抄録
一般的に予後の良い甲状腺乳頭癌に対しては可及的に甲状腺を温存する手術を行って甲状腺機能を維持し,骨密度低下の懸念もあるTSH抑制療法は積極的には行わないという治療方針は,日本では主流であったが,欧米のガイドラインとは相反する。われわれの方針の妥当性を立証するためにTSH抑制療法の乳頭癌に対する再発抑制効果についてのランダム化比較試験を行った。患者登録開始から13年を要したが,無再発生存率においてTSH抑制療法非施行群の成績は,施行群に比較して10%以上劣っていないことが証明され,5%以上劣っていないことが示された。また,ランダム化試験に並行してTSH抑制の骨密度に及ぼす影響についての前向き比較試験を施行した。その結果,とくに閉経後女性ではTSH抑制による骨密度低下が顕著となる傾向があることが示された。これらの研究を通じて気づいた,高位のエビデンスを得るための研究を日本から世界に発信するうえで必要なことについて述べる。