FDG-PETは褐色細胞腫が臨床的に疑われるのにMIBGシンチグラフィで陰性である場合の検索,悪性症例における全身検索,治療効果判定などに期待が持たれる。

図 6 .

99mTc-MIBI SPECTとMDCT 融合画像

99mTc-MIBIシンチグラフィ平面像(a)で右上副甲状腺腫大が指摘できる。MDCTのボリュームレンダリング画像と99mTc-MIBI SPECTの融合画像(b)により,右上副甲状腺に下甲状腺動脈が前側から上行して注いでいるのが明瞭に認識できる。(北光記念病院中駄邦博先生のご厚意により拝借)

これまでの報告では,悪性褐色細胞腫への集積頻度は良性褐色細胞腫より高いものの,良性でも高集積を示すものが多いため,FDG集積の有無で良悪性鑑別は困難である。しかし,悪性度と関わっていると考えられているSDHB変異と,FDG集積の関連を示唆する報告がある[8]。MIBG無集積例におけるFDG集積などの所見を合わせ考えると,FDG集積は高い悪性度を示すことが示唆され,今後,予後因子として用いることができるとするデータが出てくるかもしれない。

2 )神経芽腫

小児における悪性腫瘍で3番目に多いものであり,骨,骨髄転移が多く(6割),転移が診断の端緒となることが多い。CTでは出血や壊死を反映した低吸収部を有する不均一な腫瘍で石灰化を高頻度に認める。MRIではT2強調像にて不均一に高信号部を認める。MIBGシンチグラフィは90%程度の正診率を有する。原発巣ならびに全身検索に有用である。腫瘍の石灰化を反映して,骨シンチでの集積を6割程度に認め,かなり特異的な所見である。MIBGシンチグラフィに係わる事柄は,褐色細胞腫の項に準じる。

4. 副腎皮質由来の病変

1 )原発性アルドステロン症

アルドステロン産生腺腫は2cm以下の小さなものが多く,悪性病変は極まれであるために外科切除の良い適応である。しかしCT,MRIで腫瘍を認めたとしても,それが責任病変とは断定できず,対側のマイクロアデノーマが原因であることもしばしば経験されるため,現状では副腎静脈サンプリングによる局在診断が最も信頼性が高いと思われる。核医学的検査ではデキサメサゾンによるACTH分泌抑制下において131I-adosterolが集積すれば機能性腺腫と診断される。しかしマイクロアデノーマ等の小病変では検出感度が低く注意が必要である。

2 )クッシング症候群

原因が副腎腫瘍である場合は外科的治療の対象となる。マイクロアデノーマはまれであり,一般的にその径は2-3cmであることが多く,CTで低吸収腫瘤として存在が確認されればコルチゾール産生腫瘍の可能性が濃厚となる。しかし下垂体性クッシング症候群(クッシング病)に非機能性腺腫が合併している可能性もありうるので,機能診断も行うことが望ましい。131I-adosterolで集積を認めれば機能的局在診断が確定する。腺腫によるコルチゾール過剰分泌によるネガティブフードバックにより下垂体からのACTH分泌は抑制されており対側の正常副腎は描出されない。

3 )偶発種

臨床的に内分泌学的異常がなく,副腎以外の検索目的の画像診断で偶然指摘された副腎腫瘤性病変を偶発腫と呼ぶ[9]。多くは単純CTで指摘され,副腎皮質腺腫が大部分を占める。外科的切除の対象となる病変はホルモン産生腫瘍であるか,悪性病変である場合である。80%が非機能性腺腫,5%がコルチゾールを自立性に分泌してはいるがその量が軽微なプレクリニカルクッシング症候群,5%が褐色細胞腫,1%が原発性アルドステロン症に伴う機能性腫瘍,5%未満の副腎癌,2.5%の転移性副腎腫瘍などがある。その他としては神経節細胞腫,脊髄脂肪腫や良性囊胞がある。

精査は内分泌学的検索と画像診断の組み合わせで行われる。腺腫の診断は細胞内脂質の含有をみることでなされ,単純CTで境界明瞭な低CT値(10HU未満)の腫瘤であればほぼ診断が確定する。MRIでは化学シフト像でin-phase,out of phaseの信号変化から僅かな脂肪成分も検出できる。塊状の脂肪成分がある場合には骨髄脂肪腫が疑われる。造影CTでは造影直後に腺腫はよく染まり,10-15分後の後期像で50%以上の洗い出しがみられる。一方,副腎癌や,転移,褐色細胞腫では洗い出しが軽度である。皮質腺腫でない場合は更なる精査が必要となり,特に悪性病変の鑑別が重要となる。腫瘍サイズは重要な因子であり,4-6cm以上であれば悪性を考慮する必要があり,良性と判定できない場合は切除の対象となると考えられる。CTやMRIにて特徴的所見が判然とせず,褐色細胞腫や,腺腫の同定または除外をしたい場合にはそれぞれ123I-MIBG, 131I-adosterolの集積の有無を確認する (図7)

図 7 .

99mTc-MIBI SPECTとMDCT 融合画像

99mTc-MIBIシンチグラフィ平面像(a)で右上副甲状腺腫大が指摘できる。MDCTのボリュームレンダリング画像と99mTc-MIBI SPECTの融合画像(b)により,右上副甲状腺に下甲状腺動脈が前側から上行して注いでいるのが明瞭に認識できる。(北光記念病院中駄邦博先生のご厚意により拝借)

副腎は転移の好発部位であり,剖検で癌患者の3割弱で転移がみられるとされる。一方担癌患者における副腎腫瘤の3-4割程度が転移である。副腎転移の頻度が高いものとしては肺癌,乳癌,悪性黒色種があげられ,他に腎癌,膵癌,甲状腺癌,結腸癌,悪性リンパ腫等がある。所見は非特異的なものであるが,両側性であれば転移の可能性が高い。一般的にはある程度大きくなるとCTで不均一な不整形の腫瘤で不均一に造影される。MRIではT1強調像にて低信号,T2強調像にて不均一な高信号を呈し急速に造影され,造影効果が持続する。FDG-PETでは転移であればほぼ異常集積を示し,偽陽性が少なく,CT,MRIで判断できない場合は施行する価値がある[10]

【文 献】
 

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