内分泌外科の分野で副腎腫瘍の臨床は重要な分野である。甲状腺疾患に比べれば外科的治療の対象となる症例数は少ないが,疾患の内容は非常に多彩で特徴に富む腫瘍が多く存在する。副腎腫瘍の臨床は,それぞれの疾患の特徴をよく理解して検査計画,治療計画を立てることが肝要である。
この特集では,副腎腫瘍に関して最近の動向を把握できるようなトピックスを選んで企画した。これだけで網羅されるものではなく,あくまで副腎腫瘍の臨床アップデートの一端を紹介するということになるが,執筆者はおのおののタイトルに造詣の深い方ばかりで,熱い気持ちが伝わってくるのではないかと思う。
副腎腫瘍の臨床に関連して,副腎手術の歴史を簡単に振り返ってみる。副腎摘出術に最初に成功したという報告は,ロンドンのKnowsley Thorntonが1889年に行っている。患者は男性化副腎腫瘍の36才女性で,腫瘍は9kgあり腎臓合併切除が必要であったが2年後に再発するまで生存した。褐色細胞腫の手術成功例はThorntonの報告から37年後,スイスのCésar Rouxと米国のCharles Mayoによって1926年に報告されているが,その後も褐色細胞腫の手術は術中の異常高血圧・不整脈・術後低血圧などきわめて危険性の高い手術と認識されていた。その後アルファブロッカーの開発・臨床への応用がすすみ,徐々に褐色細胞腫も安全に手術が行われるようになってきたが,筆者らが医師になった1970年代はまだまだ危険な手術と強く認識されていた。1970年頃はCTスキャンが開発される以前で,副腎腫瘍の局在診断として副腎静脈造影・採血が進歩した時期である。原発性アルドステロン症やクッシング症候群のように腫瘍径が5cm以下の場合,左右どちらに腫瘍が存在するかを診断することは非常にむずかしかった。局在診断ができない症例は経腹的に前方からアプローチし,左右副腎を触診して責任病変を手術中に同定していた。経腹的前方アプローチは,特に肥満のクッシング症候群では合併症が頻発するような状況であった。そのため副腎静脈造影・採血で左右を確定でき,後腹膜経由でより安全に手術できるようになったことは副腎外科にとって大きな進歩であった。その後CTスキャンが開発され副腎腫瘍の局在診断は容易となり,同時に副腎インシデンタローマという概念が誕生した。1992年にわが国で世界に先駆けて腹腔鏡手術が開発されるまで,後腹膜アプローチが副腎手術の主流であった。腹腔鏡手術にもいろいろなバリエーションが開発されているが,日本内視鏡外科学会のアンケートによると,気腹による経腹的アプローチが多数を占め,後腹膜アプローチ・つり上げ式・ハンドアシスト法などは少数にとどまっている。
以上のように副腎外科の歴史において,数多くの検査や治療法が開発され試されてきたことがわかる。開発された当初は非常に期待された検査や治療であっても,いろいろな理由で普及しなかったものもある。ある施設から非常に良い成績が報告されても,それがあまりに高度な技術を必要とするものであれば,追試をしても同じ成績は得られず普遍的な診療にはならない。成績が少し劣るものであっても,従来のものに比べれば良好な結果が得られ,どこでも誰でもできる診療内容であれば広く普及する可能性がある。
今回の特集では副腎腫瘍の臨床において現在開発が進行中のもの,あるいは古くからの課題であるもののまだ決定打のないものなどについて専門家に執筆いただいている。今後の展開は誰にもわからないが,読者がおのおのご判断いただき今後の診療の参考にしていただければ幸いである。